『平和研究』第55号企画趣旨
今、平和にとって「国民」とは何か
中村 都(追手門学院大学)
中野裕二(駒澤大学)
「国民」の創出、そして国民統合は、グローバル化の進む今日においても、平和の構築や維持・発展とならび、国民国家の最重要の課題であり続けている。これは、地球を覆うに至った、多種多様な国民国家の人工的性格によるところが大きい。その理念と現実の乖離は甚だしく、国家による「国民」創出--言語・教育政策や徴兵制等での文化的同質性の共有、地域・民族・宗教・身分の差異に依らない政治的に平等な処遇等--には、先住民や少数民族、地方言語使用者等マイノリティの文化や自由の抑圧が伴った。「国民」は必ずしも平和裡に創出されたわけではない。
経済のグローバル化は国民国家の領域性を減じ、植民地なき植民地主義を拡大し、平和を堀崩してゆく。移民はグローバル化の結果かつ推進力である。欧米先進諸国は、1990年代以降、こうした移民の比率の上昇や難民受け入れ拡大に対し、国民統合の「危機」を認識し始めた。その結果、単一的な国民文化が「危機」に陥り、国民文化の取り戻しが必要として「再国民化」を主張し、福祉国家の維持のために福祉の対象の「国民」への限定を正当化している。こうした動きは、排外主義的な言説や暴力を伴うことも少なくない。
国民統合の1つのあり方としての多文化主義はまた、近年まで先住民を移民・他民族と同列に処遇するなど、弱者にとって必ずしも平和を意味するものではない。
グローバル化の影響は地域的・階層的に著しく不均等に現れる。移民送出地アフリカの諸国家は、独立後半世紀以上を経た現在も国民統合を課題とする。他方、経済成長や社会の活性化のために積極的に移民や外国人の導入を図る国家においては、多文化主義を国是とする国であっても、国民であることの意味が問われる状況が現出している。逆に、国民を経済的資源として国外に積極的に送り出す国家もあれば、「理想の」国家を求める政治によって国境内の一部の国民に対し暴力(追放や武力行使)によって「浄化」を図る国家もある。
「国民」は、多民族の「国民国家」によって、さまざまな水準・形態の「力」の行使を伴いつつ創出されてきた。「国民国家」および「国民」は動態的であり、その文化や社会、思想(欧米的価値観、新自由主義、リベラリズム等)、また、国家権力との闘争を経て国民が獲得したと言いうる自由や平等は決して本質的ではない。
しかるに、一部の国家は、特定の「あるべき国民国家」を規範視して、「再国民化」や”「国民」の強調”の政治を正当化する一方、より高度な経済成長に向け外国人の増加策を追求する。また、「国民であること」が平和裡の生存に結びつかない国家においては、その意味が見いだせず、あるいは、紛争や国家による武力行使等によって、国民が出国を選択せざるを得ない国家も少なくない。
地球規模のこうした現象は、「国民」であることと平和の享受との関係の問い直しをわれわれに迫る。被治者である国民は、国民であることを国家が意味づけし再構築を図る政治に異議申し立てを行い、その意味を自由に選び取る手段は持ち得ないのか。国民であることは平和の享受、平和の構築や維持に、どのような意義を持つのか。
本号は、こうした認識を背景に、「今、平和にとって「国民」とは何か」を特集テーマとする。
<投稿呼びかけ文>
2019年10月1日
『平和研究』編集委員会
つきましては、この特集テーマに関わる投稿論文を募集します。地域や具体的テーマを限定せず、広く特集テーマに関わる多様な視点からの研究や、理論研究など、多様な投稿を期待しております。ふるってご応募下さい。また、この特集テーマ以外にも、平和研究の発展に貢献する論文であれば、「自由投稿」の枠で投稿を受け付け、査読の対象といたします。
投稿された論文は査読のうえ、編集委員会が最終的な掲載の可否を決定いたします。
投稿書式:
完成原稿提出の際に確認されるべき投稿書式については、「日本平和学会『平和研究』投稿論文執筆要領」に準拠ください。字数上限は1万6000字です。
ワードもしくはテキスト形式でお送りください。
投稿資格:
「日本平和学会『平和研究』投稿規程」を御確認下さい。
投稿の申し込み締切:2019年12月31日
投稿申込み方法:
(1)論文仮題、(2)要約(1500字程度)、(3)希望する投稿枠(「特集」あるいは「自由投稿」)、(4)住所・携帯電話番号・メールアドレスを、下記の応募先までe-mailにてお送りください。なお、申込みの際には、受領の確認メールを返信いたしますので、万一、一週間以内に返信ない場合、再度ご連絡ください。
応募先:
『平和研究』第55号編集担当者:中村都(追手門学院大学)、中野裕二(駒澤大学)
heiwa55toukou(a)gmail.com((a)は、“@”におきかえてください。)
55号の原稿募集用のメイルアドレスを10月23日に作成しました。それ以前に公募の申し込みをした方は恐縮ですが、再度、このアドレスに送ってくださいますようお願いいたします。(2019年10月26日追記)
投稿完成原稿提出締切:2020年2月29日