脱植民地主義と平和への権利宣言の接合

ダウンロード
7月1日自由論題部会3(前田).pdf
PDFファイル 85.5 KB

日本平和学会2017年度春季研究大会

報告レジュメ

 

脱植民地主義と平和への権利宣言の接合

――レイシズム、ヘイト・スピーチも含めて

 

前田朗(東京造形大学)

 

1 はじめに

1) 報告者の個人史とその背景にある植民地主義

屯田兵の一族(父方も母方も明治初期入植)、戦死した2人の叔父(「シナ事変」と沖縄戦)、長沼訴訟との出会い(1973年9月7日札幌地裁判決)

2) 平和への権利宣言運動とのかかわり

 国連人権機関でのロビー活動(日本軍「慰安婦」問題、在日朝鮮人の人権)、平和への権利国際キャンペーンに参加

3) 本報告の課題

 

2 平和への権利と「植民地主義」「マイノリティ」

1)関連する記述

  「植民地独立付与宣言を想起し」(PP6)、「植民地及びその人民の独立を認める宣言」に具体化されている自己決定に対するすべての人民の権利の実現と一体的に結びついていること」(PP9 )、「民族的または種族的、宗教的及び言語少数者に属する人々の権利の継続的な促進及び実現」(PP35 )、「人種主義、人種差別、外国人排斥及び関連ある不寛容」(PP36 ,37 )

2) 国際人権法の蓄積

1941 大西洋憲章、1945 世界人権宣言、1960 植民地独立付与宣言、1965 人種差別撤廃条約、1966 国際自由権・社会権規約、1990 マイノリティ権利宣言、2001 ダーバン宣言、2007 先住民族権利宣言、2012 ヘイト・スピーチに関するラバト行動計画、2013 人種差別撤廃委員会・一般的勧告35

3 「植民地支配犯罪」と人道に対する罪

1)国連国際法委員会における国際刑法典作成作業

  1947 国連総会決議、1991 国際法委員会・ティアム報告書、1995 国際法委員会・ティアム報告書

2)植民地支配犯罪概念の提唱

 人類の平和と安全に対する罪の法典1991草案第18条  国連憲章に規定された人民の自決権に反して、植民地支配、又はその他の形態の外国支配を、指導者または組織者として、武力によって作り出し、又は維持した個人、若しくは武力によって作り出し、又は維持するように他の個人に命令した個人は、有罪とされた場合、……の判決を言い渡される。

3)植民地支配犯罪概念の削除

 

4 ダーバン会議(2001年)における「植民地支配」をめぐる闘争

1) ダーバン会議における論争の3点セット

植民地支配は人道に対する罪、植民地支配の謝罪、植民地支配の補償

2) 奴隷制と人道に対する罪

13 大西洋越え奴隷取引などの奴隷制度と奴隷取引は、その耐え難い野蛮のゆえにだけではなく、その大きさ、組織された性質、とりわけ被害者の本質の否定ゆえに、人類史のすさまじい悲劇であった。奴隷制と奴隷取引は人道に対する罪であり、とりわけ大西洋越え奴隷取引はつねに人道に対する罪であったし、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容の主要な源泉である。アフリカ人とアフリカ系人民、アジア人とアジア系人民、および先住民族は、これらの行為の被害者であったし、いまなおその帰結の被害者であり続けている。

3)ポスト・ダーバン戦略の崩壊

  9.11 とテロとの戦争、21 世紀植民地主義の再興、グローバル・ファシズムの席巻、人道に対する罪の常態化

5 私たちの課題――日本における現実の理論化と理論の現実化

1) ヘイト・スピーチとの闘い――レイシズム分析の深化

2) 包括的な人種差別禁止法の制定

3) 先住民族に対する差別の克服(アイヌ民族、琉球民族)

4)東アジア共同体構想へ

 

 

参考文献(報告者のものに限定)

『平和のための裁判』(水曜社、1994年、増補版2000年)、『戦争犯罪と人権』(明石書店、1998年)、『戦争犯罪論』(青木書店、2000年)、『ジェノサイド論』(青木書店、2002年)、『侵略と抵抗――平和のための戦争犯罪論』(青木書店、2005年)、『軍隊のない国家』(日本評論社、2008年)、『人道に対する罪』(青木書店、2009年)、『文明と野蛮を超えて――わたしたちの東アジア歴史・人権・平和宣言』(徐勝氏と共編、かもがわ出版、2011年)、『平和への権利を世界に』(笹本潤氏と共編、かもがわ出版、2011年)、『9条を生きる――平和をつくる民衆』(青木書店、2012年)、『21世紀のグローバル・ファシズム』(木村朗氏と共編著、耕文社、2013年)、『増補新版ヘイト・クライム』(三一書房、2013年)、『いまこそ知りたい平和への権利』(共著、合同出版、2014年)、『ヘイト・スピーチ法研究序説』(三一書房、2015年)、『東アジアに平和の海を』(木村三浩氏と共編、彩流社、2016年)、『「慰安婦」問題・日韓合意を考える』(編著、彩流社、2016年)、『「慰安婦」問題の現在』(編著、三一書房、2016年)、『旅する平和学』(彩流社、2017年)

「植民地支配犯罪論の再検討」『法律時報』87巻10号(2015年)

「植民地主義との闘い――ダーバン宣言とは何だったのか」『社会評論』87号(2017年)

連載「ヘイト・スピーチを受けない権利」『部落解放』711号(2015年)より25回連載中