日本平和学会2019年度春季研究大会
「『3・11』プロジェクトの歩みと低認知被災地での活動展開の意義」
茨城大学
蓮井誠一郎
キーワード:3・11、原発事故、学会の社会的責任、市民運動と科学、低認知被災地
はじめに
日本平和学会が「3・11」に対応するための組織としてプロジェクト委員会を立ち上げたのは、震災から3年が経過しようとしていた2014年1月だった。プロジェクトは「3・11」の多様な被災の中から、東京電力福島第一原子力発電所事故による被災を中心課題として取り上げた。委員会は、この被災を放射線問題と公害問題というふたつの構造的暴力の源泉を持つ問題として位置づけ、平和学の特性を活かせるような活動を志向して実践してきた。同時に、その目的として被災者への支援と、今後被害を受ける可能性のある人びとへの協力を目指してきた。
本報告は、これらがどの程度まで達成されたかを振り返りつつ、課題を整理し、今後の展開について検討する一助としたい。
1.プロジェクト委員会の設置とその活動の方法
・『平和研究』第40号『「3・11」後の平和学』において示されたこと(抜粋)
→平和研究の再出発
→「低認知被災地」という問題構築のあり方
→新しいエコロジー政治
→被災により見えてきた東北の位置づけとその後の展開
→「復興」に脅かされる「生命・環境のサステイナビリティ」
・2014年1月の委員会発足とその目的
→平和研究の新しい一翼を構築する
→被災者への支援と協力
→学会の外側との協力を模索する
・プロジェクトの歩みを年表で振り返る
・連続セミナー方式による課題の掘り出し
→被害の把握困難性が前提
→現場の声を聞くことの重要性
→その中から何が残ったか
2.学会の社会的責任としてのプロジェクトとその内部化
・科学(者)の社会的責任
→平和研究者としての責任
→ひとりの市民、親、被災者としての当事者意識
・平和学会がもつ社会的責任
→研究と運動の往還
→研究を教育にどう活用するか
→被災地の次世代が育つのを手伝う
→忘却のポリティクスへの対抗
3.活動から見えてきた新しい平和研究のあり方
・解決しない地域コンフリクトとどう向き合うか
→放射線量が低減すれば被災は終わるのか?
→汚染地図の更新と認知の低下とリスク評価ギャップ拡大
→低線量長期内部被ばくは多面的で多層的な暴力のひとつの側面
→記憶メディアとしての環境は使えるか
・平和学の重要な機能は暴力の発見とエンパワメント
→低認知被災地での活動は、そこに関係する人びとへの暴力の発見にある
→エンパワメントか支援か寄り添いか
4.おわりに:平和研究が対峙する新しい安全保障論
・環境と平和のパラダイムで開発と安全保障のパラダイムにどう対抗するのか
→開発も安全保障も次々と拡大深化を遂げているが、環境や平和はどうだろうか
→サブシステンスか市場かという二者択一ではなく、相手に取って代わる可能性のある緊張関係をどうつくり上げて維持していくかが問われる
参考文献
HASUI, Seiichiro, “An Emergence of Wisdom for Symbiotic Human Relationship: A case of Local/Regional Conflict in Negros, Philippines”, Paper presented at International Peace Research Association conference, Sydney, 2010 July 6-10, pp.1-15(A4 size).
木村競,蓮井誠一郎,伊藤哲司,京樂真帆子(2011):「地域コンフリクトの緩和」の新たな理解の開始,茨城大学教育学部,茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学・芸術),60,p.111-118.査読無
日本平和学会編『平和研究第40号:「3・11」後の平和学』早稲田大学出版部、2013年。
中川尚子・蓮井誠一郎・原口弥生「米・小麦・牛乳の放射能汚染と学校給食――すべての子どもを守るための具体的提言」『科学』82/8月号,2012年、847-853頁。
原口弥生・中川尚子・蓮井誠一郎「放射線問題に向き合う教育現場(前)」『月刊 高校教育』 2012年12月号(45/13)、78-81頁。