「核兵器の非人道性」の意義と課題

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日本平和学会2018年度秋季研究大会

 

「核兵器の非人道性」の意義と課題

 

関西学院大学大学院国際学研究科修士課程2年

織田 雄太郎

 

キーワード:国連、平和維持活動、文民の保護、人道支援、紛争解決、人道的介入、保護する責任

 

はじめに

 武力紛争下における文民の保護は、今や国連平和維持活動(国連PKO)において重要なミッションの一つとして広く認識されている。その一方で国連PKOは、本来的には紛争後の停戦監視を基に生まれた組織であるという事実の中で、その活動範囲は時代の要請とともに大きく拡大してきた。そもそもの存在根拠自体も実際のところ自明ではない国連 PKOの職務権限が絶えず拡大している現在において、武力紛争下における文⺠の保護もそのうちの一つではあるが、そもそも果たしてこれは国連 PKOが扱うべき事項であるのか。言い換えれば、国連 PKO はその歴史的背景等に鑑みて、実効性や妥当性の観点から、武力紛争下における文⺠の保護を担うに値するアクターであるのか。本報告において、これまでの国連PKOと文民保護の関係性について、歴史を概観しながら、その実効性、さらには意義について考えてみたい。

 

1.国連PKOの歩み―「伝統的」PKOから平和活動へ 

 研究や文献により多少の差異はあるものの、国連PKOはその性質上歴史的に3つに分類することができるであろう。第1に紛争当事者の合意、不偏不党性、自衛の範囲を超える武力の不保持という3原則を基に、紛争後の停戦監視と安定化を担うべく、1940年代後半から活動を始めたのが「伝統的」PKOである。その後、冷戦の終結とともに国連が果たしうる役割について再考され、1992年ガリ事務総長によるいわゆる『平和への課題』によって、平和創造や平和構築など、より積極的かつ広範な職務権限を持つPKOが組織された。そして2000年の『ブラヒミ報告』以降、国連PKOから、「国連平和活動」として、より多様な形態を有すPKOが生まれることとなる。

 

2.国連PKOと文民の保護―マンデートの拡大まで

 国連PKOに初めて文民の保護が職務権限として付与されたのは、1999年の国連シエラレオネ派遣団(UNAMSIL)においてであり、国連PKOと文民の保護に関する歴史は意外にも浅いことが分かる。清水(2011)によると、冷戦終結以降、国連による国際社会の安全保障に対するプレゼンスが高まる中で、紛争における多くの文民への被害はもはや人道問題に留まらず、安全保障上の懸案事項であるという認識が安保理の中で広まっていく事となった。そうした背景の中で、先の『平和への課題』に示されるより野心的な国連PKOのあり方にも影響を受け、安保理は国連PKOに対して明示的な形で文民の保護任務を付与することになるのである。

 

3.国連PKOと文民の保護―不偏不党性(impartiality)と正統性(legitimacy)

 それでは、国連PKOが文民の保護を行うことに対して、どのような意義を見いだすことができるのか。1つ目に、国連が持つ実行部隊の不偏不党性を挙げることができるであろう。国連というより中立的な立場に基づいて派遣される国連PKOは、武力紛争下において一般的な軍隊や武装勢力に比べより柔軟かつ実効的に文民の保護任務に関与することができるのではないか。そしてそれは武力紛争下における実行部隊としての正統性にも大きく関わってくる。国際法上、武力の行使は安保理によるいわゆる7章権限ないしは自衛権の行使時のみに限られており、人道的介入や保護する責任といった概念もまた遍く共有されていない現在、文民の保護を行うために武力を行使する主体として、行動の正統性をある程度担保されていることは、それが武力行使というセンシティブな問題である以上、肝要となってくる。

 

4.国連PKOと文民の保護―PKOは「軍隊」か?

 一方、国連PKOが文民の保護を行う主体として適当であるのかという問いについて考える際、国連PKOが持つその特異性が大きな問題になってくると思われる。すなわち、果たしてPKOは武力紛争下における文民の保護任務を担うに値する「軍隊」であるのか、ということである。2000年の『ブラヒミ報告』において、国連PKOには、PKO要員や任務上の保護対象への攻撃に対応できるような用意や交戦規定が必要であると示されている。しかし、根本的には停戦監視を目的に設立され、戦力の多寡は加盟国次第であり、未だ自衛の範囲を超える武力の不保持を明示する国連PKOにあって、これがより強固な交戦規定とともに紛争に深く関与していくことは、実効性や効率性の観点から甚だ疑問であるし、改めて検討されなければならない。

 

おわりに―国連PKOと文民の保護のこれから

 では、国連やPKOは文民の保護に対して関与すべきではないのか。先にも触れたように、戦争の容態が変わり、より文民への被害が懸念されている現在において、それで良いはずがない。であるならば、国連PKOと武力紛争下における文民の保護はどのようなバランスを保つべきか。例えば、統合ミッションという概念はこの問いに対して示唆を与えているように思われる(上杉:2007)。また、未だかつて組織されたことのない国連軍の創設も、軍隊としての実効性の観点から勘案に値するものであるかもしれない(Lowe et al.:2008)。さらには、PKOはPKOとしての本分を守りながら行動をし、より実効的な部分に関しては安保理による加盟国への授権(authorization)によって、任務遂行を目指すことも現実的かもしれない。いずれにせよ、本議論が白黒で判断できるものでない以上、理想と現実の間に立ちながらも現状に沿って絶えず検討を加えていかなくてはならない。

 

参考文献

  • 上杉勇司「国連統合ミッションにおける人道的ジレンマ」―国連平和活動における民軍関係の課題の考察」、『国連研究』第8号、2007年。
  • 清水奈名子『冷戦後の国連安全保障体制と文民の保護』日本経済評論社、2011年。
  • Lowe, Roberts, Welsh, and Zaum 2008. The United Nations Security Council and War – The Evolution of Thought and Practice since 1945. (Oxford, UK: Oxford University Press).
  • Report of the Panel on United Nations Peace Operations, UN Document, A/55/305-S/2000/809, 21 August 2000.
  • Report of the Secretary-General pursuant to the statement adopted by the Summit Meeting of the Security Council, UN Document, A/47/277, 31 January 1992.