『平和研究』第54号

『平和研究』第54号企画趣旨案

「沖縄問題」の本質

熊本博之(明星大学)

小松 寛(千葉大学)

 沖縄県名護市辺野古への新米軍基地建設をめぐる日本政府と沖縄県の対立は混迷を極めている。基地建設を進める日本政府に対して、沖縄県は次々と対抗措置を打ち立てる。中央政府と対峙する沖縄県政を支えるのは幾度の選挙結果で示されてきた「辺野古反対」という民意にほかならない。その根底には国土の0.6%に過ぎない沖縄県に、日米安全保障条約に基づく米軍専用施設の70%がいまだ集中しているという事実がある。結果として、「世界一危険」と形容された普天間基地の返還で日米両政府が合意してから20年以上が経過したにも関わらず、それは未だ実現していない。

 新崎盛暉(1936-2018)は「対米従属的日米関係の矛盾を沖縄にしわ寄せすることによって、日米関係(日米同盟)を安定させる仕組み」を「構造的沖縄差別」と定義した(『日本にとって沖縄とは何か』i-ii頁)。いわゆる「沖縄問題」とは単なる軍事基地の移設問題ではない。沖縄に軍事基地が集積し、日本国憲法の平和主義を享受できていない状況のことであり、それは一義的には日米安保体制を基調とする戦後日本の安全保障政策の中で形成されてきた。

 しかしここで一つの疑問が浮上する。なぜ日米安保体制の矛盾が「沖縄」に集中したのであろうか。その問いに答えるためには、日本と沖縄の関係、東アジアにおける沖縄の在り方、さらには沖縄自体に内在する要因とその相互作用までを射程に捉えなくてはならない。

 そこで本特集号は「沖縄問題」には「本質」なるものがあるとあえて仮定し、その形成要因と過程を学術的に詳らかにしていくことを目的とする。1879年の琉球併合(琉球処分)を起点に措定すれば、日本の近代国家形成過程そのものが議論の俎上に上がり、沖縄の日本化の帰結を批判的に捉えなおす必要が生まれる。あるいは、沖縄の人々を日本民族と異なる琉球民族として捉えれば、日本国内におけるマイノリティの課題となる。ここからは自己決定権、あるいは先住民族の権利といった問題も導き出される。他にも、政治、経済、軍事、文化、ジェンダー、世代間の差異など多様な論点が設定できるであろう。このように「沖縄問題」へ様々な角度から考察を加えることによって、軍事安全保障上の理由のみならず、国家・社会が内包する構造的暴力が生み出す「沖縄問題」の諸相を描き出したい。換言すれば、「沖縄問題」の歴史的形成過程およびその現代に至る再生産メカニズムを解明し、そこからの解放の道筋を照らし出すことが本企画の主旨である。

 『平和研究』が沖縄をテーマに特集を組むのは第23号 「再び自律と平和―沖縄が提起する問題」(1998年11月刊)以来となる。この20年の平和研究の積み重ねが「沖縄問題」のさらなる深部に迫り、その「本質」を究明することで解決の糸口を導き出す契機となることを期待する。

 

<投稿呼びかけ文>  

2019年2月23日  

 

『平和研究』編集委員会  

 

つきましては、この特集テーマに関わる投稿論文を募集します。沖縄と他地域を比較する研究や、日米関係および東アジア国際関係における沖縄、沖縄文化の表象のあり方など、多様な投稿を期待しております。ふるってご応募下さい。また、この特集テーマ以外にも、平和研究の発展に貢献する論文であれば、「自由投稿」の枠で投稿を受け付け、査読の対象といたします。 

 

投稿された論文は査読のうえ、編集委員会が最終的な掲載の可否を決定いたします。 

 

投稿書式:  

完成原稿提出の際に確認されるべき投稿書式については、「日本平和学会『平和研究』投稿論文執筆要領」に準拠ください。字数上限は1万6000字です。 

ワードもしくはテキスト形式でお送りください。 

 

投稿資格: 

日本平和学会『平和研究』投稿規程」を御確認下さい。 

 

投稿の申し込み締切:2019年5月31日  (2019年7月15日に延長になりました)

 

投稿申込み方法:   

(1)論文仮題、(2)要約(1500字程度)、(3)希望する投稿枠(「特集」あるいは「自由投稿」)、(4)住所・携帯電話番号・メールアドレスを、下記の応募先までe-mailにてお送りください。なお、申込みの際には、受領の確認メールを返信いたしますので、万一、一週間以内に返信ない場合、再度ご連絡ください。   

 

応募先:  

『平和研究』第54号編集担当者:熊本博之(明星大学)、小松寬(千葉大学)  

heiwa54toukou(a)gmail.com((a)は、“@”におきかえてください。) 

 

投稿完成原稿提出締切:2019年8月31日