ローカリゼーションへの道筋 ポランニーによる経済的自由主義批判から

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(部会)パックス・エコノミカを超えるために

脱成長論の思想と実践

 

ローカリゼーションへの道筋

ポランニーによる経済的自由主義批判から

報告者:辻 信一

(レジュメ)

 

(1)パックス・エコノミカ(経済支配下の平和)――イヴァン・イリイチ

 パックス・ロマーナからパックス・ブリタニカ、パックス・アメリカーナ、そしてパックス・エコノミカまでのプロセスとしての“グローバリゼーション”

 

(2)グローバリゼーションと二つの人類史的危機――自然環境の危機、民主主義と平和の危機

 

(3)カール・ポランニーの社会経済学と経済的自由主義の批判

☆20世紀の危機の本質は、18世紀後半のイギリスから世界へと広がった市場資本主義の限界に由来している。

☆市場社会は自然発生的に生まれたものではなく。「経済的自由主義」が推進した経済・社会政策によって創出された。

☆ポランニーによる「経済主義としてのファシズム」批判

ドイツ・ファシズムの起源としての古典派経済思想、マルサスとリカード

市場経済と民主主義との両立不可能性→ファシズムの役割は両者の抗争による市場社会の危機から資本主義を救出すること

ファシズムの定義:個人の自由も市民社会も民主主義もない経済国家

☆経済的自由主義とは: 市場経済に適合的な人間、社会、政治、そして経済についての考え方の総称

経済的自由主義による支配の下で、社会は市場に似せてつくり変えられてきた。特に、経済の領域にありながら、市場の原理があてはまりにくい、労働、土地、農産物、貨幣、財政などについて、市場が機能するような改革が必要になった。

☆市場経済に支配される社会の異常性

それまで社会諸関係の中に埋め込まれていた(embedded)経済に、社会が逆に“埋め込まれる。→人間が、社会が、経済の付属物となる。

☆人間は血縁、隣人、同業者仲間、信仰集団といった社会的・文化的環境を奪われ、単に労働を提供する者という“裸”の存在となる。

一方、市場は文化や政治の枠組みから自由に自己制御システムのようにふるまうようになり、土地、労働、貨幣など、本来商品にはなりえないようなものまでが擬制商品(制度的フィクション)としてそこに登場する。

☆21世紀のぼくたちが直面する巨大な危機の根っこがある。

 

(4)グローバル市場資本主義を超えるために:ポランニーからヒントを得て

☆対抗的運動=社会の自己防衛運動

対抗的運動は保護主義的なものとなる。

それは、多様性、広さ、包括性によって特徴付けられる

非貨幣的な利害が重要になる。それに関わる組織、団体によって代表される金銭的利害とちがって、非貨幣的利害に特有の広がりと深さがある。

「それは、隣人、専門家、消費者、歩行者、通勤者、スポーツ愛好家、旅行者、園芸愛好家、患者、母親、あるいは恋人としての個人に、さまざま経路を通じて影響を与える」(『大転換』(新訳280)

☆経済学における政治学および倫理学の復権が重要だ、とポランニーは考えた。

「幸福な生活とは徳に従って何にも妨げられずに営まれる生活であり、また徳とは中庸である」(アリストテレス『倫理学』より)

⇔近代的自由の枠内での資本主義批判と、その失敗→唯物思想、科学技術主義、平和思想の混迷、倫理・宗教、道徳、スピリチュアリティの低迷・・・

☆自由主義とは何だったのか、という問いと反省→コミュニティ、社会、そして自然からの離床としての“自由” (dis-embedded)

☆文化の相対化:すべての文化の経済の型を互酬性・再分配・市場交換という三要素による統合パターンとして理解する方法。

互酬・再分配・交換は相互補完的。統合パターンは経済進化の段階とは無関係。

伝統的な諸文化からの学び→絶対的な位置にある市場経済を相対化する。

 

(5)「分離」の思想としての還元主義批判

☆経済の離床と近代的「自由」:還元主義、合理主義、人間中心主義

☆インドからの視点:ガンディー、ビノーバ・バーべからヴァンダナ・シヴァへ。進歩思想への批判

☆抽象化、特定の場所からの離床dislocation, de-localization、社会からの離床disembedded、自然からの離床

☆自然と人間との分離separationを終わらせる。ディープ・エコロジー

☆再統合、再埋め込みとしてのローカリゼーションと再ローカル化

 

(6)経済主義と科学技術主義の背後にある唯物的世界観を超えるために

世界は計量可能なものでできている、という神話

スロー・スモール・シンプルという“引き算”:それは量の問題ではない。

E. F. シューマッハーの思想:経済と科学技術の“無限成長”神話とエコロジー。「節制」としての自然。

 

(7)モラルの復権とエコロジー

量としての平和主義、民主主義を超える

抑制とモラル。弱さの受容と、限度、制約、抑制、制限の受容

リベラリズムを超える:保守の再評価

 

(8)直線的時間と新しさ信仰を超える

グレン・パリーの「オリジナル思考(original thinking)」:自然との、そして過去との、つながりを再発見すること。生きている世界(living world)に“浸されている(immersed)”身体的、感覚的、霊的な存在として、また、その世界に参加し、参画するものとして、共に生き、コミュニケートすること。単なる<be in>ではなく、<be of>という関係を世界と結ぶこと…。

 

(9)ローカリゼーションの思想

交換・再分配から互酬への重点移動と地域の自立

ビノーバ・バーべの反福祉思想とコミュニティ民主主義

エコロジカル・モラルの復権:ヤグナ・ダーナ・タパス

自然と人間の分離からの“自由”、そして平和

 

(10)「雑」とローカル

再ローカル化としての「雑」の復権

抽象性から具体性へ、一般性から個別性へ

スロー、スモール、シンプル:スペイシャルとテンポラルの取り戻し

「つながり」としてのスロー

二項対立→雑の取り戻しへ

計算不能性、不合理性、非効率性、多様性、曖昧さ、混合性、境界性、マージナル性、マイナー性・・・としての雑と、その受容

ベルナルド・リエターの通貨多様性と経済的“生態系”

デヴィッド・グレーバーの「負債」

「贈与」とマーク・ボイルの実験

 

(11)まとめ(あるいは補足)

サティシュ・クマールの「ソイル・ソウル・ソサイエティ」

ティクナットハンの「相即」

チャールズ・アイゼンスタイン:力学的因果論からすれば、意味のないような「小さいこと」が、しかし、意味を失うことなく、我々の生を支え続ける。

イリイチの「コンヴィヴィアリティ」

ポランニー「市場への隷属から自由になることによって、人はもっと重要な自由を獲得することになる。人間は企画したり組織したり擁護したりできる十分な自由を享受できることを確信して、想像力に従って、自由に自分の社会を再び創出しつくり上げていくことができるのである」