除染作業に従事させられた技能実習生

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日本平和学会2018年度春季研究大会

 

除染作業に従事させられた技能実習生

 

全統一労働組合書記長

佐々木史朗

 

はじめに

 東日本大震災による福島第一原発事故は、福間県内と近隣各県に広範囲な放射能汚染を引き起こした。事故から8年を経過した今も、除染処理がすすまず高線量に汚染されたままの地域が存在する。また、一時的に貯蔵された汚染土の再分別や移設などの除染作業は今後も継続される。除染作業は、放射線被ばくの危険を伴う作業であることから、厚生労働省により「除染電離則」(東日本大震災により生じた放射性物質により生じた土壌等を除染する作業等に係わる電離放射線障害防止規則)が定められ、健康被害を防ぐための安全対策が求められている。この除染作業に、ベトナム人技能実習生が従事させられるという事件が発覚した。日本の先進的技術を海外に移転することを目的とした国際貢献事業と喧伝されている技能実習制度で、被ばく労働が行われていたとの報道は、海外でも大きく報道された。全統一労働組合が取り組んだ2件の事例は、技能実習制度の歪んだ実態、技能実習生に対する深刻な人権侵害の事実を、あらためて浮き彫りにしている。

 

1.岩手県の建設会社(事例1)

 岩手県盛岡市の建設会社で働いたベトナム人技能実習生の例。契約した職種は「建設機械・解体・土木」だが、実際の作業の多くは郡山市内などの除染作業だった。除染電離則で必須とされた特別教育は行われず、放射線に対する基礎知識も教えられなかった。また、高線量のため立ち入りが禁止されていた飯舘村や川俣町山木屋地区の被災建物解体工事にも従事したが、環境省から支給されるはずの特別手当(6600円)のうち、2000円しか渡されなかった。被ばく線量を記録した放射線管理手帳も本人には交付されず、そもそも作業が危険であることも知らされていなかった。事件は2018年3月6日付の日本経済新聞で報道され、ベトナム国内にも衝撃を与えた。

 

2.除染作業禁止を通達

 岩手の建設会社の事件は、大きな反響を呼び、国会でも追及がなされた。事態を受けて、2018年3月14日、法務省・厚労省・技能実習機構は「技能実習制度における除染等の業務について」を公表し、「除染等業務は、一般的に海外で行われる業務ではないこと」、「放射線被ばくへの対策が必要な環境は、技能修得のための実習に専念できる環境とは言い難いこと」から、「技能実習の趣旨にはそぐわない」と通知した。さらに、政府はこの通知の内容を閣議決定し、ベトナムなど送出し国に対しても、技能実習制度と除染作業を切り離すことを表明した。

 

3.福島県の建設会社(事例2)

 福島県郡山市の建設会社で働くベトナム人技能実習生3人の例。技能実習生の除染問題が大きく報道され、自分たちの作業も除染であることを知った。3人は「鉄筋施行」「型枠施行」の職種で契約したが、実際には技術習得の機会はほとんど与えられず、郡山市と本宮市の住宅や山林の除染作業、さらに当時は住民の立ち入りが禁止されていた浪江町(福島第一原発の近隣)での配管作業等に従事させられた。彼らにも除染電離則が求める特別教育は実施されず、危険な作業とは知られていなかった。全統一労働組合に相談し、会社と団体交渉が行われたが、会社は浪江町での作業の詳細を開示せず、謝罪も補償も拒否するなど不誠実な対応に終始したため、東京都労働委員会において不当労働行為の調査がすすめられている。

 

4.法務省、技能実習機構による調査結果

 技能実習生の除染作業禁止の通達が出された後、法務省出入国管理局と外国人技能実習機構により、除染作業に関する実態調査が行われ、2018年10月19日、調査結果が公表された。法務省地方入管局は575社を調査した結果、岩手の建設会社を5年間の受入停止、郡山の建設会社を3年間の受入停止、その他2社に注意等の処分とした。技能実習機構は443社を調査したが、除染作業は認められなかった、とした。受入停止処分を受けた2社とも、全統一労働組合が取り組んだ事例である。それ以外には無かったのか? 実は、法務省の調査は、「汚染特別地域等」に所在する建設関係職種の企業が対象であり、東京都や他地域の建設会社は最初から除外されている。また、外国人技能実習機構の調査は、技能実習法が施行された2017年11月以降の管轄企業に限定したものであり、どちらも事故後の除染作業の全体を包括するものではない。はたして意味のある調査と言えるのだろうか?

 

5.新たな課題 特定技能と廃炉作業

 技能移転、国際貢献の建前とは裏腹に、一手不足の解消、単純労働受入の手段として機能させられてきた技能実習制度に替わるものとして、新たに「特定技能」が制度化された。新制度では、除染作業にとどまらず、原発構内の廃炉作業等にも、外国人労働者を投入することが明らなった。2019年3月20日に「特定技能運営要領」が公表され、「建設分野の受入基準」では、「同じ特定技能所属機関に雇用され,特定技能外国人と同様の業務に従事する他の技能者が従事している場合,特定技能外国人に同程度の範囲内で従事させることは差し支えありません」として、除染作業等の被ばく労働を容認し、東京電力も直ちに福島原発の廃炉作業をはじめ各地の原発で特定技能労働者を導入すると公表した。だが、特定技能の要件であるN4レベルの日本語能力で、はたして安全教育が可能なのか? 現場の作業指示が徹底されるのか? そもそも、帰国後の健康フォローに誰が責任を負うのか? 技能実習制度における除染作業禁止のたがが外され、さらに大きな問題が浮上している。多文化共生社会が現実のものとなるなかで、外国人労働者の人権をめぐる課題に、社会全体が直面している。