ベトナムの原発輸出計画の白紙撤回-文化と生活を守る先住民族チャム人の抵抗

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日本平和学会2019年度春季研究大会

 

ベトナムの原発輸出計画の白紙撤回-文化と生活を守る先住民族チャム人の抵抗(仮題)

インラサラ(Inrasara.com主宰、チャム人作家、詩人、ジャーナリスト)

 

キーワード:先住民族、チャム人、原発輸出入、構造的差別、福島原発

 

 

 

 ベトナム政府は2016年11月、ロシアと日本による原発建設計画を中止した。その理由は「財政難」と言われるが、国内外におけるロビー活動や多様な形での言論活動や表現なども影響したと考えられる。チュオン・タン・サン前国家主席は白紙撤回の理由として「国民、特に建設予定地の住民の心配が大きくなった」と述べている(共同通信2017.12.2)。

 2009年以降、両原発が計画されていたニントゥアン省は、2世紀から17世紀にかけて東南アジアを代表する海洋貿易を展開した先住民族チャム人が築いた「チャンパ王国」の最後の中心地があった地域で、現在もその文化や歴史、遺跡が残る。チャム人の作家インラサラ氏は早くから原発建設に反対し、福島原発事故後の2012年4月には小説「チェルノフニット(チェルノブイリとフクシマとニントゥアンの意味)」を執筆するなど、原発の問題を指摘。同年5月、「原発輸出は非人道的である」とする日本政府への請願書に、インラサラ氏ら多くのチャム人を含め626名が命がけで署名。相対的に貧しく、チャム人が多く暮らす現地に、住民の意思を無視して強引に原発が建設されるという、福島や沖縄につながる「構造的差別」に対するチャム人たちの危機感と、先住民族のチャム人たちが原発阻止に向けてどのように抵抗し、一党独裁共産党政権のベトナム政府の政策決定にどのようなインパクトを与えたのか。日本からの原発輸入を撤回させた成功事例を分析する。

 

 

インラサラ(61歳):多くのチャム人から信頼を得ている作家であり詩人であり、ジャーナリズム活動をしている有識者。原発計画が浮上した直後からチャム人の先頭に立って反対を唱え、一時は安全が脅かされるような状況に置かれた。チャム語によりチャム人の文化や歴史、文学の発信と継承のため、多彩な表現活動を行う。Inrasara.com 主宰。