「パックス・エコノミカを超えるために―脱成長論の思想と実践」コメント

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「パックス・エコノミカを超えるために―脱成長論の思想と実践」コメント

 

                        古沢広祐(國學院大學経済学部)

 

 脱成長をめぐる議論には、『成長の限界』(ロ―マクラブ、1972年)を代表とする環境決定論的な成長の限界論をベースとしたグリーン経済論ないしは脱物質化経済成論と、社会・経済を捉え直す人間疎外論的な視点からの脱成長ないし反成長論がある。基調講演(辻信一)では、とくに後者の視点からの問題提起とローカルを基軸に人間の在り方が展望されていると受けとめる。

 議論の土台として、人間存在をとらえる基本的視点が重要であり、大きく3つの基本軸、「環境軸」(自然・人間生態系の形成),「社会軸」(経済・政治を含む組織・制度の形成)、「文化軸」(個から集団のアイデンティティ,世界認識・心象の形成)が重要と考える。脱成長を論じるには、こうした総合的視点とともに人類の歴史的発展形態を検討しなおす、とくに現代社会を特徴づけている市場経済ないし資本主義的拡大メカニズムを批判的に検討する必要があるだろう。

 以下、若干のメモと参考資料・公開サイトを示しておこう。

 

(脱成長論の2つの潮流)

・「成長の限界論」・・・・(環境問題、資源の有限性、限界論的視点)

   ローマクラブ・レポート、エントロピー論、・・・

・疎外論的な提起

   イバン・イリイチ、シューマッハ「スモール・イズ・ビューティフル」

   「足るを知る経済」(タイ国王、ブータンGNH、・・・)

   アンドレ・ゴルツ、カストリアディス、ラトウーシュ、・・・

・運動:1970年代からのエコロジー運動、環境革命・革新、反成長論、脱成長論

・経済理論:ケネー、J.S.ミル、ソディ、J.レーゲン、H.デイリー、資本の見直し

 

(資本主義のとらえ方)

20世紀:資本主義(自由・市場原理)⇨ 福祉国家経済(総需要管理型)

「5つの資本主義」:[市場ベース][社会民主主義][大陸欧州型][南欧型][アジア型](ブルーノ・アマーブル)

*『21世紀の資本』(格差・不平等)  ⇦ 社会主義計画経済(社会主義市場経済?)

 (T.Piketty実態・動向分析)

*「資本は、資本主義社会の政治的身体の内部を流れる生きた血液である。この流れを通じて、富がつくり出され、多くのサービスが提供され、富が生まれる。市場の見えざる手の力のもとで、終わりなき資本蓄積と終わりなき複利的成長の行動様式が展開される。」「共進化的なシステムの7つの活動領域:[生産過程、技術(組織形態)、生活の再生産、社会的諸関係、自然との関係、世界認識・精神的諸観念、社会・行政的諸制度]  その中での資本の集積・拡張のダイナムズムが生じる」(D.ハーヴェイ)

*成長の歴史・地理的ダイナミズム(経済地理的な産業・グローバル世界都市の編成)

 

(資本主義の行方)

*株主資本主義・マネー資本主義 ⇔ 公益資本主義・里山資本主義、〇〇資本主義

*シェアエコノミー、 共生経済、 社会的経済・連帯経済

*企業の社会貢献、社会的責任(CSR)、SRI(社会的責任投資)、CSV(共通価値)、ESG・・・

*社会的共通資本、社会関係資本、自然資本、・・・ISO12000、ISO26000、 環境監査・会計

*GDP ⇒ GNH  幸福指標  包括的富指標 ・・・・

*グリーンコンシューマー、エシカル消費者、フェアトレード、ソーシャルな消費

*環境・開発レジーム形成(SDGs他)  *福祉・人権・平和レジーム形成

 

(K.ポラニーからの視座)

(1)互酬(贈与関係や相互扶助関係)

(2)再分配(権力を中心とする義務的徴収と分配)

(3)交換(市場における財の移動・取引)

 歴史的、地勢的な背景のなかで多様な存在形態をもつ。とくに交換システムが近代世界以降の市場経済の世界化(グローバリゼーション)・肥大化し、諸矛盾を拡大してきた。

★市場システムの調整・改善という方向性(グリーンエコノミー等)とともに、将来的に重視すべきは、3類型を社会経済システムに適用し、社会経済システムの根幹を再構築すること・・・・

 

 

(脱成長論との関わり):参考資料

・「脱成長・持続可能な地域社会の展望」農村計画学会誌30巻、2011

https://www.jstage.jst.go.jp/article/arp/30/1/30_32/_pdf

・「人類社会の未来を問う―危機的世界を見通すために」総合人間学会誌10、2016

http://synthetic-anthropology.org/blog/wp-content/uploads/2016/08/Synthetic-Anthropology-vol102016-p005-furusawa.pdf

*コラム連載中:<サステナビリティ新潮流に学ぶ>

http://www.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/columnist/02.html

・「脱成長論を歴史的に振り返る」(古沢)@脱成長MTG(2016.04/17):映像記録 

https://www.youtube.com/watch?v=Z2oiGNjKpbU

(概要記録:中田様フード・マイレージ資料室より)

http://food-mileage.jp/2016/04/22/%E8%84%B1%E6%88%90%E9%95%B7%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3

・「資本主義が転換する契機とは―環境・開発レジーム形成の視点から」古沢、2016.02/11

https://www.youtube.com/watch?v=6_7Qmd9Q0gA

 

(書籍)

・『共生社会の論理:いのちと暮らしの社会経済学』(学陽書房1988)

・『共生時代の食と農:生産者と消費者を結ぶ』(家の光協会1990)

・『地球文明ビジョン:「環境」が語る脱成長社会』(NHKブックス1995)

・共存学シリーズ『共存学4:多文化世界の可能性』(弘文堂、2017)

http://www.koubundou.co.jp/book/b281074.html

・「序章:いまを生きる意味─自分・世界・宇宙・未来─」『持続可能な生き方をデザインしよう―世界・宇宙・未来を通していまを生きる意味を考えるESD実践学』高野 雅夫 編著、明石書店、2017

http://www.akashi.co.jp/book/b313475.html