アメリカの非暴力的抵抗の歴史と非暴力主義の教育について

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日本平和学会2018年度秋季研究大会

 

アメリカの非暴力的抵抗の歴史と非暴力主義の教育について

 

立命館大学

山根和代

 

キーワード:非暴力主義、平和、人権、教育、博物館

 

はじめに 

 アメリカで平和と人権のために闘った人々の歴史を書いた書籍が出版された。For the People: A Documentary History of the Struggle for Peace and Justice in the United States という本だが、これまで学校で教えられることのなかった歴史の本である。生徒や学生がこの本をもとに討論して深めることができるように配慮され、平和教育・人権教育で活用できるであろう。この本では、平和と人権の問題に対処する非暴力的かつ平和的な方法を重視している。この本の紹介と、平和のための博物館での非暴力主義の教育、さらに大学における平和学の授業の中での非暴力主義の教育と学生の反応を取り上げる。

 

1.アメリカの非暴力的抵抗の歴史:For the People 

 この本は、アメリカの植民地時代からイラク戦争までの歴史における平和と人権のための闘争と努力に関する本である。 各章では、主要な歴史の簡単な紹介と、歴史的文書のさまざまな問題について話し合うことができるように、質問が用意されている。 平和と人権のための様々な問題に関する写真もある。 米国の平和史における最も重要な作品の参考文献リストは、学生や読者がもっと研究するのに役立つであろう。

 

2.非暴力主義の博物館における教育について 

 平和教育、人権教育を推進するために、平和のための博物館では展示を行っている。海外の例として、イギリスのブラッドフォードにある平和博物館では、ガンジーの非暴力主義、グリ-ナムコモンにおける非暴力的な反核平和運動の展示をしている。またヨーロッパ各地には(ナチスへの)抵抗博物館(resistance museum)がある。市民の非暴力的な闘いが紹介されていて、若い世代に伝えようとしている。

 韓国ではノグンリ平和記念館があるが、朝鮮戦争で行われた住民の虐殺事件に対して、ペンでの闘いを行い、現在はノグンリ平和公園、その中にノグンリ平和記念館があり、平和教育・人権教育を行っている。

 日本では、沖縄における「ヌチドウ宝の家」という平和資料館がある。そこでは「沖縄のガンジー」と言われた阿波根昌鴻氏の米軍強制土地接収に反対する非暴力的な反基地運動の展示が行われている。子どもや市民が、平和と人権のための非暴力的な運動について学ぶことができるようになっている。

 

3.平和学における非暴力主義の教育について 

 大学における平和学のクラスで、映像「21世紀への伝言【非暴力・不服従】ガンジーとキング牧師」(You Tubeにある)を通して非暴力主義の学習をする機会を持った。授業では映像の一部だけ見せ、残りは各自見てもらうようにした。高校である程度学んでいたが、改めて非暴力的な手段で紛争解決をする重要性を学んだという感想が多くあった。例えば、ある学生は次のように書いている。「あの頃の時代では強い=正義であった。力を持たざるものは従わざるを得ない。 そんな時代にあったにも関わらず、非暴力・非服従の精神を掲げこの考えを貫き通し、民衆たちに希望の光を与えたガンジーの業績は計り知れない。ガンジーがいつも言っていたというこの言葉、『我々人間はどこへ行こうとも人々の心に平和と非暴力のタネを蒔き続けることに命を捧げなければいけない.』確かにガンジーによって平和と非暴力の種は我々の心に蒔かれたかもしれない。だが今のこの世界の現状はどうだろうか。世界のあちらこちらで今でもまだ暴力、服従は起こっている。タネは蒔かれたかもしれないがそれが育たなければ意味がない。私たちが担うべき役割とはまさにこのタネを枯らさずに育てて行くことではないのかと考える。」

 

4.非暴力主義の教育の課題 

 “For the People” はアメリカの知られざる歴史を取り上げている。日本にも紹介する価値はあるし、平和教育、人権教育、非暴力主義の教材としても使える可能性がある。日本の歴史の場合も、平和や人権のために非暴力的に闘い努力した人々がいるが、市民や学生が学ぶことができるように工夫が必要であろう。

 立命館大学の国際平和ミュージアムでは、戦争に反対した人々に関する展示がある。高知市の平和資料館「草の家」でもそのような展示をしている。もっと他の平和博物館、平和資料館で、日本や海外において平和と人権の問題に非暴力的に取り組んだ人々に関する展示が必要である。

 また大学や高校での教育において、教科書に書かれていないが重要な歴史的人物を取り上げることが重要である。

 

おわりに 

 “For the People” という本は、英語教育でも使うことができるであろう。その際は、日本の生徒、学生が使えるように編集する必要がある。また重要な人物や事柄は日本語に翻訳して、副読本として使うことも可能であろう。大学ではそのまま使うことができるであろう。

 さらに平和のための博物館や歴史博物館で展示をすることによって、学校に通う子どもたちだけでなく、地域の住民も学ぶことが可能になるであろう。 “For the People” を参考に、日本における知られざる歴史の調査、記録、活用ができることが求められていると思う。その際、アメリカのPeace History Societyやその学術誌であるPeace and Changeが参考になるであろう。

 

参考文献

 Howlett, Charles & Lieberman, Robbie. Eds. 2009. For the People: A Documentary History of the Struggle for Peace and Justice in the United States (Charlotte, NC: Information Age Publishing. INC.).