3.11の被災地福島の復興と人材育成:グローバルな次元

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日本平和学会2019年春季研究大会

3.11の被災地福島の復興と人材育成:グローバルな次元

福島大学経済経営学類

吉高神 明

 

キーワード:3.11からの復興、仙台防災枠組、SDGs、Education 2030、地方創生、復興教育

 

はじめに

 2011年3月11日の東日本大震災及びそれに伴う東京電力福島第一原発事故から8年以上が経過した。地震・津波という自然災害と原子力発電所事故という放射能災害が同時発生した複合災害(以下、「3.11」と記す)は、放射能被曝に対する健康不安、除染、避難・帰還、補償・賠償、中間貯蔵施設建設、風評被害、差別・偏見など、被災地福島にとって多くの難問をもたらすことになった。

 3.11後、報告者は、1.世界の紛争・災害被災地で高等教育機関が展開する復興プログラム、2.アジアのトップ大学の教育プログラム、3.アジアにおける新しいライフスタイルとビジネスの動向、の3つに関する調査を中心に海外出張を行ってきた。

今回の報告では、これらの調査を踏まえ、3.11の被災地福島の復興と福島の高等教育機関が展開すべき教育プログラムの在り方について考えてみたい。

 

1.3.11から8年後の被災地福島をどのようにとらえるか?

 東日本大震災及びそれに伴って発生した東京電力福島第一原発事故をどのようにとらえるのか。3.11の被災地福島は、震災前の課題(人口減少・少子化・高齢化・地域の過疎化・・・)、震災という課題(地震・津波・原子力発電所事故)、震災後に深刻化した課題(差別・偏見・風評被害・・・)の3つの課題に直面している。

 東日本大震災発生後の2011年7月に政府が策定した「東日本からの復興の基本方針」では、復興期間を平成32年度(2021年度)までの10年間とし、復興需要が高まる平成27年度までの5年間を「集中復興期間」に位置付けている。また、2015年6月に定められた「平成28年度以降の復旧。・復興事業について」においては、復興期間の後半5年間(平成28~32年度)を「復興・創生期間」とされている。

 このような政府レベルでの取り組みと並行して、福島県が策定した「福島県復興ビジョン」では、①原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり、②ふくしまを愛し、心を寄せるすべての人々の力を結集した復興、③誇りあるふるさと再生の実現、の3つの基本理念に基づき、「福島の未来を見据えた対応」として、未来を担う子供・若者の育成への取り組みの重要性が強調されている。

 

2.福島の復興と人材育成

 このような多くの課題に直面している3.11の被災地福島の復興にとって、教育はどのような役割を果たすことができるのか。

 3.11後、中央教育審議会教育振興基本計画部会は、被災地東北における未来型教育モデルを開発し、それを全国に普及していくことを目指し、「創造的復興教育」というビジョンを提示している。本ビジョンでは、被災地で展開すべき教育の4つの基本的方向性として、①社会を生き抜く力の養成、②未来への飛躍を実現する人材の養成、③学びのセーフティネットの構築、④絆づくりと活力のあるコミュニティの形成、が示され、「大学やNPO、ボランティア、地域住民等の多様な主体による協働型の教育」、「予測困難な社会の中で、自ら学びを考え行動できる力を養う教育」、「グローバル社会に対応した、新たな価値を創造・主導するイノベーティブな教育」、「ITの活用を含む多様な学びの場の確保により、だれでもアクセス可能な教育」、「故郷愛や絆に根差した、復興を支える地域の人材を生み出す教育」の重要性が指摘されている。

 2013年6月14日に閣議決定された第2期教育振興基本計画(平成25~29年度)では、東北各地で展開されている教育プロジェクトについて、「今後のわが国の教育の在り方に大きな示唆を与えるものであり、こうした東北初の未来型教育モデルづくりを被災地だけでなく、わが国全体で発展させていけるような支援を行う」と明記されている。そして、このような東北発の未来型教育モデルの特徴として、①持続可能な地域づくりに貢献できる人材の育成、②「教授中心」から「学習者中心」へ、③多様な主体との協働による学習環境の構築、④地域復興の歩みそのものが学びの対象となり、相乗効果で地域の復興も後押しする取り組み、の4つが指摘されている。

 

3.福島を取り巻く4つのトレンド

 被災地福島におけるこのような復興教育を構想する上で、以下の4つのトレンドに留意する必要がある。

① 防災・減災:仙台フレームワーク

 東日本大震災を踏まえ、2015年3月14~18日まで宮城県仙台市で第3回防災世界会議が開催された。同会議では、2005年に採択された「兵庫行動枠組」を継承する新しい国際防災ガイドラインとして、「仙台防災枠組2015~2030」が策定されている。本枠組では、4つの優先行動(1)災害リスクの理解、2)災害リスク管理のための災害リスクガバナンスの強化、3)レジリエンスのための災害リスク軽減への投資、4)効果的な対応のための災害準備の強化と回復・復旧・復興に向けた「より良い復興」)が明記されている。

