朝鮮民主主義人民共和国から見た国際関係と朝日関係

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日本平和学会2018年度秋季研究大会

 

朝鮮民主主義人民共和国から見た国際関係と朝日関係

 

朝鮮大学校

李柄輝

 

キーワード:停戦体制、軍事力の非対称性、社会主義強国、第3世界、朝日関係

 

はじめに

 今年、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)は建国70周年を迎え、社会主義国家としての存在期間においてソビエト連邦を超えた。国連は1948年12月の総会において、大韓民国を朝鮮半島における「唯一の合法政府」であると決議し、日本も1965年の韓日基本条約において、この決議を踏襲した。東西冷戦下、日本の朝鮮に対する不承認政策は、朝日間の疎通を阻害し、このことが近年、日本社会において「北朝鮮崩壊論」と「北朝鮮脅威論」という相反する認識のいびつな同居が可能となる土壌となっているのではないか。

 

1.朝鮮の内在論理の源泉―南北相克関係と停戦体制 

 核・ミサイル開発に邁進する朝鮮に対し、軍事オプションをも排除しないトランプ政権の強硬姿勢によって昨年、朝鮮半島は一触即発の危機を迎えた。しかし、今年に入り北南・朝米の首脳会談が実現し、状況は一変した。一連の朝鮮の行動は、2016年5月の朝鮮労働党第7回大会や今年4月の党中央委員会第7期3次全員会議の決定に示されているように、金正恩委員長の社会主義強国論とそれに基づく経済重視路線によって内在的に説明される。では、経済重視路線がなぜ核とミサイルを必要としたのか。内在論理の源泉たる現代史を想起する必要がある。朝鮮半島をひとつのユニットとして独立させることを放棄した米国の冷戦政策によって1948年に出現した分断政府は、双方が排他的に正統性を主張しあう相克関係を形成した。その関係性の帰結として勃発した朝鮮戦争は、1953年7月に停戦が成立した。とはいえ、平和の回復なき状態が65年間も継続している。交戦関係下、朝米間の軍事力における非対称性こそが経済を後景に退かせ朝鮮を核武装に至らせた。他方、核武装の完成によって朝鮮戦争終結に向けた米国との和解交渉が可能となった。

 

2.朝鮮からみた国際関係

 1950年代以後、朝鮮の外交政策は、継続する停戦体制の解体という目標に向けられてきた。建国後、社会主義陣営の一員となった朝鮮は、陣営内において平和擁護運動を喚起しながらも、その論理は反米・反帝国主義で貫かれていた。停戦体制の解体を目指す朝鮮にとって、「平和」と「反米・反帝」は表裏一体の課題であった。しかし、1956年のフルシチョフによるスターリン批判以後、ソ連が対米平和共存路線に傾倒していく中、朝鮮の論理は、矛盾を抱え込むことになった。朝鮮は、社会主義陣営の当為の中で、ソ連の平和共存路線を支持しながらも、この時期、反米・反帝国主義の連帯対象として、第3世界に接近していった。米国のアイゼンハワー大統領の「ドミノ理論」により、東アジアに反共ネットワークが形成される中、このような「上からの秩序」と対をなすように、東アジアの旧植民地諸国の連帯が「下から」形成されていった。1960年代以後、自主路線を標榜する朝鮮外交の主軸は、この「下から」の連帯の中に置かれた。朝鮮の第3世界外交は、1975年の国連総会における「国連軍司令部」解体決議の採択として結実した。

 

3.歴史課題としての朝日関係 

 板門店宣言とシンガポール共同声明の発表以後、東アジアの脱冷戦に向けた動きが顕在化しつつある。その中で、日本は朝鮮への圧力強化を世界に求め、拉致問題の解決と「北朝鮮の核放棄」を一方的に迫り、現在の局面において「蚊帳の外」に置かれている。しかし、その内実はジャパンパッシングではなく、日本の動きはむしろ東アジアの脱冷戦に対する意図的な逆行と見ることができよう。現在も国連軍後方司令部を国内に置く日本は朝鮮停戦体制の一翼を担ってきたが、その事実が日本国内では、認識されていない。1975年の「国連軍司令部」解体決議以後、この司令部の持つ作戦司令権が、米韓合同司令部に委任され、同時に日本において、安保法制議論が本格化した。一国平和主義の枠の中での護憲/改憲議論の殻を破るためには、朝鮮との疎通を通じて、このような歴史が想起されなければならない。

 

おわりに

 日本における「北朝鮮崩壊論」や「脅威論」の根底には、朝鮮を孤立した他者と捉える認識が隠見する。そのような認識と視覚に映る「国際社会」のカテゴリーには、旧植民地諸国の存在が捨象されている。東アジア脱冷戦の時代において、冷戦を相対化すると同時に、朝鮮半島はかつて日本の植民地支配下にあったという事実と関係性を戦後世界の南北問題の中に位置づけて、朝鮮半島問題を捉える視点が求められる。

 

参考文献

  • カン・グンジョ編『朝鮮民主主義人民共和国対外関係史』1.2、社会科学出版社、1985年・1987年
  • 高一『北朝鮮外交と東北アジア1970-1973』信山社、2010年
  • 李柄輝「冷戦体制下の統一運動の展開―解放後から1990年代初まで」『朝鮮大学校学報』Vol.26、2016年
  • 李柄輝「朝鮮半島核危機の内在的理解と展望」『情況』2018年冬号