日本平和学会2017年度秋季大会報告レジュメ
ドイツにおける反核と反原発の結びつき
広島市立大学広島平和研究所
竹本真希子
キーワード: ドイツ、原子力、平和運動、反核運動、環境保護運動
1. はじめに
本報告は西ドイツの反核兵器運動と反原発運動の歴史から、ドイツにおける原子力をめぐる議論を扱うものである。2011年の東京電力福島第一原子力発電所での事故ののち、メルケル政権下のドイツが脱原発宣言を行ったのはよく知られる。これはしばしば日本の原子力依存政策と比較されており、ドイツの原子力政策とその背景については近年日本でも多くの研究成果がみられる。本報告では、こうした研究を踏まえつつ、ドイツの反原発運動と反核兵器運動の関連性を明らかにしたうえで、原子力に対する抵抗運動のあり方について考える。
2. 西ドイツの平和運動の特徴
19世紀末にヨーロッパで始まった平和運動は、国際協調運動と社会主義運動の影響を受けて発展した。知識人によって担われていた運動は、1945年の広島・長崎への原爆投下とナチ・ドイツによるホロコーストを経て、反核兵器運動や人権擁護の運動という草の根の運動になっていった。西ドイツにおいては1950年代の議会外野党の運動や1968年の学生運動の高揚などによる市民運動の発展ののち、ナチの過去をめぐる「過去の克服」の議論や冷戦の影響を受けて、平和運動が市民による抗議運動として発展していくこととなる。
3, 反核運動と反原発運動の結びつき――緑の党を中心に
平和運動は本来環境保護とは関係なく展開されたが、1968年の学生運動の際に女性解放運動などともあわせて「新しい社会運動」として発展し、より広いテーマを扱うようになる。そして1970年代後半に西ドイツで反原発運動が高揚すると、平和運動の側に原爆だけでなく原子力全体に反対する意識が芽生え、同時に環境保護運動の側に核兵器と原発をともに危険視する見方が出てくるようになる。この頃から環境保護団体と平和団体が共同で集会を開催するなど原子力が広く平和運動のテーマとして取り込まれることとなった。こうした傾向は、とくに緑の党の活動に見られた。1980年代初頭の世界的な反核運動の高まりのなかでの議論は、ドイツの平和運動に環境問題という新しいテーマを与えることになり、同時に平和運動が戦争や紛争を防ぐための運動から、より安全な社会を築くための抗議運動、抵抗運動へと転換していく機会となった。
4. おわりに
1980年代初頭、西ドイツの反核運動は日本の原水禁運動にも大きな影響を与えたが、反原発という点では両者の運動は大きく異なるものとなった。本報告の最後に、1990年代以降のドイツにおける原子力に関する議論と平和運動を追い、日本の運動との類似点と相違点について若干の考察を行う。
参考文献
井関正久(2016)『戦後ドイツの抗議運動 「成熟した市民社会」への模索』岩波書店
小野一(2014)『緑の党 運動・思想・政党の歴史』講談社
竹本真希子(2016)「平和運動――東西対立を越えて」石田勇治・福永美和子(編)『現 代ドイツへの視座 歴史学的アプローチ 第1巻 想起の文化とグローバル市民 社会』勉誠出版
竹本真希子(2017)『ドイツの平和主義と平和運動 ヴァイマル共和国期から1980年 代まで』法律文化社
西田慎(2009)『ドイツ・エコロジー政党の誕生 「六八年運動」から緑の党へ』昭和 堂
若尾祐司・木戸衛一(編)(2017)『核開発時代の遺産 未来責任を問う』昭和堂
若尾祐司・本田宏(編)(2012)『反核から脱原発へ ドイツとヨーロッパ諸国の選択』 昭和堂
Takemoto, Makiko (2015) “Nuclear Politics, Past and Present: Comparisons of German and Japanese Anti-Nuclear Peace Movements”, in: Asian Journal of Peacebuilding. A Journal of the Institute for Peace and Unification Studies Seoul National University, Vol.3, No.1, May 2015