日本平和学会2019年度春季研究大会
「憲法と平和」分科会
朝鮮半島の平和への動き――2019平昌グローバル平和フォーラム参加報告
立命館大学国際地域研究所客員協力研究員・立命館大学国際関係学部授業担当講師
申 鉉旿(シン・ヒョンオ)
キーワード:平昌平和フォーラム、人権と平和、韓国における平和権、2019平昌平和決議案
I. 平昌平和フォーラムの趣旨について:「平昌で世界と共に平和を構想する」
1.平昌平和精神の世界化
・2018年は、朝鮮半島の現代史において、恒久的な平和定着のための歴史的転換の時であった。平昌冬季オリンピックは、その転換の出発点であった。
・2019平昌平和フォーラムは、世界の平和運動団体の代表、市民が集まって、朝鮮半島と世界平和のロードマップを討論する場である。朝鮮半島の分断は冷戦の結果であるので、分断を克服する平和は、世界と共に呼吸しながらつくられねばならない。
2. スポーツを通した平和
・2019平昌平和フォーラムは、平昌から始まった朝鮮半島における平和の気運がアジアを乗り越えて世界に拡散し、再び朝鮮半島に戻ってきて朝鮮半島に恒久的な平和体制が定着されるようにする大長征の出発点である。2019平昌平和フォーラムは、スポーツを通した平和実現というオリンピック精神を昇華させる市民のグローバルフォーラムである。この精神は、2020東京夏季オリンピック、2022北京冬季オリンピック、そして、2032ソウル・平壌オリンピック誘致につながり、市民がつくる平和を導くものである。
3.ハーグ平和アピール20周年
・2019平昌平和フォーラムは、1999年に開かれたハーグ平和アピール20周年に開かれる特別なグローバル平和フォーラムである。ハーグ平和アピールは、1899年のハーグ万国平和会議100周年の会議であった。
☛全世界で約1万人の平和活動家が世界平和の首都、オランダ・ハーグに集まって「ハーグ・アジェンダ」採択。(Hague Agenda for Peace and Justice for the 21st Century)
4.平昌平和アジェンダ(PCAP)2030
・平昌平和フォーラムはこの伝統を引き継いで、平昌平和アジェンダ(PyeongChang Agenda for Peace, PCAP)2030を採択し、実践しようとしている。2019年2月、平昌で基本的な枠組みを採択し、1年間国際的に地域と主題別後続議論を通して、2020年の平昌平和フォーラムで正式に平昌平和アジェンダ2030を採択しようとしている。
・2020年は世界の冷戦の起点である朝鮮戦争70周年でもある。平昌平和フォーラムの最終成果文書である平昌平和アジェンダ2030は、今後の10年間(2020~2030)の世界の平和運動の共同行動アジェンダの役割を果たすであろう。
5.平和と持続可能な開発目標(SDGs)
・平昌平和アジェンダ2030は、国連が採択した平和・安全保障に関する様々な規範とアジェンダを各国で実践し、2015年に国連総会が採択した持続可能な開発目標(SDGs)との有機的・統合的連携を通してシナジー効果を追求する市民社会主導の平和実践計画である。
II. 平昌平和フォーラムの特徴
平昌オリンピック平和遺産継承事業 国連・持続可能発展目標(SDGs)と平和の連携
朝鮮半島とアジアの恒久的な平和ロードマップ ハーグ平和アピール(HAP)20周年
III. 主要テーマと小テーマ
主題 分科会と小テーマ
1.平和と軍縮 2.1.国連事務総長軍縮アジェンダ
3.1. 国連軍縮条約
4.1.対人地雷と不発弾
2.平和・貧困と持続可能な開発目標(SDGs) 2.2. 国連-世界銀行「平和のための道」
3.2.国連・持続可能な開発目標(SDG)+16
4.2. 世界市民教育と平和教育(SDG細部目標4.7)
3.平和・経済および生態系とスポーツ 2.3. 軍事基地と環境および社会紛争
3.3. 軍産複合体と企業の役割
4.3. スポーツと平和および環境
4.平和・ジェンダーおよび青年と宗教 2.4. 青年、平和と安全保障
3.4.女性、平和と安全保障
4.4.難民、移住と武力紛争
5. 平和と人権と人道主義 2.5. 人権-人道主義-平和連携
3.5.転換期定義と国際司法裁判所(ICJ)
4.5. 制裁と人権および人道主義
6.朝鮮半島とアジア平和および国連 2.6. 南北協力と朝鮮半島平和
3.6.アジアの平和体制構築
4.6.国連改革と平和促進
特別主題:宗教間協力と平和 4.7.宗教間協力と平和
IV. 報告したセッションについて
1.セッションの主題:セッション4.5.人権と平和の連携―「平和権」の実現方法
2.セッションの背景および目的
・国連総会は2018年9月21日、国際平和の日の主題であった平和権宣言を2016年に採択した。これに国連と世界銀行は、ともに「平和のための道」という影響力のある報告書を2018年に発刊した。この報告書は、紛争と予防措置に関する総合的な理解の重要性を強調している。平和権は、軍事化している状況、紛争がある状況のすべてにとって重要である。これは、人権と平和、教育、軍役務中の人権、紛争の潜在的可能性、紛争予防の方法等をつなぐ有用な道具になることができる。
・このセッションでは、平昌平和アジェンダ(PCAP)2030に含まれる実践課題を発展させるために、以下のような問について議論した。
② 国連の平和権宣言(2016)に対する批判的な評価-重要度、欠点など。
②平和権と国連・世界銀行の報告書「平和のための道」との連結性および含意模索
③平和権のための共同実践課題
3.共催団体:Peace MOMO、参与連帯平和軍縮センター
4.パネルの出身および所属
