【日本平和学会2018年度春季大会(レジメ)】
報告 渡邉智明(福岡工業大学)
持続可能な消費と生産(SCP)アプローチの位相
― EUの「実験的」ガヴァナンスを中心に―
<目次>
はじめに
1 「持続可能な消費と生産(SCP)」とは?
2 EU-Switch Asia プログラム
3 「実験的」ガヴァナンスとしてのSwitch-Asia
おわりに
はじめに
・21世紀の国際社会の重要な課題の1つとしての、「持続な可能な生産と消費」(Sustainable Consumption and Production: SCP)
・EUのSwitch-Asiaの試みの持つ、可能性と限界
・SCPは、これまでの環境政策、開発政策とはどのように異なるのか、消費主義、西欧化と
いう側面はないのか?
1 「持続可能な消費と生産(SCP)」とは?
<SCPアプローチの歴史的展開>
1992年 リオサミット―アジェンダ21・第4章「消費パターンの変更」
2002年 ヨハネスブルクサミットの実施計画
2012年 リオ+20にて、「SCPに関する10年計画」(10YFP)が採択
⇒「持続可能な公共調達」「消費者情報」「エコツーリズム」「持続可能なライフスタイルと教育」「持続可能な建設」「持続可能な消費システム」の6つのプログラムの推進
2015年 『持続可能な開発目標』(SDGs)の目標に「持続な可能な生産と消費パターンを確
立する」ことがうたわれる。
【ターゲットの例】
「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる。」(12.1)
「国内の政策や優先事項に従って持続可能な公共調達の慣行を促進する」(12.7)
「持続可能な開発が雇用創出、地元の文化・産品の販促につながる持続可能な観光業にもた
らす影響のモニタリングツールを開発・導入する。」(12.b)
2 EU-Switch Asia プログラム
・欧州委員会―アジア(15カ国)における消費者や中小企業、政策決 定者に対して「持続可能な消費と生産(SCP)」を促すSwitch-Asiaプログラムを設立
⇒アジアでの持続可能な製品、プロセス、サービス、消費パターンの普及を、欧州の小売業者、生産者、公共機関などとの連携で進めることを目的
―現在まで、アジア19カ国、106 支援プロジェクトを行っている(各プロジェクト平均1.7 million EUR)。
3 「実験的」ガヴァナンスとしてのSwitch-Asiaに見るSCPの位相
<EUの実験的ガヴァナンス> (Zeitlin 2015:2)
①EU制度と加盟国による枠組み目標の設定、②定期的な目標・手続きの改定
③下位レベルのユニットによる定期報告、④ピア・レビュー、改善プラン
⑤下位レベルのユニットによる裁量的実施
おわりに
<3つの論点(Akenji 2017)>
1)「工業化」対「環境保護」
―環境クズネッツ曲線的な考え方は、とっていない。後者の意識づけの側面が強いか
2)「消費主義」対「貧困削減」
―開発分野からのイニシアティブで貧困削減と関連するが、従来との開発支援の制度枠組み
との関連は希薄
3)「西欧化」対「多元的、伝統的な方法」
―個々のプロジェクトでは、EU域内で「実験的」ガヴァナンスとして形容されるものと同
様、非画一的で柔軟で参加に開放的な特質が析出できる。
<問題点>
―プログラムが継続しているものの、依然として予算規模は小さく、インパクトは限定的。
―EUの他の関係政策(例、標準化)との関係が薄く、EU内においても知名度が薄い。
―SCPは新たな考え方であるが、実行の面で依然萌芽的か。
【参考文献】
- Akeji, L. et al. (2017) “Sustainable Consumption and Production in Asia.” In Sustainable Asia: Supporting the Transition to Sustainable Consumption and Production in Asian Developing Countries. Eds. P. Schroeder et al. World Scientific. Pp. 17-43.
- Zeitlin, Jonathan, ed. (2017) Extending Experimentalist Governance?: The European Union and Transnational Regulation. Cambridge University Press.