なぜ「県外移設」を求めるのか―日帝植民地主義批判

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日本平和学会2017年度秋期研究集会

報告レジュメ2017年11月26日

なぜ「県外移設」を求めるのか―日帝植民地主義批判

松島泰勝(龍谷大学経済学部)matusima@econ.ryukoku.ac.jp

 

キーワード:県外移設、国外移設、県内移設、先住民族、自己決定権、脱植民地化、日帝植民地主義

1日帝植民地主義としての県内移設論 

*琉球併合。日本帝国主義形成過程の初期において琉球が日本の植民地となる。歴史的、政治的、経済的、軍事的に琉球は今でも日本の植民地である。

*琉球併合、沖縄戦、米軍統治下におかれたこと等に対して、現在まで日本政府から謝罪、賠償もなされていない。

*国連監視下での住民投票による新たな政治的地位の獲得という脱植民地化のための手続も実施されていない。つまり琉球に関して日本帝国主義は終了していない。

*「捨て石作戦」の沖縄戦、在日米軍基地の琉球への移設、在琉米軍基地に集中させた核兵器による「核の傘」の享受、現在の基地の集中と強制等にみられる日帝植民地主義が「県内移設論」の淵源。

 

2琉球に米軍基地が存在する地政学的、経済的理由の虚妄性

*米政府が在琉米軍基地の他所への移設を何度か提言したのに対し、日本政府はそれらを拒絶。「地政学的理由」ではなく「政治的理由」による基地の強制(森本敏元防衛大臣の発言)

*1950年代に在日米軍基地が琉球に移設。在琉海兵隊は佐世保米海軍基地に北上し、強襲揚陸艦に乗り換えて戦地へ。在琉米海兵隊はローテーションをしており、「抑止力」としての機能は小さい。

*基地跡地利用による経済効果が基地経済を凌駕。基地経済は県民総所得の5%程度。知事選の際、琉球有力の幾つかの企業が翁長氏の支援を行う。基地の県内移設にともなう経済効果は日本政府の「アメとムチ」政策によってもたらされるものでしかなく、経済自立の阻害要因。

 

3「県外移設」要求の動因としての琉球人アイデンティティ

*2009年に首相に就任した鳩山由紀夫氏の「県外移設」政策が全国知事会、国の官僚によって葬り去られる過程で、「沖縄差別」の主張が顕在化。「被差別者」、「抵抗の主体」という自覚へ。

*オスプレイ配備に反対する沖縄県市町村首長、議会議長による東京都内でのデモに対するヘイトスピーチ→琉球人アイデンティティの強化。ヘイトスピーチは琉球の同化ではなく、異化を推し進める。1903年の人類館事件と2016年の「土人発言」に対する琉球人の反応の違い。

*翁長那覇元市長による「ハイサイ、ハイタイ」運動、しまくとぅば連絡協議会の活動等、琉球諸語復興運動の活性化。2009年にユネスコは琉球諸語を日本の方言ではなく、独立した言語として認識。公的空間、地元メディアにおいて琉球諸語の使用が増大。「イデオロギーよりもアイデンティティ」と主張して翁長氏が知事に選出。

*2013年に実施された日本政府主催の「主権回復の日」祝賀に対する琉球側の反発。1952年4月28日を「主権回復の日」とする国に対して琉球では同日を「屈辱の日」と対置。異なる歴史認識の明確化。

*2013年5月15日、琉球民族独立総合研究学会(ACSILs)の設立。琉球にルーツを持つ琉球人を会員とする、具体的、国際的、客観的な独立研究のための学会。台湾、パラオ、グアム、スコットランド等との連携も実施。

*先住民族、民族(人民)が有する自己決定権の行使として県外移設を主張。日本全国土の0.6%の土地に米軍専用基地の70%以上を戦後70年以上も押し付けてきた歴史的不正義、植民地主義から脱する「脱植民地化」、「自己決定権」が地元紙のキーワードになる。自己決定権の行使=アイデンティティ政治の展開。

 

4 国外移設論から県外移設論へ

*1990年代後半以降、在琉米軍基地の移設先としてグアム、ハワイが注目されていた。しかし、ハワイは1893年まで王国であり、先住民族カナカマオリによる反基地運動が行われていた。グアムは1898年から現在まで(戦時下は日本の軍事植民地)アメリカの植民地であり、先住民族のチャモロ人が独立、反基地運動を実施。

*琉球の「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」とグアムの女性達との交流、反基地運動の連帯。2006年に設立された「オキスタ107」はハワイ大学に留学した琉球人女性を中心に結成。カナカマオリによる言語復興運動、反基地運動に学びながら、脱軍事化、脱植民地化、自己決定権のための活動を行う。

*私は2011年にグアム政府の一員として国連脱植民地化特別委員会に参加。その年以降、現在までグアム政府脱植民地化委員会がエドワード・アルバレス事務局長、グアム大学教員のマイケル・ベバクア氏等が毎年、来琉してACSILs主催のシンポにおいてグアムの脱軍事基地化、独立を主張。

*グアム、ハワイは琉球と同じ植民地であり、脱基地化のために連帯する仲間であるとの認識の拡大。他方で、日本政府、日本人のマジョリティを「自分たちに犠牲を押し付ける」抑圧者、他者、植民者であるとの意識が増大。国外移設論から県外移設論へ。

 

5 結びに代えて―県外移設論の土台としての琉球独立論  

*「日本は琉球の祖国、琉球は日本の固有の領土、琉球人は日本人」という「復帰運動の思想」=日琉同祖論からの離脱が進む。琉球はかつて独立国であり、日本固有の領土ではない。琉球諸語は独自な言語であり、琉球人(沖縄人、ウチナーンチュ)意識を有する県民が大部分を占める。

*「復帰」後、基本的なインフラ整備も進み、振興予算への期待も減少。基地の強制とセット化される振興予算への疑念。池宮城秀正(沖縄県政策参与、明大教授)は「沖縄振興予算」の誤解を解き、同予算の将来的解消を提言。「復帰体制」からの脱却。「祖国としての日本」幻想がなくなり、県外移設論の封印が解かれる。

*「日本固有の領土でもない琉球の人々はなぜ日本の安全保障のための米軍基地を受け入れ、犠牲に堪え続けばならないのか」という主張は、琉球独立論に直結する。自己決定権は内的自己決定権(自治)と外的自己決定権(独立)に分かれる。日本人が基地問題を「沖縄問題」ではなく、「日本問題」として考え、県外移設論を自らの問題として受けとめ、琉球の犠牲を具体的に減らさなければ、琉球の独立運動はさらに激しくなる。

 

鳩山友紀夫、大田昌秀、松島泰勝、木村朗編著『沖縄謀反』かもがわ出版 2017年  

松島泰勝『琉球独立への経済学:内発的発展と自己決定権による独立』法律文化社2016年 

松島泰勝『琉球独立宣言:実現可能な五つの方法』講談社、2015年

松島泰勝編著『島嶼経済とコモンズ』晃洋書房 2015年

松島泰勝『琉球独立論:琉球民族のマニフェスト』バジリコ  2014年 

松島泰勝『琉球独立への道:植民地主義に抗う琉球ナショナリズム』法律文化社  2012年

西川潤・松島泰勝・本浜秀彦編著『島嶼沖縄の内発的発展:経済、社会、文化』藤原書店、2010年