・Peace MOMO (Korea), Camp for Peace Liberia, PNND Czech, A Healing Centre for Victims of Torture and State Terror (Korea), World Without War (Korea)
V. 報告した内容について(要約)
1.現行大韓民国憲法における平和条項と平和権
(1)類型 :侵略的戦争放棄と専守防衛(個別的自衛権)
(2)構造
1987年に改正された現行大韓民国憲法は、前文で国際平和主義を標榜し、第5条で侵略戦争の放棄を規定している。国軍を規定しているが、その使命を国土防衛にするということを宣言したので、専守防衛型であるともいえる。これは、1948年の初代大韓民国憲法制定時から基本的に変わらず、継続されている。ただし、軍人がクーデターを起こすなど、政治に関与した事例が多いので、現行大韓民国憲法からは軍人の政治的中立性を明文化した。
2.平和権実現の主要争点と限界
(1)軍事基地問題(平澤米軍基地および済州海軍基地)
(2)米韓軍事共同訓練に関する問題
(3)良心的兵役拒否に関する問題
・憲法裁判所における2018年判決:良心的兵役拒否(代替役務制度)を認める。
☛兵役の種類を定めた兵役法関連条項に「代替役務」が含まれていないのは「憲法不合致」である。2019年12月31日までに「立法改善」をしなければならない。
(4)限界
・憲法内在的問題:領土条項(第3条)と平和統一条項(第4条)、良心の自由(第19条)と国防の義務(第39条)☛自由民主的民主主義(Liberal Democracy)と自由な民主主義(Free Democracy)
・米韓相互防衛条約と関連する問題:国土防衛のための国軍(第5条)vs集団的自衛権行使(条約第2条)
・法制度的問題:国家保安法(第2条:反国家団体、第7条:賛美&鼓舞)、兵役法(第88条)
☛第19条・20条・21条:思想・良心の自由、言論・出版・集会・結社の自由、表現の自由等と対立。
3.論点:大韓民国憲法内における「二つの法体系」
VI. 朝鮮半島と東北アジアにおける持続的な平和決議案:フォーラム成果文書
1.我々は韓国と北朝鮮、そして、その他の利害当事国が即時朝鮮戦争の終戦宣言と平和協定の交渉および締結を求める。
2.我々は2019年2月27日~28日にベトナムで開催される米朝首脳会談において、両国首脳が朝鮮戦争の終戦を明らかに宣言し、平和協定の協議を始めるきっかけを作り出すことを求める。また、今回の首脳会談では、南北首脳による2018年の板門店宣言と平壌共同宣言、そして、シンガポール米朝共同声明で合意された事項の具体的後続措置に合意するべきであり、今後の平和協定の締結日程を提示するべきである。
3.我々は既存の国際的軍縮条約と核兵器禁止条約の適用が東北アジアの持続的平和の基盤であることを確認する。我々は地域の非核化と世界の非核化のための具体的な措置をとることを訴える。また、東北アジア諸国は、東北アジアを非核地帯に指定し、域内信頼構築と安全保障に大きく寄与するべきである。
4.朝鮮戦争の終結と平和協定締結は、南北の市民が国際社会と国連等の多国間機構に全的に参加するきっかけになるだろう。また、南北の市民は平和プロセスを通して、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するべきである。両政府と市民は、人権と民主主義、人間安全保障と性平等などの普遍的規範と原則にねざし、人権、民主主義、人道主義および社会経済的発展分野で包括的地域協力を推進しなければならない。
5.東北アジアでこのような包括的平和・開発協力が必要である。このためには、政府と非政府分野すべてにおいて、地域、国家、国際機構間の緊密な協力が必要である。
6.朝鮮半島における平和プロセスは、権力闘争と軍備競争が危険水位に上昇している東北アジアに拡大されなければならない。域内すべての当事国は、権力政治を即時に終わらせ、同時に国連憲章と国際法および国際規範に基づいて大量破壊兵器、通常兵器、新兵器技術の三つの分野において、軍縮交渉に着手するべきである。我々はまた、対北制裁を解除し、軍事訓練の中断を持続するなど、信頼構築措置を履行することを求める。
7.朝鮮半島の平和プロセスと並行し、東北アジアで徐々に増えている軍事的緊張と衝突を軽減、解決するために、東北アジア地域の平和協力体制を構築しなければならない。
8.域内すべての当事国は、安全保障と軍事の領域において、透明性と文民統制を保障しなければならず、領土紛争の解決において、脅威と武力の使用およびそのような試みを即時中断しなければならない。さらに、国家間競争を人間安全保障優先の地域協力に変えなければならない。
9.持続的平和を保障するためには、青年と女性の参加と市民社会の完全で意味のある参加が必須である。平昌平和アジェンダ(PCAP)2030、武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ(GPPAC)、ウランバートル・プロセス(UBP)、朝鮮半島平和協定締結および戦争終結のための女性運動のような市民平和外交は持続・拡大されなければならない。
10、我々は、オリンピックのような大規模な行事が地域社会と緊密に協力し、また、その社会的・環境的影響を考慮しながら推進されなければならないことを思い出しながら、スポーツを通してスポーツ人と共に東北アジアと世界で平和と外交を持続的に増進しなければならない。
11.東北アジアの全ての当事国は市民平和外交を支援しなければならない。また、我々は議会の議員、地方自治体の首長、および多様な分野での公共外交と市民平和外交間に緊密な協力を求める。我々は平和教育の進展と世界市民の文化および包容的所属感と共に、文化芸術および言論が平和プロセスに及ぼす影響を強調する。
*2019平昌グローバル平和フォーラムのWeb Site(英語および韓国語)