日本平和学会2018年度秋季研究大会(2018年10月28日 於;龍谷大学)
朝鮮半島平和体制に向けた動きと日朝関係 —分断国家成立70周年,朝鮮戦争停戦65周年にあたって
(2)朝鮮半島の分断と在日朝鮮人—朝鮮学校をめぐる処遇を中心にして
愛知県立大学
山本 かほり
キーワード:朝鮮学校 高校無償化,北朝鮮嫌悪,祖国
はじめにー問題の所在—
「愛知朝鮮康応の教育内容について見ても,朝鮮総聯の機関紙である『朝鮮新報』や公安調査庁による調査等によれば,①朝鮮高校において統一的に使用されている教科書は,朝鮮総聯の指導の下に編纂されているところ,その中には北朝鮮の最高指導者を絶対視し,これを賛美・礼賛する表現が多数見られ,その内容は,授業内容に対する批判能力が未だ十分とは言えない後期中等教育段階にある生徒に対して,一方的に偏った観念を植え付ける教育なのではないかとの疑いを抱かせるものであったこと,②愛知朝鮮高校の生徒は,全員が朝鮮総聯の傘下団体である在日本朝鮮青年同盟(朝青)に加盟しているところ,朝青は規約上,北朝鮮の政策を高く奉じ,朝鮮総聯の綱領を固守することを任務とすする団体であり(中略)朝鮮総聯の介入により,(略)北朝鮮の最高指導者を個人崇拝し,その考えや言葉を絶対視するようにあ内容になっていると合理的に疑わせる事情が存在したと認められる」(2018年4月27日,愛知朝鮮高校無償化裁判 地裁判決 要旨より)
・朝鮮学校と朝鮮・総聯との関係を問題視=「不当な支配」を全面的に認める形で原告(愛知朝高側)敗訴
*愛知判決が示す日本社会の限界を考えつつ,朝鮮半島平和体制構築に向かう今,分断が在日朝鮮人に何をもたらし,日本社会の問題について考えたい。
1.高校無償化裁判とは?
2010年4月:無償化法施行,朝鮮高校は除外
2010年5月:朝鮮高校に対する就学支援金の支給に関する検討会議発足
2010年8月:検討会議報告書「外交上の配慮により判断すべきではなく,教育上の観点から客観的に判断すべき」
2010年11月10日:文科省指定に関する規程公表
2010年11月23日 朝鮮半島南北砲撃合戦
2010年11月24日:菅直人審査停止指示(そのまま審査停止,11月末全国10校の朝鮮高校は規程に基づき書類提出)
2011年8月28日:菅直人,審査再開指示(翌日辞任)→そのまま1年以上,審査中,判断保留
2012年12月下旬 第二次安倍内閣発足(朝鮮高校を無償化から除外することを明言)
2013年2月20日 朝鮮高校無償化不指定処分,根拠省令(「ハ」)も削除
広島,東京,名古屋→敗訴 大阪→勝訴 福岡→年度内に判決か?
2.人権論,教育論の限界
マイノリティ一般の問題への矮小化
「私たちも同じ高校生です」という訴え。歴史的・民族的権利であることが後退
3.朝鮮学校の歴史性と政治性
・歴史性という問題:植民地支配,継続する植民地主義,ナショナリズム強化による排除
・政治性:「北朝鮮制裁」という問題(何をしてもいい,何をされても仕方ない)
→政治的介入から教育内容のへの介入へ
4.朝鮮学校と<祖国>という問題
<祖国>=朝鮮民主主義人民共和国とはどんな存在なのか?
社会学的な知見から考察してみたい。
おわりに―多文化共生論という視点から
朝鮮学校や在日朝鮮人を「多文化共生」の枠組み内のみで語ること→エスニックマイノリティが「集団」として団結し,ホスト社会に抵抗・異議申し立てをする根拠や権利の剥奪につながるという問題を指摘しつつ,現在の朝鮮半島の政治的状況の中で,在日朝鮮人や朝鮮学校を考えることの重要性を指摘したい。
参考文献
板垣竜太,2007「朝鮮学校を支えるということ」(『法学セミナー』2007年7月号)
————————,2008「朝鮮学校の社会学」(同志社大学社会学部社会調査報告書)
————————,2013「資料:朝鮮学校への嫌がらせ裁判に対する意見書」(『評論・社会科学』同志社大学人文学会 149−185)
金尚均,2007「民族的尊厳の回復としての朝鮮学校」(『法学セミナー』2007年7月)
宋基燦,2012『「語られないもの」としての朝鮮学校—在日民族教育とアイデンティティ・ポリティクス』 岩波書店
田中宏,2013『第3版・在日外国人』(岩波新書)
——————,2013「朝鮮学校の戦後史と高校無償化」『<教育と社会>研究』第23号,一橋大学<教育と社会>研究会
曺慶鎬,2011「在日朝鮮人コミュニティにおける朝鮮学校の役割についての考察」『移民政策研究』第4号 移民政策学会
朝鮮高校にも差別なく無償化適用を求めるネットワーク愛知会報 『ととり通信』1号〜17 号
中村一成,2014 『ルポ京都朝鮮学校襲撃事件 <ヘイトクライム>に抗して』(岩波書店)
裵明玉,2013「朝鮮高校生就学支援金不支給違憲国家賠償請求訴訟について」(『人権と生活』Vol.36 在日本朝鮮人人権協会
山本かほり,2013「朝鮮学校における『民族』の形成—A朝鮮中高級学校の参与観察から」(『教育福祉論集』第61号 愛知県立大学教育福祉学部紀要)
—————————,2014「朝鮮学校のフィールドから」(『ソシオロジ』179号 関西社会学研究会)
—————————,2014「朝鮮学校で学ぶということ」(『移民政策研究』第6号,移民政策学会)
—————————,2015「『朝鮮高校無償化裁判』が問うていること」(『在日総合誌・抗路』1号,抗路社)
—————————,2015「「『北朝鮮』バッシングと朝鮮高校」平田雅巳・菊地夏野編『ナゴヤ・ピース・ストーリーズーほんとうの平和を地域からー』風媒社
—————————,2015「質的パネル調査からみる在日朝鮮人の生活史」(『社会と調査』No.15 )社会調査協会
—————————,2017 「排外主義の中の朝鮮学校――ヘイトスピーチを生み出すものを考える」(『移民政策研究』第9号,移民政策学会)
李洪章,2010 「朝鮮籍在日朝鮮人青年のナショナル・アイデンティティと連帯戦略」(『社会学評論』第61巻第2号)
岡真理・李英哲 「往復書簡」(『イオ』2012年1月号〜3月号 朝鮮新報社)