G7各国は国連人権理事会で検討されている平和への権利の国際法典化の動きに賛意をしめしてください。

 私たちは、平和を願う市民社会における団体として、G7伊勢志摩サミットで、戦争の違法化や武力行使の禁止といった課題が討議され、人間の安全保障が真に有効となる対策がうちだされるのかを危惧しています。

 

 20世紀における2度の世界大戦などの経験を経て、人類は戦争の違法化、武力行使の禁止という大きな流れをつくってきました。国連憲章においても、武力による威嚇又は武力の行使を原則として禁止し(第2条4項)、武力行使は、国連が必要な措置をとるまでの間に限定した自衛権の行使(51条)、または、安全保障理事会の承認が必要という国際法上の枠組みができました。

 しかしながら、イラク戦争(2003~2011)では、米国は、安全保障理事会の承認がないまま武力行使をおこないました。理由とした大量破壊兵器はありませんでした。戦争により50万人以上の人が命を落としました、(ワシントン大学のエイミー・ハゴミアン氏のひきいる国際チームの調査)。2004年4月と11月の米軍のファルージャ攻撃の際には、民間人への攻撃がおこなわれ、白リン弾が使用されたとされます(イタリア国営放送RAIドキュメンタリー番組)。またアブグレイブ刑務所では、拷問や非人道的取り扱いがなされた証拠が出されています(米軍の内部調査書)。

 また2011年3月から10月まで続いたNATOによるリビア軍事介入は、リビアの人々の人命を保護するためという安全保障理事会の決議に基づくものでしたが、英軍、仏軍はリビア政権退陣を要求していました。国際法上の疑義が生まれています。この攻撃でも数十人の市民が犠牲になりました。(NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書)。シリアへの有志国による空爆も明確な安全保障理事会の決議はなく、米国は個別的自衛権の行使と国連憲章51条に基づく集団的自衛権の行使と説明してきました。シリアの内戦に有志国が介入することで、戦闘は激化して、政治的解決が複雑化していきました。多くの市民の犠牲と大量の難民が生まれています。シリア周辺国にのがれた難民は400万人以上、国内避難民が760万人います。(UNHCR・2015・7の発表)

 

 武力行使禁止という国際社会の合意があるのにも関わらず、たびたび戦争がひきおこされ、戦争犯罪が起き、人民が犠牲になっていく事態が続いています。こうした事態に危機感を持ち、解決の糸口を見つけようと努力しているのが、国連人権理事会の平和の権利国際法典化の作業です。平和と戦争の問題を、国家間の問題ととらえず人民の平和への権利という視点でとらえ、法典化することで、武力行使を抑制していくことができます。国家は間違った政策判断をすることがあります。それを抑止する方策が必要です。

 日本国憲法は政府判断が誤ることを認めていて、前文では、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍がおこることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し」「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」としています。平和への権利に通ずる考え方です。

 

 2005年、スペイン国際人権法協会が「平和への権利国際キャンペーン」を開始しました。世界各地でNGOや専門家の会議を重ね、2010年12月「平和への人権に関するサンチアゴ宣言」が出されました。この宣言は平和を実現するための人民の権利が項目をあげて具体的に提示されています。このサンチアゴ宣言を土台にして、人権理事会のもとにある諮問委員会が、2012年4月に平和への権利の宣言草案を作成しました。しかし、2013年に平和への権利作業部会の議長が交替し、コンセンサス方式ですすめることになり、2014年6月に出された議長案は、諮問委員会案よりも後退するものとなりました。平和への権利という文言自体がなくなっていました。諮問委員会の案は米国、EU、韓国、日本などが反対しました。そういった経緯のなか、2014年の議長案が出されたと思われます。

 

 平和にたいする強いメッセージを発するための場であるサミットですが、これまでその参加国の多くが、武力行使の禁止に向って大きな前進となるはずの平和への権利法典化に反対の姿勢をとってきました。このことを私たちは危惧します。

 2016年7月から人権理事会の作業が始まります。G7各国は武力行使禁止の流れを前にすすめるため、平和への権利国際法典化に賛意をしめしてください。とりわけ議長国日本は、前述したように憲法前文に、平和的生存権をかかげています。伊勢志摩サミットではリーダーシップを発揮して議論をすすめてください。各国政府は次の措置をとってください。

 

  • 各国政府は「平和への権利」をあらゆる人権の基礎となる権利として認めること。
  • 2016年7月からの国連人権理事会作業部会で、1978年の国連総会での「平和に生きる社会の準備に関する宣言」、1984年の国連総会「平和への人民の権利に関する宣言」を受け継ぎ発展させるために、サミット参加各国政府は、平和への権利国連宣言に賛意をしめすこと。
  • 各国政府は国連人権理事会での審議を、2012年の諮問委員会案を土台にして議論すること。
  • 戦争防止とともに、貧困や差別などの構造的暴力をなくすために、各国政府は個別政府の義務として人民の平和への権利を保障する措置をこうじること。

 

2016年4月

 

                 不戦へのネットワーク

ピースボート

                         日本平和学会中部・北陸地区研究会

                   平和への権利国際キャンペーン・日本実行委員会

                          日本国際法律家協会(JALISA)

                          名古屋学院大学平和学研究会

 

■呼びかけ団体/賛同団体(者) 14団体 28名 (5月28日現在)

 

  • 不戦へのネットワーク
  • ピースボート
  • 日本平和学会中部・北陸地区研究会
  • 平和への権利国際キャンペーン・日本実行委員会
  • 日本国際法律家協会(JALISA)
  • 名古屋学院大学平和学研究会
  • 特定非営利活動法人 市民社会研究所
  • 特定非営利活動法人 みえNPOネットワークセンター
  • 特定非営利活動法人 四日市NPO協会
  • 特定非営利活動法人 ユニバーサル就労センター
  • リリオの会
  • 公益財団法人 アジア保健研修所
  • 特定非営利活動法人泉京・垂井
  • 特定非営利活動法人 名古屋NGOセンター
  • 清水 香子
  • 西井 和裕
  • 寺尾 光身
  • 山本 みはぎ
  • 伊藤 武和
  • 阿部 太郎
  • 磯貝 治良
  • 宇井 志緒利 立教大学
  • 稲垣 康夫
  • 白井 昌彦
  • 工藤 志保
  • 今井田 正一
  • 神田 すみれ
  • 藤井 克彦
  • 魯 慈忍
  • 滝 栄一
  • 佐藤 仁志
  • 水島 正起
  • 三田 景子
  • 津山 直子
  • 伊与田 昌慶
  • 西垣 千栄子
  • シリア支援団体サダーカ 森野 謙
  • 平山 恵
  • 植村 和子
  • 成島 有史
  • 宇都宮 亮二
  • 鉄井 宣人