<北海道・東北> 北海道・東北地区研究会

地区研究会主催行事(開催済み)

「「恵庭事件」判決50年 今まで、そしてこれから~若い主権者につなぐために~」

と き:2017年3月11日13:20-16:50

ところ:北海道教育大学札幌駅前サテライト

上記研究会を開催いたしました。約30名の参加者が熱心に耳を傾けてくださいました。以下で内容と感想をご報告いたします。

 1962年に、自衛隊島松演習場における騒音被害への抗議・対策の一環として、隣接する牧場経営者の野崎兄弟が演習用通信線を切断したことで、自衛隊法違反のかどで起訴されたのが恵庭事件です。裁判では切断行為そのものよりも、自衛隊の合憲性の議論に重点がおかれ、被告人の支援のために弁護士、研究者、ジャーナリストが力を合わせ(「弁論・理論・世論の三論一体の平和的結集力」深瀬忠一)、その裁判過程において「平和的生存権」の理論が発展していったとのことです。札幌地裁で1967年に判決が言い渡され、被告人は無罪となりますが、自衛隊の合憲性の判断は回避されました。

 被告人の支援にあたったアクターの多面性に応じて、今回の研究会でも憲法学から飯島滋明さん(名古屋学院大学教員)、法曹から佐藤博文さん(弁護士)、報道から徃住嘉文さん(報道記者)が、前田さんの解説に続きご報告いただきました。また会場には事件の当事者の野崎健美さんもいらっしゃりご発言されました。

 お話を伺うことで感じたのは、恵庭事件と現代とが直結しているということでした。むしろ状況はより厳しくなっている。自衛隊の合憲性を問う声はかつてほど強くなく、辺野古新基地建設に抗議する山城博治さんは約5か月もの間勾留されました。

 私たちが幸福に平和に生活をする権利を、国家とその暴力装置に抗して、「主権者」としていかに確立・実現していくのか。この問いを、恵庭事件で発展した「平和的生存権」概念および、国連で昨年採択された「平和への権利」概念と結びつけながら考えていくことはアクチュアルな課題だと実感することができた、有意義な研究会でした。

 その一方でこの地区研究会ではそのテーマ設定のために論じらませんでしたが、7月の研究大会テーマ「植民地主義と憲法を北海道/アイヌモシリで問い直す」と関連があることを付け加えておくとそれは、

「私たちは他者が幸福に平和に生きる権利を奪ってきた側でもあるのではないか」

という認識です。

 恵庭事件の被告人は、自衛隊により平和的生存権が奪われた側と言えます。しかし彼らの牧場は、アイヌ民族が生きてきた土地を日本政府が植民地化により奪うことで成立したものでもあります。かつて深瀬忠一先生が、そして現在筆者(小田)が勤務し、平和学会北海道地区のメンバーの多くも学んだ北海道大学札幌キャンパスは、明治初めまであったアイヌの集落「サクシュコトニ・コタン」の上に建てられたものです。そのコタンで平和に生きていた人たちは、半ば強制的にその生活の場を奪われました。

 この苦い「植民地主義の認識」をいかに「平和的生存権」の理論に統合し、深めるのかが、今度の研究大会のテーマとなるはずです。

また、「主権者」とは誰か?「日本国民」か?その場合、植民地主義的な強制同化政策によって「日本国民」にさせられたアイヌ民族の「主権者」性をどう捉えるのか?国民国家を前提とした従来の憲法論に植民地主義批判の視点をどう統合するのか?こういった論点が出てくると思います。

                          (文責:小田博志)

 

北海道・東北地区研究会後援行事

アイヌの遺骨はコタンの土へ 歴史的な再埋葬を語る集い

「コタンの会」は2016年7月15日~17日、北海道浦河町杵臼で「返還遺骨を迎えるカムイノミとイチャルパ」を開催し、北海道大学医学部によって持ち去られたままになっていたアイヌ遺骨12箱分を、八十数年ぶりに元の墓地に再埋葬しました。アイヌプリ(アイヌの流儀)による葬送儀式には内外から大勢の市民が参列し、慰霊とともに、遺骨たちがなぜ墓地から掘り出されなければならなかったのか、今なお大学に留め置かれたままの大勢の遺骨をどうすべきなのか、加害責任をどう償えばいいのか、それぞれ思索を深めました。経過をふり返りながら自由に意見を交わします。

