安保法制100の論点

日本平和学会 「安保法制100の論点」について

 いわゆる「安全保障関連法案(安保法案)」は、第3次安倍政権が2015年5月に閣議決定して後、国会のみならず広く日本社会で議論の焦点となっている法案である。この法案は、これまでの日本の安全保障政策を大きく変更するものであるだけでなく、多くの憲法学者が指摘するように、日本国憲法違反である可能性が高い。さらに、当該法案は、自衛隊法、国連PKO協力法、周辺事態安全確保法をはじめとする合計10もの安全保障関連法の一括改正を目指すものであり、その対象となる争点の多さに比して、個々の争点に対応した具体的な検討や議論は、国会においてもまだ十分になされているとは言い難い。この「安保法制100の論点」は、日本平和学会としてこの問題が本来内包する無数の論点を数え上げ、暫定的な議論の整理をしたものであるが、その端的な趣旨は、当該法案の是非以前に、それを判断するための前提として、きわめて多くの検討すべき論点が未だに存在するという事実を広く確認することにある。

 この試みを進める上では、君島東彦会員と川崎哲会員が主任を務めるワーキング・グループをつくり、阿部浩己会員、堀芳枝会員、清水奈名子会員がグループの委員として論点を提起・整理し、執筆者の選定等を行った。この執筆者には、個々の論点を議論する上でもっともふさわしいと思われる会員が選ばれた。したがって、個々の論点についての見解は、学会の「統一見解」ではなく、あくまでも個々の執筆者に帰するものである。

 日本平和学会は、1973年に設立されて以来、特定の政治的立場を超えた、現代に生きる万人にとっての平和の条件を科学的に探求すべく議論を積み重ねてきた。しかし、「積極的平和主義」の掛け声の下に進行する現行の事態については、その方向性の是非にかかわらず、現在最低限の学問的熟議や論理的検討が必要不可欠となっているという認識に立つものである。この「100の論点」が、安保法制やより広く日本の平和問題について、今後広範に展開すべき国民的議論の一助になれば幸いである。


日本平和学会第21期会長 佐々木寛


2015年8月15日現在

日本平和学会「安保法制 100の論点」(論点リスト)

 

日米関係と東アジア

1. 戦後の日米関係を、いまどのように評価できるでしょうか。(油井大三郎)

2. 砂川事件とは何だったのでしょうか。(水島朝穂)

3. 「60年安保改定」「60年安保闘争」とは何だったのでしょうか。(我部政明)

4. 戦後日本の「専守防衛」政策はどのようなものだったのでしょうか。(内藤 酬)

5. 戦後日米関係の中で沖縄は何だったのでしょうか。(小松 寛)

6. 湾岸戦争後、日米安保体制はどう変わってきたのでしょうか。(内藤 酬)

7. 「日米安保村」、アーミテージ報告とは何なのでしょうか。(菅 英輝)

8. 沖縄と米軍基地の現状はどうなっているのでしょうか。(鳥山 淳)

9. 北朝鮮と日本との関係はどうなっているでしょうか。(吉澤文寿)

10. 韓国と日本との関係はどうなっているでしょうか。(吉澤文寿)

11. 「中国の台頭」をどのように考えればよいのでしょうか。(孫 占坤

12. 現在の米国の安全保障戦略はどのようなものでしょうか。(菅 英輝)

13. いま米国と中国の関係はどうなっているでしょうか。

14. 中国と日本との関係はどうなっているでしょうか。(高原明生)

 

世界の紛争と暴力の現状

15. 世界の軍事費と軍事産業の現状はどうなっているでしょうか。(佐渡紀子)

16. テロリストとはどのような人びとなのでしょうか(佐伯奈津子)

17. イスラエル/パレスチナ問題の現状について教えてください。(金城美幸)

18. 「イスラーム国」とは何でしょうか。(酒井啓子)

19. 対テロ戦争とは何でしょうか。(大津留(北川)智恵子)

20. 貧困と紛争・テロとの関係をどのように考えるべきでしょうか。(武内進一)

 

安倍政権の「軍事化」政策

21. 安倍政権の基本政策として「積極的平和主義」という言葉をよく聞きますが、これは何なのでしょうか。(君島東彦)

22. 「戦後レジームからの脱却」とは何を意味するのでしょうか。(進藤 兵)

23. 日本会議とは何でしょうか。(勝村 誠)

24. 防衛装備移転3原則、安保法制、ODAの軍事化──いわゆる3本の矢──について説明してください。(川崎 哲)

25. 安倍政権の「軍事化」政策と日本経済の関係はどうなっているのでしょうか。(阿部太郎)