② 貧困削減:SDGs

 国連創設70周年の2015年、9月25~27日までニューヨークの国連本部で各国首脳は「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)」を採択した。「ミレニアム開発目標(MDGs)」を継承したSDGsは、「万人のための教育(EFA)」、「国際識字の10年(UNLD)」、「持続可能な開発のための教育(ESD)」の理念や目標も包括する野心的な取り組みである。

③ 21世紀型能力:Education 2030

 2015年、OECDは「Education 2030」を立ち上げた。これは、2030年の世界の子供たちに求められる新たな学力と教育のモデル開発を目指すプロジェクトである。本プロジェクトは90年代末以降にOECDが手掛けてきた「キーコンピテンシー」策定作業の延長線上に位置づけられるものである。

④ 地方創生:安倍政権

 安倍政権は、人口減少時代の到来を踏まえ、東京一極集中の是正、若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現、地域の特性の即した地域課題の3つの柱を掲げ、「まち」、「ひと」、「しごと」の創生と好循環の確立の観点から一連の政策を策定している。その一環として、「地(知)の拠点大学による地方生成推進事業(COC+)」に示されるように、地方大学に対しては地方公共団体との連携を通じた雇用創出・若者定着の促進・地域産業を担う高度な専門的職業人財育成、地域産業を自ら生み出す人材創出等が強く要請されている。

 

4.3.11後の福島大学の取り組み

 3.11後、報告者が所属している福島大学で展開されている主たる取り組みは、以下の通りである。

①新しく開設された「教育プログラム」 

 1)「ふくしま未来学」:http://coc.net.fukushima-u.ac.jp/

 2)「ふくしま未来食・農教育プログラム」:http://shokunou.net.fukushima-u.ac.jp/

  3)「経験・知恵と先端技術の融合による、防災を意識したレジリエントな農学人材育成」(世界展開力強化

事業):http://kokusai.adb.fukushima-u.ac.jp/business.html

 4)「ふくしまの未来を担う地域循環型人材育成の展開」(COC+):http://cocplus.net.fukushima-u.ac.jp/ 

②新しく設立された「センター・研究所」

 1)「うつくしまふくしま未来支援センター(FURE)」:http://fure.net.fukushima-u.ac.jp/

  2)「環境放射能研究所」:http://www.ier.fukushima-u.ac.jp/index.html

 3)「災害心理研究所」:http://cpsd.sss.fukushima-u.ac.jp/

③新しく実施した「教育・研究プロジェクト」

 1)「アカデミア・コンソーシアムふくしま(ACF)」:http://acfukushima.net/

  2)「OECD東北スクール」:http://oecdtohokuschool.sub.jp/

 3)「Fukushima Ambassadors Program」:

http://english.adb.fukushima-u.ac.jp/program/ambassadors-program.html

 4)「東日本大震災を契機とした震災復興学の確立(文科省科研費基盤研究(S)」:

http://www.bbb-fukushima.org/

 

おわりに

 福島大学における取組を踏まえ、復興と教育との間に好循環を実現させるため、被災地福島に体系的な復興教育プログラムを確立する必要がある。そのためには、高等教育機関、中等教育機関、初等教育との連携を強化すべきである。このような復興教育プログラムは、学校教育だけでなく、家庭内教育、社会教育、企業内教育、生涯教育、さらには職業訓練等も含めて構想すべきであろう。また、3.11の被災地岩手や宮城だけでなく、世界各地の災害被災地で展開されている復興教育プログラムとの交流・連携を促進することも必要であろう。最後に、原子力災害の深刻性・特異性・複雑性を踏まえ、福島の復興教育は、「持続可能な開発のための教育(人間と環境)」、「平和教育(戦争・紛争)」、「人権教育(差別・偏見)」、「グローバル教育(異文化理解)」等の関連教育プログラムと問題意識を共有し、その射程を広げていくべきであろう。

 

*本報告で表明された報告者の見解は、報告者が所属する福島大学及び各種プロジェクト等の実施主体の公式な立場を代表するものではない。

 

参考文献

藤本典嗣・厳成男・佐野孝治・吉高神明編『グローバル災害復興論』中央経済社 2017年

吉高神明・マクマイケル・ウィリアム「3.11の被災地福島の再生と復興教育プログラム」『比較教育学研究』第

52号 2016年

福島大学HP: https://www.fukushima-u.ac.jp/

福島県庁:

「福島県復興ビジョン」https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-fukkoukeikaku1091.html

「ふくしま復興のあゆみ」https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-fukkoukeikaku1151.html