 

日時 2016年11月25日(金曜)18:00~21:00

会場 北海道クリスチャンセンター 札幌市北区北7条西6(電話 011-736-3388)

共催 コタンの会/北大開示文書研究会

協賛 北海道クリスチャンセンター/日本基督教団北海教区アイヌ民族情報センター/週刊金曜日

後援 少数民族懇談会/日本平和学会北海道・東北地区研究会/カトリック札幌地区正義と平和協議会/国民救援会北海道本部/苫小牧民報社/毎日新聞社/読売新聞社/北海道新聞社/朝日新聞社

入場料 500円(資料代として)

 

プログラム

はじめに 清水裕二さん(コタンの会代表)

DVD上映 「85年ぶりの帰還 12人の遺骨が杵臼コタンへ」コタンの会製作、18分

第1部 杵臼再埋葬を語る

  小川隆吉さん(遺骨返還請求訴訟原告)、小川トシ子さん、高月勉さん、山崎良雄さん、葛野次雄さん、葛野大喜さん(以上コタンの会)、市川守弘さん(弁護士)、小田博志さん(北海道大学教授)ほか

第2部 討論 遺骨返還から先住権の回復へ

  コーディネーター殿平善彦さん(北大開示文書研究会共同代表)

チラシへのリンク:http://hmjk.world.coocan.jp/symposium/2016sapporo/flyer.pdf

 

先住民にサケを獲る権利はあるか?

チャールス・ウィルキンソン講演会「基本的かつ普遍的に認められる先住民の主権について~アメリカにおける先住民の主権とサケ捕獲権~」

とき:2016年7月30日(土)13:30~16:00(13:15開場)

ところ:札幌市教育文化会館(札幌市中央区大通西13丁目)

共催:北大開示文書研究会、コタンの会、日本平和学会北海道・東北地区研究会

後援:在札幌米国総領事館

併催 「85年ぶりの帰還 12人の遺骨が杵臼コタンへ」(コタンの会製作、15分)上映 

 講演会の趣旨:先住民族の「権限」とは、いったいどんな規模のものでしょう? 伝統文化を伝えるだけ? サケなど地元の自然資源を自由に利用する権利は含まれる? アメリカ合衆国では、各地のインディアン・トライブがそれぞれ独自の憲法を持ち、裁判所を持ち、警察権を持ち、というように、地方自治体である「州」と同等の権限を有する、とはっきり認識されています。では、日本の先住民族アイヌの場合は……? インディアン・トライブの先住権回復をライフワークとされてきたC. ウィルキンソン教授をお招きして、あるべき姿を学びます。

 講演者の紹介:Charles Wilkinson。1963年、デニソン大学卒業。スタンフォード大学ロースクール卒業。アリゾナ州フェニックス、カリフォルニア州サンフランシスコでの法律事務所勤務の後、「ネイティブ・アメリカン・ライツ・ファンド(アメリカ原住民権利基金)」専属弁護士、オレゴン大学ロースクール、ミシガン大学ロースクール、ミネソタ大学ロースクールを経て現職。専門はアメリカ西部の歴史と社会、インディアン法、公有地法、水法など。

 講演録へのリンク:http://hmjk.world.coocan.jp/wilkinson/wilkinson.html

 

北海道・東北地区研究会 2016年度第1回研究会 報告

とき:6月9日(木)午後6時~9時

ところ:みんたる

参加者:13名

 

プログラム

報告1 阿知良洋平(室蘭工業大学 講師)

「生活をつくりながら平和の価値をつかむ学び-そのあり方と現局面での意義」

報告2 報告:朴仁哲(北海道大学 専門研究員)

