現代を生きるアイヌ民族として

日本平和学会2017年度春季研究大会 

現代を生きるアイヌ民族として 

ノルウェー北極大学

鵜沢加那子

 

キーワード:先住民族、人権、発展の権利、自決権、先住民族参加型社会構造、ILO第169号条約、先住民族権利宣言、多文化共生 

 

1.はじめに

 本報告では、日本における先住民族とされるアイヌ民族から見る社会構造分析をしたいと思う。一般的な日本社会では、アイヌ民族と言えば、誰もが一度は耳にしたことがある民族ではあるが、あまりよく知らない民族のひとつでもあるのではないだろうか?その聞いたことはあるが、あまり知らないアイヌ民族の現代の生き方について模索していきたい。

 

2.アイヌ民族としての学び

私の祖父貝沢正は、アイヌ社会では知られる活動家であった。祖父は毎朝5時には起床し、緑茶を飲みながら新聞を読むのが日課であった。面白い記事があればそれをカッターで丁重に切り取り、それらを大切に保管していた。そんな祖父の勤勉さは幼い私にも印象を残した。また、親しくなった新聞記者とは文通をする事もあったようだ。祖父の死後、その記者が二風谷を訪れた際、祖父の書斎で寝かせて欲しいと言い一晩過ごすこともあった。この社会的に違う立場にあった二人がこのような信頼できる、そして、実りのある友情を持つことができたのは、アイヌ、日本人にかかわらず、互いを人間として尊敬し、認め合うことができたからではないだろうか?この報告では、アイヌ民族の血を引く個人としての学びを語る。 

 

3.現代に生きるアイヌ民族の学びの場

ノルウェー北極大学での博士課程進学が決まった際、今まで自分の心の拠り所としてきたレラチセ(大学時代にアルバイトをしたアイヌ料理店)のような、都市部における若者の学びの場はないかと考え、2010年に設立された札幌大学ウレシパクラブを博士論文の題材のひとつとして研究することを決めた。今では多くの若者が高校卒業後、職や大学進学のため都市部に移動するのは過疎化のひとつとして社会問題とされるが、私はこの新しい社会現象の中でアイヌの現代の生き方を追求することを決めた。新しい都市部でのアイヌとしての表現や生き方とはどのようなものなのかを探る。

 

4. 先住民族参加型の社会と自決権

自分のことは自分で決める。自分や自分が属する会社やグループにとって何が一番なのかを考え、それに沿って行動すると言うのは、誰もが当たり前のように考える理想ではないだろうか?しかしながら、その理想は今の日本社会では、一番達成するのが難しい理想なのかもしれない。その当たり前のことを言語化し法律化したのが国際法ILO第169号条約や先住民族権利宣言である。国際法ILO第169号条約は、先住民族が初めて草案の段階で参加することができた国際法でありその意味でも歴史的な意味がある。先住民族が自らの文化に影響を及ぼしかねないプロジェクトなどに対して意見を述べる権利が参加権であり、自ら決める権利を自決権とする。つまり、先住民族として自らの文化を育み、それをどのような方法で次の世代につなげていくのかを決める基本的な権利をこの条約と宣言で明らかにしているのだ。では、一般庶民である我々がそのような権利をどのように守り、実践していくことができるのであろうか?この報告では、それを模索していきたい。 

 

 

 

 

参考文献、一般社団法人札幌大学ウレシパクラブ(2013)「ウレシパ オルシペーアイヌ文化で育て合う日々—」般社団法人札幌大学ウレシパクラブ