26. 日本の学術研究の「軍事化」の現状はどうなっているのでしょうか。(沢田昭二)

27. 安倍政権の教育政策をどのように評価しますか。(竹内久顕)

28. 安倍政権の女性政策をどのように評価しますか。(堀 芳枝)

 

国際社会から見る安保法案

29. 2015年の日米防衛協力の指針(ガイドライン)とは何でしょうか。(梅林宏道)

30. 国際政治学の立場から安保法制をどのように評価しますか。(石田 淳)

31. 国際法学の立場から安保法制をどのように評価しますか。(西 平等)

32. 国連憲章において、集団的自衛権はどのように位置づけられるのでしょうか。(桐山孝信)

33. 集団的自衛権はこれまでどのように行使されてきたのでしょうか。(清水奈名子)

34. 最近の国連平和活動報告書(2015年6月16日)の内容も含めて、国連平和活動はいまどうなっているでしょうか。(篠田英朗)

35. 国連PKOは平和の創出に役立っているのでしょうか。(米川正子)

 

安保法案の問題点──内容

36. 日本国憲法の平和主義はどのようなものでしょうか。(古川 純)

37. 2014年7月1日の閣議決定はどのようなものでしょうか。(川崎 哲)

38. 安保法の全体を簡潔に説明してください。(永山茂樹)

39. 自衛権行使3要件の変更は憲法上可能なのでしょうか。(永山茂樹)

40. 「存立危機事態」とは何でしょうか。(麻生多聞)

41. 「後方支援」とは何でしょうか。(麻生多聞)

42. 安保法案によって可能になる自衛隊の活動は他国の武力行使と一体化しないのでしょうか。(澤野義一)

43. 「武力の行使」と「武器の使用」の違いは何でしょうか。(常岡せつ子)

44. 安保法案のもとで日本はイラク戦争のような戦争に自衛隊を派遣するのでしょうか。(河上暁弘)

45. 自衛隊員の武器使用権限の拡大は何をもたらすのでしょうか。(大野友也)

46. 法案に規定されている国会承認は歯止めになるのでしょうか。(河上暁弘)

47. シビリアン・コントロールは維持されるのでしょうか。纐纈 厚

48. 安保法案は自衛隊員にどのような変化、インパクトをもたらすでしょうか。(前田哲男)

49. 安保法案の成立後、徴兵制が導入される可能性はありますか。(市川ひろみ)

50. 安保法案は紛争地で活動しているNGOに負のインパクトを与えないでしょうか。(高橋清貴)

51. 安保法制のもとで、国民の「協力」「動員」はどうなるでしょうか。(池尾靖志)

 

安保法案の問題点──手続

52. 特定秘密保護法について説明してください。(大野友也)

53. 法案の国会審議のあり方は議会制民主主義に反していないでしょうか。(永山茂樹)

54. 今回の法案のような憲法解釈の変更は憲法上可能でしょうか。(浦田一郎)

55. 安倍政権のやり方は立憲主義に反していないでしょうか。(阿部浩己)

56. 安保法案が成立した場合、その憲法適合性を争うために、どのような憲法訴訟が可能でしょうか。(稲 正樹)

57. 安保法案が成立した場合、日米関係はどうなるでしょうか。(我部政明)

58. 安保法案が成立した場合、憲法改正問題はどうなるでしょうか。(浦田一郎)

 

安全保障のとらえ直し

59. 安全保障とは何でしょうか。(佐々木寛)

60. 安全保障のディレンマとは何でしょうか。

61. 国境とは何でしょうか。(古川浩司)

62. 抑止力とは何でしょうか。(黒崎 輝)

63. 沖縄の駐留米軍は日本が他国から攻撃されないための抑止力になっているのでしょうか。

64. 軍事力に依存する考え方と女性の地位はどのような関係にあるのでしょうか。

65. 武力紛争において女性に対してどのような暴力が行使されるでしょうか。(高良沙哉)

66. 人間の安全保障とは何でしょうか。(日下部尚徳)

67. 批判的安全保障研究とは何でしょうか。

68. 世界の核軍縮をめざす動きは、いまどうなっているでしょうか。(川崎 哲)

69. 原子力発電所は安全保障の観点からみてどのような問題を提起するでしょうか。(蓮井誠一郎)

70. 現在も続く核抑止政策のもとで、犠牲になってきたのは誰なのでしょうか。(竹峰誠一郎)

 

歴史から見る安保法案

71. 日本はなぜアジア太平洋戦争に突き進んでいったのでしょうか。(伊香俊哉)

