部会1 ワークショップ「トレーナーズトレーニング やり⇔とり力を育てる:『国家・祖国・ネイション』をめぐって」(平和教育プロジェクト委員会企画)
ファシリテーター:暉峻僚三、奥本京子、佐藤壮広、杉田明宏、鈴木晶、高部優子、暉峻僚三、中原澪佳、堀芳枝、松井ケティ、山根和代、ロニー・アレキサンダー
平和教育プロジェクト委員会23期は、「やりとりする力を鍛える」を大きなテーマとし、教育者やファシリテーター、平和運動で役割を担う人等を対象としたトレーナーズトレーニングのワークショップを提供することとした。
「やりとり」とは、自分の考えや感情を表し(「やり」)、相手の言葉を受け止め(「とり」)、そして返すことである。その往還は、通常、自然かつスムーズに行っているように思えるが、果たして私たちは本当に「やりとり」しているのだろうか。アクティブラーニングが必要とされている教育現場や、平和活動などで仲間や意見が違う人がいる場で、相手の発したものを受け止めきれていなかったり、自分の考える方向に恣意的に会話がずれたり、相手の発言とは関係なく自分の主張をしていないだろうか。表現する力、受け止める力、返す力。まさに「やり⇔とり」をする力は、不必要なコンフリクトを起こさず、平和を創る基盤となり、その力は個人間のみならず、集団、国家間の「やり⇔とり」=外交にも必要な力である。グローバル化がもたらした格差や不平等、差別や排除による分断を再び繋ぎなおす力を育て、また自らもその力を鍛え直すことが、平和教育者としての社会的責任であると考え、23期のテーマと方向性を設定した。
23期1回目となる今回は、「国家・祖国・ネイション」をトピックとして、つぶやきを聴き、感情を受け取り、返す、という交換のプロセスを感じながら「やり⇔とり力」を高めるという、ワークショップを企画した。筋書きのない実験的なもので、他者の発言や感情を受け止め、発言することは困難であろうことから、ウォームアップを十分に行った。
はじめに、佐藤壮広会員から、エッグシェーカー(たまご型マラカス)を使ったアイスブレーキングを提供していただいた。相手の音を聴く、あわせる、からむ、という、音とリズムで相手との「やり⇔とり」を体感した。
その後、他者に対して反応することに慣れるためのウォームアップを2種類行った。
まずは、3人が1組のグループになり、テーマを設定せずに、1人が1つの文章を作り、次の人が、その文章に継ぎ足すかたちで物語を作っていく。Aさん1文、Bさん1文、Cさん1文、Aさん1文・・・と、短い文章で話を展開する。小さいグループなので、緊張度も低く、前の人の話を受けて反応することに馴染むことができるステップである。
次に、全員がサークルで立っている中心に2人が出て、テーマの打ち合わせをしない状態で、言葉を発せずにイメージを作る。約30秒でファシリテーターがストップをかけ、2人のうちの1人が抜け、別の1人が入り、新しく2人組になり、同じように演じるということを、しばらく続けた後、次はセリフをつけて、同様に演じていく、ということを行った。テーマが決められていないので、最初は戸惑っていた参加者も自由に演じることができ、徐々に面白い設定や発言がでて場がなごみ、他者に対して気楽に反応する雰囲気ができた。
そして、いよいよ「国家・祖国・ネイション」をめぐって、「やり⇔とり」力を育てるワークショップである。丸くなって座り、まずは「反日」という言葉について感じることを、一言ずつ、つぶやいてもらった。一人一言、発してもらうとトピックに関する感情が湧き、発言しやすくなるという狙いである。
次に、「あなたにとって反日とは」という問いを投げ、ボールを持った誰かが発言し、それを受けて感じたことを発言する。発言するときにはボールを受け取る。ボールの受け取りも言葉を使わない「やり⇔とり」で行う。それらの発言を続ける中で、ファシリテーターが、ある程度まとまりがあったポイントや、内容がずれそうなときなどで流れを止めて、次の人には、それまでの発言を解釈してもらう、というワークを行った。つまり、Aさんが発言をする→Aさんの発言から感じたことをBさんが発言する→ファシリテーターの介入でCさんが、Aさん、Bさんの発言を解釈する、という流れだ。
最後に、グループに分かれて、やりとりしたときに起こった感情、気づいたこと、良かったこと、良くなかったことを共有し、全体に発表するというまとめの作業を行った。
約40名の参加者が、「反日」という、普段あまり会話に出ないトピックだが、発言が続き、多くの時間が割かれ、それ以外の用意していたトピックについて扱うまでには至らなかった。
やはり、参加者にとって、感情を言葉で表現すること、他者の発言を丁寧に受け取り返すことは難しかったようだが、「やりとり」のプロセスが可視化でき、前の人が発したものを意識するマインドはある程度、育ったのではないかと考える。また、ファシリテーターにとっても、このワークショップは難しいものだった。トレーナーズトレーニングなので、委員会メンバーもまた学び、成長する機会であるととらえ、ファシリテーター同士が、お互いの目線や体の動きをキャッチすることを意識してワークショップを行った。
今回のワークショップでは、初めて参加者、委員会メンバーともに感想を書いてもらった。またワークショップの後に委員会メンバーが集まり、企画についての振り返りを行うことができた。用意された企画が妥当であったか、企画の目的は達成できたかどうかなどを検討し、次の企画につなげることができた。