南洋群島における日本の委任統治と戦災と戦後責任
上杉勇司(早稲田大学)
uesugi@waseda.jp
「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国*の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」(1995年8月の村山談話)*南洋群島はアジア諸国に含まれるのか?
1. 本研究(挑戦的萌芽研究)の概要
(ア) <目的>Post-Liberal Peace論に対する示唆をPost-Colonial研究の成果から学ぶ
(イ) <事例>日本の植民地(委任統治領)経験としての旧南洋群島の実相
(ウ) <展開>旧南洋群島の戦災に対する戦後責任(植民地責任論)
2. 本研究で明らかにしたいこと
(ア) 日本による南洋群島委任統治の実態についての先行研究はあるが、その研究成果が、現代の国連による平和構築に、どのような示唆や教訓をもちえるのか?
(イ) 日本による南洋群島委任統治の経験と国連による東ティモール暫定統治の経験の比較(異なる取組であることを前提)から、何か共通性は見いだせるか?
(ウ) これまでの台湾・朝鮮・満州の植民地化に対する「戦争責任論」言説では、看過されてきた南洋群島について光をあてることで、「戦後責任論」に関して何か新しい視点がえられるか?
3. 本報告の主張(本研究の現時点で明らかになったこと)
(ア) 平和構築に対する示唆・教訓→①外の価値観・制度の取捨・折衷(Hybridity)、②Collaborator(協力者)とRegister(抵抗者)の存在、③近代化に伴う伝統的な社会関係の変化(血縁、土地、権威、権力)
(イ) 委任統治と暫定統治の共通点→①近代化と統治制度(官僚機構、警察、教育)、②国際市場経済への組み込み(天然資源、労働力・移民、貿易・輸送)、③混血エリートの台頭(政治、経済、社会)
(ウ) 「戦後責任論」に関する新しい視点(被害者から告発や糾弾がないからといって「戦後責任」がないわけではない)→①WWIIの戦災(戦後賠償・保障・責任)、②日系人(残留孤児、二世・三世)、③朝鮮人労働者→記憶し、和解する
4. 本報告の含意と意義(本研究の今後の展望)
(ア) 統治官僚「統治する地域との結びつきを築くことなく、土地への愛着を抱くことなく統治」(ピーティー、p. 194)、開発(南貿・南興・南拓)と移民
(イ) 人材と人脈(パラレル・システム下で台頭する新興エリート=協力者であり、抵抗者でもある→媒介者を通じたLocal Ownership)→長期的なインパクトを左右
(ウ) 天皇慰霊訪問を契機として、忘れられた「戦争責任」「植民地責任」を(再)自覚
参考文献
- 浅野豊美編『南洋群島と帝国・国際秩序』慈学社、2007年
- 大江志乃夫他編『岩波講座 近代日本と植民地1 植民地帝国日本』岩波書店、1992年
- 大江志乃夫他編『岩波講座 近代日本と植民地4 統合と支配の論理』岩波書店、1993年
- 栗本英世・井野瀬久美惠編『植民地経験—人類学と歴史学からのアプローチ』人文書院、1999年
- 永原陽子編『「植民地責任」論—脱植民地化の比較史』青木書店、2009年
- マーク・ピーティー(浅野豊美訳)『植民地—20世紀日本帝国50年の興亡』慈学社、2012年