72. 靖国神社とは何でしょうか。(李 泳采)

73. 民族差別・他民族蔑視とアジア太平洋戦争はどのような関係にあったのでしょうか。(内海愛子)

74. ナチスの台頭から何を学ぶべきでしょうか。(木戸衛一)

75. 政府による言論統制と戦争遂行の経験から何を学ぶべきでしょうか。(木村 朗)

 

戦争責任・戦後責任

76. ドイツの戦争責任の果たし方から何を学ぶべきでしょうか。(木戸衛一)

77. 日本はこれまでどのように戦争責任を果たしてきたでしょうか。(内海愛子)

78. 日本がアジア太平洋戦争の加害責任を果たすことが日本の安全を高めるのではないでしょうか。(林 博史)

 

東アジアの共通の安全保障

79. ヨーロッパにおける共通の安全保障の追求の経験 - OSCEなど - から何を学べるでしょうか。(吉川 元)

80. 北欧における安全保障の特徴は何でしょうか。わたしたちはそこから何を学べるでしょうか。(大島美穂)

81. 東北アジア非核兵器地帯はどのようにして可能でしょうか。(佐藤史郎)

82.平和をつくる主体、住民の安全を守る主体としての自治体の役割・可能性について教えてください。(池尾靖志)

83. 東アジアにおける市民外交にどのような可能性があるでしょうか。(五十嵐誠一)

 

軍事力依存の縮減

84. 軍事力に依存しない安全保障の例として、コスタリカの経験について教えてください。(澤野義一)

85. 核兵器に依存しない安全保障政策の例として、ニュージーランドの経験について教えてください。(上村直樹)

86. 世界各地にある非核兵器地帯条約およびモンゴルの「一国非核地位」について教えてください。(黒澤 満)

87. 非武装の文民による平和維持、住民保護とはどのようなものでしょうか。(君島東彦)

88. 平和への権利、平和的生存権とは何でしょうか。(飯島滋明)

 

平和をつくる人々

89. 草の根の人々はどのように安全を保障し、平和をつくってきたのでしょうか(小田博志)

90. 戦後日本の平和運動はどのようなものだったのでしょうか。(藤原 修)

91. 憲法9条をめぐって、どのような憲法訴訟があったのか、教えてください。(稲 正樹)

92. 沖縄の平和運動はどのようなものだったでしょうか。(大野光明)

93. 平和を求める芸術家、文化人の活動にはどのようなものがあるでしょうか。(奥本京子)

94. 関係当事者の対話による関係修復をめざす修復的正義とは何でしょうか。(片野淳彦)

95. メディアと戦争と平和の関係について説明してください。(繁沢敦子)

96. 戦争のリアルを語る体験者の役割について教えてください。(神 直子)

97. 戦争体験を次の世代が共有するための装置──平和博物館──について教えてください。(安斎育郎)

98. 暴力を克服し、平和をつくるために、大学、研究者、知識人はどのような役割を果たせるでしょうか。(清末愛砂)

99. 市民運動の世界的な連帯の可能性について教えてください。(毛利聡子)

100. SEALDsとは何でしょうか。(五野井郁夫)

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コメント: 1
  • #1

    長沼 敏彦 (日曜日, 16 8月 2015 17:11)

     私は平和を願う一市民です。戦後の生まれですが、平和を議論するには
    その対極である戦争がいかなるものであったかをまず知る必要があると考え、
    個人的に調べています。
     誰がどういう説明をしようとも、戦争は絶対悪です。つまるところ単に
    人殺しにすぎません。それも国民の望まない国家間の強制的な人殺しです。
    特に、近代戦争は悲惨です。大量破壊兵器対生身の人間の構図で、民衆を
    巻き込み、被害者が加害者となり、加害者が被害者となります。復讐の連鎖
    が始まると、行きつくところまでいかないと止められません。戦争はテレビ
    ゲームではありません。生身の人間が相手で自分も標的になるのです。
     誰が得をするかというと兵器産業と生活物資を提供する企業で、当事国は
    いずれも大きな痛手を受けます。

     戦争を防ぐには、平和路線、平和外交しかありません。
    戦争は絶対に起こさないように、戦争の芽が少しでもあれば、我々の手で
    摘み取らねばなりません。日本は悲しい戦争を経験しましたが、尊い犠牲の
    もとに、今は平和の守り神たる日本国憲法があり、島国で陸続きの国境が
    ないなど非常に恵まれた条件にあります。日本は、世界に模範的な平和路線を
    示すことのできる稀な国であり、そうするのが世界と次の世代の人たちに
    対しての我々の義務だと強く思います。