声明と密約の間 ――揺らぐ専守防衛コミットメントの説得力――

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日本平和学会2018年度春季研究大会

 

声明と密約の間

――揺らぐ専守防衛コミットメントの説得力――

 

東京大学

石田 淳

 

キーワード

専守防衛、安全保障のディレンマ、ハブ・アンド・スポークス型の同盟、抑止、安心供与

 

1. 専守防衛論の二つの機能――対内釈明と対外説明

 限定的な集団的自衛権の行使容認(閣議決定、2014年7月1日)

  武力攻撃事態+存立危機事態 (改正自衛隊法76条1項、88条1項)

 外務省文書「平和国家としての60年の歩み」の歴史認識と専守防衛論

 「専守防衛」論

自衛権の発動を旧三要件の範囲内に限ることを想定し、その準備たる防衛力の保持、装備の保有についても相応の範囲に自制するという意味において憲法9条整合的な受動的(passive)防衛姿勢

  武力の行使、防衛力の保持、装備の保有などを憲法、自衛隊法等によって必要最小限度に限界づけることによって平和の維持を図る

 本稿の課題/

2014年の閣議決定を経て、再解釈された憲法9条と整合的な武力の行使、防衛力の保持、装備の保有などの範囲は、これまでになく明確性を欠くものとなったことが、日本の安全保障にとっていかなる意味を持つのか。

 

2.意図の表明と秘匿

2-1.専守防衛論――「必要最小限度」画定の試み

 再軍備と平和憲法との法的整合性に関する政府の論理

2-1-1.9条整合的な防衛力の範囲 【別表1】

2-1-2.9条整合的な日米協力の範囲 【別表1】

アメリカの軍事行動に提供しうる支援の範囲

1) 岸内閣(1957年~1960年)の安保改定論

2) 佐藤内閣(1964年~1972年)の沖縄返還論

3) 小渕内閣(1998年~2000年)、小泉内閣(2001年~2006年)の後方支援論

2-1-3.消極的平和主義から積極的(proactive)平和主義へ

 

2-2.現状の正統性と防衛手段の模索

2-2-1.領土問題と防衛線の模索

○ 維持するべき価値配分の現状について合意は存在するのか

領土問題 (参考)ドイツの「東方領土」問題

防衛線(defense perimeter)問題

2-2-2.日米防衛体制の成立と再編

○ 現状を防衛するための妥当な防衛の手段とは何か

日本の非核三原則とアメリカの拡大抑止

 

2-3.密約――日米事前協議の制約からのアメリカの《行動の自由》

 

3.集団的自衛権の限定容認――その構図

3-1.同盟のグローバル化

「指針」 安全保障環境 状況想定 状況対応

1978年 冷戦 日本有事 限定的・小規模侵略の独力排除

1997年 朝鮮半島核危機・台湾海峡危機 周辺事態 後方地域支援

2015年 中国の海洋進出・北朝鮮の核開発 存立危機事態 限定的集団的自衛権行使

 

 武力不行使体制の下での自衛権の拡大解釈という歴史的文脈

集団的自衛権の行使自制についてのアメリカの対日不満

Armitage 報告(2000年、2007年、2013年)

 積極的平和主義への布石/

  テロ対策特別措置法(2001年10月)

  イラク特別措置法(2003年7月)

 

3-2.現状についての合意の不在

〇 維持すべき現状についての認識の共有なしに、抑止政策は機能するか

領土問題(原状回復と現状変更は区別可能か)

核問題(CVIDは原状回復か現状変更か)

○ 政策の意図の伝達は可能か(政策変更か、政権転換か)

 

3-3.不明瞭化するコミットメント

○ 行使する武力の不特定

 “all options are on the table” (George W. Bush to Iran, Donald Trump to DPRK)

○ 保有する装備の不特定(<->事前協議論)

  アメリカのNCND政策(1958年~)<-> ラロック証言(1974年)

○ 保持する戦力の不特定

Nuclear hedging (Levite) 

潜在的核オプション/軍事転用可能な余剰プルトニウムの保持(核燃料サイクル路線)

  日米原子力協定(再処理事業に対する包括的事前同意という特権)

<->NPT/ウラン濃縮技術・使用済核燃料の再処理技術の拡散阻止を通じて、民生技術の軍事転用の可能性の遮断

○ 専守防衛の範囲(安倍発言/小野寺発言)

 

4.おわりに

 戦略なき宣言政策 

 安全保障のディレンマを深刻化させない防衛戦略とは

 国際法(自衛権の拡大自制)、立憲デモクラシー、揺るぎない歴史認識の安全保障効果

 現状防衛の決意なき消極的平和主義か、現状変更の不信払拭なき積極的平和主義か

 

参考文献

 石田淳. 2014. 「安全保障の政治的基盤」(遠藤誠治・遠藤乾編『シリーズ日本の安全保障①安全保障とは何か』岩波書店、所収)

 太田昌克. 2014.『日米〈核〉同盟――原爆、核の傘、フクシマ』岩波新書

 黒崎輝. 2006.『核兵器と日米関係――アメリカの核不拡散外交と日本の選択 1960-1976』有志舎

 古関彰一.2013.『「平和国家」日本の再検討』岩波現代文庫(単行本2002)

 佐藤行雄. 2017. 『差し掛けられた傘――米国の核抑止力と日本の安全保障』時事通信社

 高野雄一. 1962. 『日本の領土』東京大学出版会

 田中明彦. 1997.『安全保障――戦後50年の模索』読売新聞社

 西村熊雄. 1999. 『サンフランシスコ平和条約・日米安保条約』中公文庫

 波多野澄雄. 2010. 『歴史としての日米安保条約――機密外交記録が明かす「密約」の虚実』岩波書店

 原貴美恵. 2005年.『サンフランシスコ平和条約の盲点』渓水社

等雄一郎. 2006.「専守防衛論議の現段階」『レファレンス』(平成18年5月号)、19‐38頁

 Cha, Victor D. 2016. Powerplay: The Origins of the American Alliance System in Asia. Princeton University Press.

 Freedman, Lawrence. 2003. The Evolution of Nuclear Strategy. Palgrave Macmillan.

 Gaddis, John Lewis. 1987. The Long Peace: Inquiries into the History of the Cold War. Oxford University Press.

 Jervis, Robert. 1989. The Meaning of the Nuclear Revolution: Statecraft and the Prospect of Armageddon. Cornell University Press.

 Schelling, Thomas C. 1966. Arms and Influence. Yale University Press.

 Schroeder, Paul W. 1977. “Alliances, 1815-1945: Weapons of Power and Tools of Management,” in Krauss Knorr, ed., Historical Dimensions of National Security Problems. The University of Kansas Press.

 Snyder, Glenn H. 1960. Deterrence and Defense: Toward a Theory of National Security. Princeton University Press.