「チョソンサラムを見出すまでのプロセスを振り返って―朝鮮人「満州」移民体験者へのインタビュー調査を中心として―」

打ち合わせ

 

 

 最近博士号が授与されたばかりの2人の若手研究者の報告を聞き、討論を行った。北海道における平和研究の勢いを実感することができた。非会員4名を含め、13名で活発な討論と意見交換が行われた。話し合いでは、今期の地区研究会の予定として、北海道と植民地主義をテーマに業績を発表している研究者を招いて研究会を開くことを決めた。また7月の参院選後に予想される「改憲」の動き、特に緊急事態条項導入の動きに対し声明を発表するなどして積極的に対抗していくこと、および本年5月に陸上自衛隊然別演習場で起こった実弾の「誤射事故」に対して地区研究会として声明を公表することなどを確認した。 (文責・小田)

 

2014年度北海道・東北地区フィールドワーク付き合宿研究会

日   程:2014712日~13

訪問先:白老町、登別市、室蘭市

712日:白老町・登別市】

アイヌ民族博物館知里幸恵銀のしずく記念館の見学。

宿泊先で、翌日のフィールドワークに関連する情報の共有、および今年度の研究会テーマ「脱植民地化と北海道」について論議。

 713日:室蘭市】

室蘭市で①中国人強制連行・強制労働、②艦砲射撃・空襲、③自衛隊関連施設の誘致に焦点をあてたフィールドワークを実施する。また、平和活動に長年かかわってきた地元の市民活動家との交流会も行う。

中国人強制連行事件北海道訴訟の支援

*総務省:一般戦災ホームページ

 室蘭市における戦災の状況

[日本平和学会北海道・東北地区 協賛行事報告]

 北海道・東北地区研究会が協賛団体となって、118日に札幌で、「紫金草物語」という合唱曲のコンサートが開催された。

 「紫金草物語」とは、日中戦争の中で起こった南京大虐殺事件に関する合唱朗読構成である。歌ったのは、日本各地(東京、府中、千葉、石川、大阪、奈良)で「紫金草合唱団」に加わっているアマチュアの人たちであった。この「紫金草物語」は山口誠太郎という薬学者の人生に材を取っている。この人物は戦時中、陸軍薬剤科少将として南京に赴任した際、荒廃した有り様に胸を痛め、現地で咲く紫色の花(紫金草)の種を持ち帰った。そして虐殺の犠牲者への鎮魂の思いから、茨城県石岡市の自宅から始めて日本各地にその種を蒔く運動をした。その結果、春先には、日本に自生していなかった紫色の花が、例えば東京の山手線沿線や千鳥ヶ淵で咲くようになった。

 このことを知った東京の元小学校教諭・大門高子さんが合唱曲の詩および『むらさき花だいこん』という絵本を書き、また合唱曲を歌うグループが各地に結成されていった。この紫金草合唱団はこれまで南京や北京でも数々の公演をしており、歌・アートを通した歴史和解の活動としても注目される。

 さて、当日の昼間に、小田が担当する授業「人類学と平和」でまずコンサートが開かれた。普段の教室の中で、40人以上のメンバーの歌声が響いた。紫金草合唱団の方々は、若い人たちに聞かせたいと願ってきたが、これが初の大学でのコンサートとなった。演奏の後の質疑応答では、空襲や満州からの引き揚げなど苛酷な戦争体験のある何人かの団員が、だからこそ加害と侵略の歴史をみつめ、この合唱団に参加しているのだと語った。これは平和教育としても、世代間対話としても非常に説得力があった。その後北海道クリスチャンセンターでも一般向けコンサートが開催された。表立った宣伝をせず、もっぱら口コミで広めたのみだったが、会場は満員となった。

 この企画に関わってみて、いかにクリエイティブに平和をつくることができるのかに目を開かされると共に、平和学会と市民の平和活動との共働としても手応えを感じた。

(前期地区研究会代表者 小田博志)