基地引き取り運動とは何か? ─その認識、方法、希望ー

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日本平和学会2017年度秋季研究集会

合同開催「平和運動」+「琉球・沖縄・島嶼国及び地域の平和」分科会(11月26日)

 

基地引き取り運動とは何か?

─その認識、方法、希望─

 

新潟県立大学准教授

福本圭介

 

キーワード:基地引き取り運動、沖縄、米軍基地問題、植民地主義、差別

 

1.はじめに

 周知のように、沖縄には在日米軍専用施設の7割以上が集中しており、その圧倒的に不平等な基地負担が問題になる中、政府は、さらなる新基地の建設を辺野古・大浦湾において強行している。現在、このあるまじき不公正(差別)を是正しようとする「本土」における新しい市民運動として「基地引き取り運動」が誕生している。米軍基地(とりわけ普天間基地)を「本土」に引き取ることによって、沖縄への差別(植民地主義)を解消しようという新しい市民運動である。本報告では、この新しい市民運動である「基地引き取り運動」の認識と方法、希望を紹介しつつ、それに対する各種の批判、今後の課題などもあわせて報告したい(報告者・福本は、新潟における引き取りグループ「沖縄に応答する会@新潟」のメンバーの一人でもある)。

 

2.基地引き取り運動のルーツと現在の展開 

 引き取りグループは、2015年3月に大阪で誕生した後、福岡、長崎、新潟、東京でも誕生し、2017年4月には、全国連絡会が発足、共同で全国知事アンケートの実施や全国同時街頭行動を実施するなど新しい動きを見せている。基地引き取り運動は、そもそも「基地を引き取ってほしい」「基地を引き取るべきだ」という沖縄からの訴え(県外移設論)に「応答」しようとするなかで誕生した動きであり、沖縄の脱植民地化の動きに突き動かされて誕生した本土側からの脱植民地化の運動である。

 

3.その共通の認識と目標

 各地の引き取りグループは、その「引き取り」の方法や考え方において多様であるが、共通の認識もある。例えば、どの引き取りグループも、基地問題の根底には琉球併合以来とぎれることなく続いている植民地主義(沖縄差別)の問題があると認識している。そして、この植民地主義は、沖縄に基地を集中させる政策を継続する日本国政府だけでなく、憲法九条と日米安保の両方を欲する国民の態度や「基地はどこにもいらない」と主張する左派のなかにも存在しているのである。また、どの引き取りグループも、その根本的な目標として、基地を「本土」に引き取ることによって沖縄に対する植民地主義(差別)を解消し、対等な人間どうしの関係をつくることをあげている。

 

4.「基地引き取り」の方法

 各地のグループによって「基地引き取り」の方法・イメージは異なるが、ここでは新潟のグループ(沖縄に応答する会@新潟)の考え方を紹介したい。新潟のグループは、2017年4月29日に沖縄で開催されたシンポジウム「県外移設を再確認する―辺野古新基地建設を止めるもう一つの取り組み」において採択された以下の提案(大山 2017)のなかに、「基地引き取り」の方法のみならず、その定義を見出している。

 

(1)辺野古新基地建設を直ちに中止し、普天間飛行場を直ちに運用停止する

(2)普天間の移設先について、沖縄以外の全国の全ての自治体を等しく候補地とする

(3)その際、基地が日本国内に必要かも含めて、当事者意識を持った国民的議論を行う

(4)国民的議論で普天間の移設先が国内に必要だという結論になれば、移設先は民主主義と憲法の精神にのっとり、一地域への押し付けとならないよう、公正で民主的な手続きで決定する

 

 

「基地引き取り」とは、差別(植民地主義)の「本土」移設ではない。基地引き取り運動は、根本的には、沖縄と日本の脱植民地化を目標とする運動である。新潟のグループは、「植民地主義」の反対概念である「自治」を重要視し、憲法に則った(地方)自治の原則のなかで引き取りを実施することで、米軍基地の在り方そのものを変えていくことを考えている(基地の引き取りの際には、制限される自治権を補償するための法律の制定を義務づけ、あわせて、そのような特別法の制定にともなう住民投票の実施を必須のものとする)。

 

5.希望 

 基地引き取り運動の喫緊の目標は、「辺野古が唯一の解決」という政府の論理を突き崩し、辺野古を止めることである。普天間問題は「本土」で引き取り、「本土」で解決する。それを要求する民意を作っていくのが、基地引き取り運動の目的である。国民全員を当事者とする議論の場をつくり、海兵隊の意義のみならず、日米地位協定の在り方そのものも再考することで、日米安保そのものの在り方が変わっていく。自治の力によって、集中した基地を「分散」させつつ「変質」させること、それが「基地引き取り」の本質である。

 

6.よくある基地引き取り運動への批判・疑問に答える(主に左派からの批判・疑問)

・基地引き取りは、日米安保を肯定することではないか。

・基地引き取りは、根本的な解決にはならない。

・基地引き取りなどできるはずがない。

・基地引き取りは問題を拡散するだけだ。

・もし基地引き取りを行った先で事件・事故が起きたら責任がとれるのか。

・沖縄にいらないものは、本土にもいらない。基地はどこにもいらない。

 

参考文献

  • 大山夏子(2017)「緊急シンポジウム『辺野古新基地建設を止めるもう一つの取り組み―県外移設を再確認する』」『月刊琉球』No.46.
  • 里村和歌子(2017)「出会い直すことはできるのか?―沖縄の米軍基地を引き取るという覚悟」『月刊むすぶ―自治・ひと・くらし』No.553.
  • 謝花昇(2017)「基地引取り運動への提言―県外移設論の再確認を含めて」『月刊琉球』No.43. 
  • 浜崎眞実(2017)「基地はなぜ沖縄に集中しているの?―押し付け続けてきた者の責任を考える集まり―」『月刊むすぶ―自治・ひと・くらし』No.558.
  • 福本圭介(2017)「基地引き取り運動とは何か?~植民地主義を変質させる自治の力」『月刊むすぶ―自治・ひと・くらし』No.557.
  • 松本亜季(2017)「大阪へ沖縄の米軍基地を引き取る~もうひとつの議論を始めませんか」『月刊むすぶ―自治・ひと・くらし』No.552.