日本平和学会2018年度秋季研究集会
多元的世界を音でつなぐー カラダとココロの表現アートワークショップ
MUSIC POWER for ALL.
狩谷美穂
キーワード:音楽療法、表現アート、平和、非言語、コミュニケーション
はじめに
乳児と母親とのコミュニケーションに言語は通用しない。音程とリズム–すなわち母子の間にはメロディーで繰り広げられる音楽的とも思われるコミュニケーションがある。人間は成長とともにこの音楽的コミュニケーションをやめ、言語による会話を主として用いるようになるが、言語が伝わらない場合のコミュニケーションには「不安」がつきものであり、「不安」はコンフリクトを招きかねない。その不安を解消する一つの方法として、日常的に用いる「言語」から脱出し、音やアートを用いた非言語でコミュニケーションする方法をこのワークショップは提案する。それは多元的に問題を理解し、生活環境や価値観の異なる相手との関係構築のための自らの感受性を呼び覚ますことになるだろう。
1.表現アートワークショップ
表現アートセラピーとは、音楽、声、アート、ムーブメントなどのアート表現を複合的に用い、心と体にアプローチする全人的な療法プロセスである。今回は音・音楽そしてアート媒体を通して「平和」「コンフリクト」「共存」を身体で考え学びたい。本ワークショップでは、グループサポートを得られる安全な環境で、信頼関係のない、また全く知らない他者とも、非言語的手段で自己を表現し、感情までも含みこむ深いコミュニケーションの可能性を感じ取ることができるだろう。
2.ワークショップの内容
絵を描くことでイメージを可視化する、動きによってそのイメージを体感し表現する、音と音楽によってビビットな表現へとつなげていき、他者とも共有する体験を提供する。これらの連動した芸術表現を通して人間は、自らの防衛を解き、深いレベルでの学びと気づき、そして繋がりを感じ取ることができると考える。ファシリテーターは音楽療法士として日常的に障害を抱える対象者と健常者共に音楽作りを行っている。障害児と健常児が共に学び合うインクルーシブな教育、異文化理解と共生をターゲットにした音楽活動についても研究を進めており、実践報告も合わせてワークショップののちに参加者と共にディスカッションしたいと考えている。
参考文献
- ナタリー・ロジャース(著)、小野京子・坂口裕子(訳)『表現アートセラピー 創造性に開かれるプロセス』誠信書房、2000年。
- ショーン・マクニフ(著)、小野京子(訳)『芸術と心理療法 創造と実演から表現アートセラピーへ』誠信書房、2010年。
- 関則雄(編)『新しい芸術療法の流れ クリエイティブ・アーツセラピー』フィルムアート社、2008年。