憲法と核・原子力
広島市立大学
河上暁弘
キーワード:憲法、核、核時代、核兵器、原子力、原発、生命権、人格権、環境権、地方自治
1.「核時代」と日本国憲法
(1)ヒロシマ・ナガサキと日本国憲法
(2)核兵器の時代としての「核時代」
(3)原子力と「核時代」
2.核兵器と憲法9条
(1)憲法9条2項「戦力の不保持」の法的意味
①潜在的能力説
②警察力を超える実力説
③近代戦争遂行能力説
④自衛力を超える実力説(自衛力合憲説)
(2)政府解釈(自衛力合憲説)による「戦力不保持」規定解釈の理論枠組み
①戦力と自衛力
②「自衛権発動の三要件」(旧三要件)と「武力行使の三要件(7.1閣議決定)」(新三要件)
「旧三要件」(自衛権発動の三要件)
a.「わが国に対する急迫不正の侵害があること」
b.「これを排除するために他に適当な手段がないこと」
c.「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」
「新三要件」(武力行使の三要件、2014年7月1日閣議決定)
a.「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」
b.「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないとき」
c.「必要最小限度の実力を行使すること」
③内閣法制局解釈の基本原則と合憲性審査の3つの基準
④「攻撃的兵器」の保有の禁止
⑤「海外派兵」の禁止(三要件を充たさない海外での武力行使の禁止)
(3)政府の核兵器についての憲法判断
①岸信介首相答弁(1957年)と政府解釈
A.「今現在の核兵器は憲法上適当ではない」(参議院予算委員会1957年4月25日)
B.「核兵器と名がつけばすべて憲法違反というのは行き過ぎ」「原水爆を中心としているような兵器は憲法上の自衛権の意味からいってそういうものを持つということは憲法上妥当ではない」(1957年4月30日参議院外務委員会・岸首相答弁)
②非核三原則(とくに米国軍隊による日本への核兵器の持ち込み)と憲法9条
③憲法上保有することが許される核兵器
「わが国民の生存と安全を保持するためにという目的を達成するための限度内にとどまる」ものを「越えるものは、通常兵器であっても持てない」し、「それを越えないものは、核兵器であるからといって持てないことはない」(1969年2月14日衆議院予算委員会・高辻正己内閣法制局長官答弁)
④核兵器の使用と憲法9条
「昭和五十三年三月十一日の当時の真田法制局長官の見解[自衛のための必要最小限度の範囲内にとどまるならば核兵器の保有も禁止されてはいない―引用者]をベースといたしますならば、核兵器の使用も我が国を防衛するために必要最小限度のものにとどまるならばそれも可能であるということに論理的にはなろうかと考えます。」(大森政輔内閣法制局長官答弁・1998年6月17日参議院予算委員会)
⑤新三要件および安保法制による海外での核兵器使用の可能性と憲法9条
新三要件および安保法制の下で海外における「自衛の措置」が許されるとするならば、自国が武力攻撃を受けていない場合も、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」があるとの政府・国会の判断(存立危機事態の認定)により、いわゆる「限定的な集団的自衛権の行使」を理由として、核兵器の使用が憲法上許される場合もあると解する余地があるのではないか(2016年3月18日参議院予算委員会白眞勲委員質問趣旨)
→海外派兵の一般的禁止などにより核兵器の使用が許されるようには解せないとの趣旨の答弁だが、もともと海外派兵禁止は海外でのあらゆる武力行使の禁止ではなく(その意味で「一般的」な禁止)、三要件を充たさない場合の武力行使の禁止であるから、三要件が変化すると禁止の範囲なり条件が変化する可能性を孕む
3.原発というリスクとコスト―原子力基本法の立法目的と立法事実
(1)原子力基本法の立法目的
(2)地震大国での原子力発電所建設というリスク
(3)電力・エネルギーの大型化・集中化・画一化のリスク
(4)「経済性」と環境負荷
(5)原発労働者の労働環境と労働条件の劣悪さ
(6)原発が持つその他のそもそものリスク
4.原発と憲法
(1)憲法問題としての原子力―先行研究としての小林直樹論文
小林直樹「憲法と原子力」『法律時報』50巻7号・1978年7月
原子力問題の憲法判断枠組みの提示
・憲法13条 幸福追求権、25条生存権 (生命、健康、環境)
・憲法9条 徹底した平和主義と非核三原則、プルトニウム兵器開発につながる原発という視点
・原子力政策のコントロール 国民主権(1条)、「知る権利」(21条)
(2)原発と人権
