日本平和学会2017年度春季研究大会
自由論題部会5:アイヌと琉球民族にとっての植民地主義と憲法
-脱植民地化のための平和学/平和学の脱植民地化にむけて
先住民族:脱植民地化の平和学と憲法
-「近代国民国家」の再検証と平和学-
恵泉女学園大学・市民外交センター
上村英明
キーワード:アイヌモシリ、琉球、脱植民地化、自己決定権、先住民族
1.はじめに:2つの事例報告
1)1890年代の「沖縄県」の様子:日本人旅行者の日記
「当地ニテ内地人ノ威張ル有様ハ、調度欧米人ノ日本ニ来テ威張ルト同シ釣合ニテ、利ノアル仕事ハ総テ内地人の手ニ入リ、引合ハサル役廻リハ常ニ土人ニ帰シ、内地人ハ殿様ニテ土人ハ下僕タリ。・・・・・是レ優勝劣敗ノ結果ニテ、如何トモスヘカラサル訳ナレトモ、凡ソ亡国の民ホドツマラヌモノハナシ。」(琉球政府編『沖縄県史』第14卷資料編4、琉球政府、1965年)
⇒1872年「琉球併合」の開始、1879年「琉球併合」の完成=「沖縄県」の設置
2)2017年「北海道150年事業」(北海道):基本理念
「縄文文化やアイヌ文化をはじめとする本道独自の歴史や文化、国内外に誇る豊かな自然環境は、かけがえのない道民の精神的豊かさの源です。
本道が「北海道」と命名されてから150年目となる2018年(平成30年)を節目と捉え、積み重ねてきた歴史や先人の偉業を振り返り、感謝し、道民・企業・団体など様々な主体が一体となってマイルストーン(=通過点の節目)として祝うとともに、未来を展望しながら、互いを認め合う共生の社会を目指して、次の50年に向けた北海道づくりに継承します。
また、道民一人ひとりが、新しい北海道を自分達の力で創っていく気概を持ち、北海道の新しい価値、誇るべき価値を共有し、国内外に発信することにより、文化や経済など様々な交流を広げます。」
*参考:1984年「アイヌ新法案」(北海道ウタリ協会(当時)総会採択)
「北海道、樺太、千島列島をアイヌモシリ(アイヌの住む大地)として、固有の言語と文化を持ち、共通の経済生活を営み、独自の歴史を築いた集団がアイヌ民族であり(中略)明治維新によって近代的統一国家への第一歩を踏み出した日本政府は、先住民であるアイヌとの間になんの交渉もなくアイヌモシリ全土を持主なき土地として一方的に領土に組み入れ、また、帝政ロシアとの間に千島・樺太交換条約を締結して樺太および北千島のアイヌの安住の地を強制的に棄てさせたのである。」
2.植民地主義と脱植民地化のプロセス
*植民地主義:資本主義を土台とし「文明化」と「同化」を政策理念とする近代国家の暴力装置(西川、2006)
*国際社会における「自己決定権」の登場と「脱植民地化」のプログラム
・国際連盟:委任統治制度>敗戦国の植民地の解体
・国際連合:①信託統治制度>敗戦国の植民地の解体、②非自治地域制度>戦勝国の植民地の解体
⇒非自治地域の脱植民地化の促進:「植民地独立付与宣言」
脱植民地化のプロセスにおいても、常に「宗主国政府」の植民地認識が優先し、これを「被支配集団」の視点に変えることが、脱植民地化の運動の本質(上村・藤岡、2016)
3.日本における「植民地(外地)」の認識
1)「宗主国政府」としての日本政府の植民地認識と植民地のその後
*本国と異なる法体系の地域:「異法地域」
・具体的な植民地:台湾、朝鮮、関東州租借地、南洋委任統治地域、1943年以前の樺太
*植民地(外地)は第二次世界大戦の敗戦によってすべて放棄(「植民地放棄」と「植民地忘却」)
2)脱植民地化プロセスの本来のあり方
*「異法地帯」を「本国の法体系」に平等に包摂すればよいのか
⇒「樺太」(1943年以降)の法的地位の転換:「植民地」から「本国」へ(「内地編入」)
>「本国化」しても十分に法的に支配可能と認識(樺太先住民族と日本人の圧倒的人口格差)=平等な法体系・民主主義の下でも十分な支配とその継続が可能(被支配集団が、少数者で、多数者集団の無関心と偏見があれば・・・・)と判断されれば、宗主国自身によって「植民地」は名目上「解放される」(デンマークとグリーンランド)
*萱野茂さんの陳述(1988年):
「民主主義なるものは、後から来た者だって数さえ多ければ、先住民、先住民族のアイヌの権利などは無視して、アイヌが何を言っても国は、道は、市町村は、アイヌの願いや訴えに声を貸そうとしないのであります。
数や力で決められる民主主義なるものは、数の少ない先住民族、アイヌ民族に言わせると全くと言ってもいいほど頼りにもならない。
数の暴力に見えて仕方がないのであります。
それはわたし一人の考えではなしに、世界の先住民族、そして少数民族アイヌの悩みでもあります。」(本多勝一『先住民族アイヌの現在』朝日新聞、1993年)
4.立憲主義と支配・搾取
1)アイヌ民族と二風谷ダム・平取ダム
・1997年:「二風谷ダム判決」・・・・2014年:平取ダム再着工
⇒萱野茂の問題提起は克服されているのか
2)琉球民族と辺野古と高江
⇒翁長雄志の「自己決定権」に関する本質的な問題は理解されているのか
5.脱植民地化と「自己決定権」が求めるもの
1)平等な扱いではなく、固有な権利集団としての認識、当該権利集団へ対等な法的権利(集団的権利)体系の保持者であることの確認
2)その根拠である歴史と文化の固有性、支配・被支配の関係性の問題に関する近代国民国家自身の検証
>敗戦体験・昭和の軍国主義に厳しい平和学=「明治国家」は「優れた近代国家」だったのか:「司馬遼太郎史観」「丸山眞男政治学」の再検証
>憲法は、多民族・多文化集団の存在を想定しておらず、先住民族の権利や地方自治の権利では弱体すぎる
参考文献
- 上村英明『新・先住民族の「近代史」』法律文化社、2015年
- 上村英明・藤岡美恵子「日本における脱植民地化の論理と平和学」『平和研究第47号 脱植民地化のための平和学』(日本平和学会)、早稲田大学出版部、2016年
- 外務省条約局編『外地法制誌』第2巻、外務省、1957年
- 越田清和編『アイヌモシリと平和』法律文化社、2012年
- 徐勝・前田朗編『文明と野蛮を超えて』かもがわ出版、2011年
- 本多勝一『先住民族アイヌの現在』朝日新聞社、1993年
- 永原陽子編『「植民地責任」論』青木書店、2009年
- 琉球政府編『沖縄県史』第14卷資料編4、琉球政府、1965年
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