平和教育アニメーション「インデ島へようこそ」について

 「インデ島へようこそ」は、植民地支配の構造と暴力、様々な立場の不満、悲しみ、要求を感じ、その先にある平和的な共生を考えてもらうことを目的として作られています。ストーリーは、インデ島という架空の島を舞台にした、先住民であるインデ人、植民者・支配者であるコロナ人の物語で、現在進行形の油田をめぐる対立で終わるように描かれています。

インデ島のストーリーを作る際には、なるべく単純化を避ける様に心がけました。一言で先住民といっても、実際には、様々な利害の中で暮らしているのは当然ですし、先住民という属性を持つ人々にも、その属性に対しても様々な思い、距離があることも当然だからです。ストーリーでは、先住民側・植民者側とひとくくりにせず、なるべく様々な立場を登場させ、しかし全体構造としての植民地支配の暴力性も描くようにしました。

 単純化を避けると、どうしてもストーリーは複雑・長大になりがちです。

 メンバーで話し合った結果、単純化を避けつつ、ある程度感覚的に伝わるには、ストーリーを元に、紙芝居調のアニメーションを作ることになりました。幸運なことに、平プロは、それを可能にするメンバーたちに恵まれていました。アニメコンテンツ作成を高部優子さん(Be-Production)、ストーリー執筆やコンテンツ中の音楽作成、効果音、最終編集を暉峻僚三(川崎市平和館)、ナレーションの英訳をロニー・アレキサンダーさん(神戸大学)と山根和代さん(平和のための博物館国際ネットワーク)、英語のナレーションを松井ケティさん(清泉女子大学)がそれぞれ担当し、また、外部からも、志田晴美さん(日本語ナレーション)、山本アンナさん、横山ユウスケさん(アニメーション)に助けていただき、なんとか完成にこぎつけました。

 

平和教育素材としての「インデ島へようこそ」

 「インデ島へようこそ」は先住民の権利や植民地支配を考える平和教育素材として、いろいろな使い方ができますが、実践例として、平和学会北海道大会で行ったプログラムをご紹介します。

 大会で提供したプログラムは大きく分けると、2つのパートからできています。一つ目は、アニメーションの中の役柄を演じ、自分の役柄の立場としての、不満や不安、要求をサークルプロセスを使ってつぶやき合い、共有するパート。そして、2つ目は共有されたつぶやきから見えてきた要求を実現するために、昨年国連で採択された「平和への権利」にどんな条文を書き加えるかを考えるワークショップです。

 サークルプロセスは、参加者が輪になり、話したい人がトーキングスティックなど、目印となるものを持ち、自分の想いをつぶやいてゆくやり方ですが、大会ではサモア式と呼ばれる、輪を2重にする方式を使いました。これは、外側の輪にいる参加者のうち、喋りたくなった人が内側に設定された輪に行って話す方式で、学会のような初対面の人間が多い場合に、「話しても良いし話さなくとも良い」という安心感を醸成する効果が期待できます。

 サークルでは多種多様なつぶやきが共有され、参加者からの感想からは「自分の中の新たな葛藤を見出した」など、つぶやいているうちに、暴力的な構図の中での新たな自分を発見した人も少なからずいた様です。

 リアルから遠ざかりすぎない様に、沖縄、北海道、ハワイ、グアム、ネイティブアメリカンなど多様な要素を混ぜ込んでストーリーを作りました。

 2つ目のパートである、サークルプロセスで出された思いを生かす「平和への権利」の条文作りでは、サークルプロセスの後、インデ島のストーリーで演じた役柄を混ぜたグループを5つ作り、グループごとに条文を考えてもらいました。

 参加者からは、「名乗りの権利」「有形・無形資源への権利」「幸福と豊かさをもたらす権利」「文化的多様性の尊重とそれへの不可逆的破壊の禁止」「過去の平和の破壊に対する補償を受ける権利」「集団内と集団間の民主的コンセンサス形成の義務」「異なる立場への想像力」など様々なキーワードがちりばめられた条文が提案されました。

 

平和教育プロジェクト委員会よりのメッセージ

 「インデ島へようこそ」は、公教育の現場、そして社会教育の現場で、ある意味絶妙な距離感と当事者意識を持って、植民地支配や同化、先住民の権利を考え、語り交わすことを可能にする平和教育素材です。平プロとしても、幅広く使ってもらえる様、英語版のアニメーションやストーリーシートも作成しました。「インデ島へようこそ」が、平和で持続的な社会を作ってゆくActive Citizenの輪を広げてゆく一助となることを、平プロのメンバー一同願っています。

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