①生命権
②人格権
③環境権
④平和的生存権
⑤法の下の平等と地方自治
⑥「将来の国民」(憲法11・97条)の権利(将来世代・未来世代の権利)
⑦大飯原発差止訴訟福井地裁判決(2014年5月21日)の原発に関する憲法論
(3)原発と平和
①核軍事技術と原発
②「核潜在力」(澤野義一)としての原発
憲法9条2項「戦力(war potential)」における潜在的能力説(鵜飼信成説)の再評価
③日米同盟・日米核同盟の一環としての原発
④「原子力基本法」2012年改正(「我が国の安全保障に資する」との文言追加)
⑤「積極的平和(構造的暴力の不存在)」概念と原発
(4)地方自治と原発
①住民の「知る権利」「参加」「自己決定」原則
②電源三法と自治体財政
電源三法(1974年、立地自治体へ補助金交付)
・「電源開発促進税法」…電力会社から招集する「電源開発促進税」の概要を規定
・「電源開発促進対策特別会計法」…交付金を支出する特別会計について規定
・「発電用施設周辺地域整備法」…交付金について規定
③原発マネー依存構造と地域自治
④国策(軍事基地・原発)と地方自治
沖縄辺野古問題・辺野古訴訟との共通点
福岡高裁那覇支部判決(2016年9月16日)の論理と国策・国家意思優越論
「住民の総意であるとして40都道府県全ての知事が埋立承認を拒否した場合、国防・外交に本来的権限と責任を負うべき立場にある国の不合理とはいえない判断が覆されてしまい・・・・・・」
<参考文献>
・浅野・杉原(2003) 浅野一郎・杉原泰雄監修『憲法答弁集[1947-1999]』信山社、2003年
・有馬(2012) 有馬哲夫『原発と原爆』文春新書、2012年
・伊藤(2011) 伊藤久雄「原発依存からどう脱却するか」『世界』2011年1月号
・伊東(2011) 伊東光晴「経済学から見た原子力発電」『世界』2011年8月号
・浦田一郎(2012) 浦田一郎『自衛力論の論理と歴史』日本評論社、日本評論社、2012年
・浦田一郎編(2013) 浦田一郎『政府の憲法九条解釈』信山社、2013年
・浦田一郎(2016) 浦田一郎『集団的自衛権限定容認とは何か』日本評論社、2016年
・浦田賢治編著(2012)浦田賢治編著『原発と核抑止の犯罪性』日本評論社、2012年
・浦田賢治(2017) 浦田賢治「核兵器と憲法:朝鮮半島の核危機をどうみるか?」公益財団法人政治経済研究所『政経研究時報』No.20-1・2017年9月
・大島(2011) 大島堅一『原発のコスト』岩波新書、2011年
・海渡(2011) 海渡雄一『原発訴訟』岩波新書、2011年
・加藤(2013) 加藤哲郎『日本の社会主義』岩波書店、2013年
・金井(2012) 金井利之『原発と自治体』岩波ブックレット、2012年
・金井(2017) 金井利之「核害非難自治体と地方自治法」『月刊自治研』2017年3月号
・河上(2012) 河上暁弘『平和と市民自治の憲法理論』敬文堂、2012年
・木村・高橋(2015)木村朗・高橋博子編著『核時代の神話と虚像』明石書店、2015年
・小出(2011) 小出裕章『原発はいらない』幻冬舎ルネッサンス新書、2011年
・児玉(2011) 児玉龍彦『内部被曝の真実』幻冬舎新書、2011年
・小林(1991) 小林直樹『憲法政策論』日本評論社、1991年
・澤野(2015) 澤野義一『脱原発と平和の憲法理論』法律文化社、2015年
・隅野(2012) 隅野隆徳「東日本大震災・福島第一原発事故と憲法」杉原泰雄・樋口陽一・森英樹編『戦後憲法学と憲法』日本評論社、2012年
・地方自治総合研究所(2008) 地方自治総合研究所「提言 30年後の柏崎を考える!」2008年9月
・内閣法制局(2017)内閣法制局執務資料『憲法答弁例集(第9条・憲法解釈関係) 平成28年9月内閣法制局資料』信山社、2017年
・中村(2009) 中村明『戦後政治にゆれた憲法九条』第3版、西海出版、2009年
・西谷(2011) 西谷修「近代産業文明の最前線に立つ」『世界』2011年5月号
・古川・山内(1993) 古川純・山内敏弘『戦争と平和』岩波書店、1993年
・前原(2012)前原清隆「『未来への責任』と憲法」杉原泰雄・樋口陽一・森英樹編『戦後法学と憲法』日本評論社、2012年
・武藤(2011) 武藤一羊『潜在的核保有と戦後国家』社会評論社、2011年
・森(2012) 森英樹「3・11が問いかけたもの」森英樹・白藤博行・愛敬浩二編著『3・11と憲法』日本評論社、2012年
・山内(2012) 山内敏弘「福島原発事故と生命権・生存権」杉原泰雄・樋口陽一・森英樹編『戦後憲法学と憲法』日本評論社、2012年
・吉岡(2012) 吉岡斉『脱原子力国家への道』岩波書店、2012年