国連ミッション計画立案過程における人道問題の取り扱い

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日本平和学会2017年度秋季研究集会

報告レジュメ

 

国連ミッション計画立案過程における人道問題の取り扱い

 

日本赤十字秋田看護大学

新沼 剛

 

キーワード:人道支援、国連統合アプローチ、統合的評価と計画に関する指針(IAP)

 

1.はじめに

 本報告は、国連ミッション計画立案過程に関する一連の指針である『統合ミッション立案過程』(Integrated Mission Planning Process: IMPP)、『統合的評価と計画に関する指針』(Policy on Integrated Assessment and Planning: IAP)、そして『統合的評価と計画に関する手引き』(Integrated Assessment and Planning Handbook)に盛り込まれている「人道的配慮」(Humanitarian Considerations)の視点から、国連ソマリア支援ミッション(United Nations Assistance Mission in Somalia: UNSOM)の設立に向けたミッション評価立案過程における人道問題の取り扱いを検証することを目的とする。

 

2.国連ミッション計画立案過程

 国連ミッション計画立案過程は、概略すると以下のような手続きになっている(IAP Working Group 2013)。まず統合タスクフォース(ITF)主導のもと、特定国における平和の定着に必要な政策を事務総長に提示することを目的に「戦略評価」(Strategic Assessment: SA)が実施される一方、平和維持活動局(DPKO)や政務局(DPA)等の事務局及び国連専門機関・基金・計画等により、人員・装備・予算等の活動面の評価のために「統合技術評価」(Integrated Technical Assessment: ITA)が実施される。これらの評価に基づき、新規ミッションのコンセプトを示す「事務総長報告書」が作成され、これが安保理における新規ミッションの任務、戦略、組織をめぐる議論のベースとなる。最終的に現地ミッションと国連国別チーム(United Nations Country Team: UNCT)は、安保理決議に基づき、「統合戦略枠組」(Integrated Strategic Framework: ISF)を協働で作成し、①現地情勢、平和の定着への課題、国連の果たしうる役割等を含む「統合評価」、②平和の定着に向けた優先課題、③平和の定着に必要な計画、④監査や報告の枠組等を共有する。

 本報告ではUNSOMの設立に向けた計画立案過程のうち、特に「事務総長報告書」(S/2013/69)と安保理における審議に着目し、人道問題の取り扱いを検証する(UN 2013a)。同報告書は、アフリカ連合(AU)が主に治安部門、国連が政治やロジステック等の文民部門を担うことを想定した「AUと国連共同の平和支援活動」(第1選択肢)、政治や開発等の国連の各部門を統合し、アフリカ連合ソマリアミッション(AMISOM)との緊密な連携を想定した「完全に統合化された国連平和構築ミッション」(第2選択肢)、ミッションとUNCTの分離を原則とするが、現地情勢の変化に応じた両者の統合に含みを持たせた「国連支援ミッション」(第3選択肢)、④「国連アフリカ連合ソマリアミッション支援事務所(United Nations Support Office for AMISOM: UNSOA)とは明確に分離された国連平和構築ミッション」(第4選択肢)の4つを提示し、現地情勢を踏まえ、③の選択肢を推奨している。この事務総長報告書の勧告に沿う形で、安保理は③の選択肢に基づき決議2093を採択したが、さらに踏み込んで、2014年1月までに国連事務総長特別副代表(Deputy Special Representative of the Secretary-General: DSRSG)に常駐調整官(Resident Coordinator: RC)と人道調整官(Humanitarian Coordinator: HC)を兼務させるDSRSG/RC/HCの任命(いわゆるトリプルハットアプローチ)を要請している(UN 2013b)。

 

3.「形態は機能に従う」という原則への回帰

 本報告では、『統合的評価と計画に関する手引き』に盛り込まれている「人道的配慮」の視点から、UNSOMにおける組織的統合は時期尚早であったことを指摘する。

 複雑化する現代の紛争に対応するために「中立性」から「不偏性」に活動原則の転換が図られ、現代の国連PKOは介入的要素の強いミッションが数多く設立されるようになった(篠田 2015)。その結果、国連は治安・政治部門だけでなく現地で協働する人道部門も紛争当事者はもとより現地住民からも必ずしも歓迎されなくなっている。実際、国連はソマリア連邦政府と対立するアルシャバーブから「正当な攻撃対象」と見なされている。それだけでなく、AMISOM軍とソマリア連邦政府軍によるアルシャバーブ掃討作戦において一般市民が犠牲になる事例が発生し、AMISOMと連邦政府を支援する国連に対する現地の住民感情も決して芳しくはない。こうした状況を踏まえると、国連の人道部門と治安・政治部門との一定の連携は不可避であり、赤十字国際委員会(International Committee of the Red Cross: ICRC)のように「中立性」を遵守した活動を堅持することは困難であるといえる。

 しかし、現地情勢が緊迫しているからといって、国連平和活動において「人道的考慮」が軽視されてはならない。上記したUNSOMの設立をめぐっては、国連以外の人道機関から、高度な統合化は人道アクセスを阻害するのではないかという懸念が高まった(ACF 2015)。ソマリアにおける人道アクセスの阻害要因は複合的であるため、それを統合化だけに帰することはできないが、少なくともUNSOMの組織的統合は一部の国連以外の人道機関との関係を悪化させている。国連人道問題調整事務所(Office for the Coordination of Humanitarian Affairs: OCHA)が2011年に公表した『統合国連プレゼンス内でのOCHAの組織的関係』(Structural Relationships within an Integrated UN Presence)でも指摘しているように、組織的統合は国連以外の人道コミュニティとの関係を悪化させ、結果的に現地における人道支援活動を停滞させるリスクがある(UNOCHA 2011)。このように国連以外の人道機関の間では現在でも組織的統合への懸念は払しょくされていないのである。

 上記したことから、本報告では『統合に関する事務総長決定』やIAPでも言及されている「形態は機能に従う」(Form follows function)の原則の重要性を指摘するとともに、その適正な運用について検討を加えたい(UN 2008; UN 2013c)。

 

参考文献

  • Action Contre la Faim (ACF) (2015), Consequences of the Structurally Integrated UN Mission in Somalia on Principled Humanitarian Action and Access to Population in Need, ACF Case Study.
  • IAP Working Group (2013), Integrated Assessment and Planning Handbook
  • UN (2013a), S/2013/69.
  • UN (2013b), S/RES/2093.
  • UN (2013c), Policy on Integrated Assessment and Planning (IAP).
  • UN (2008),Decisions of the Secretary-General—25 June meeting of the Policy Committee.
  • UNOCHA, (2011), Policy Instruction: The Relationship Between Humanitarian Coordinators and Heads of OCHA Field Offices.
  • 篠田英明(2014),「国連PKOにおける「不偏性」原則と国際社会の秩序意識の転換」『広島平和科学』36号,pp.25-37.