2016年度 秋季研究集会

2016年10月22日(土)〜23日(日)明星大学(アクセスマップ・キャンパスマップは以下よりダウンロード可)

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2016年10月18日現在

 

日本平和学会2016年度秋季研究集会プログラム

 

2016年10月22日(土)〜23日(日)

開催校+会場:明星大学

 

大会テーマ「軋む平和を立て直す―グローバル/ローカルな知と実践に学ぶ」

 

<開催趣旨>

 日本の平和主義が土台から軋んでいます。立憲主義が蔑ろにされ、産官学あげての軍事技術開発への動き、武器輸出の緩和、集団的自衛権の行使など、安全が保障されるどころか、戦争や紛争によって平和が脅かされる事態が忍び寄ってきています。さらに、福島第一原発事故による被災者救済を打ち切る帰還の強制、沖縄辺野古基地移設など、多くの人々の声とは反対の政策が強硬に進められています。同時に、子どもの6人に1人が貧困、女性の3人に1人が非正規雇用という「格差」が、目に見える形で深刻化しています。

こうした背景には、権力側に忖度する報道界・教育界・出版界、消費民主主義に陥った有権者、税金の使い道に無頓着な納税者、経済的合理性を優先する経財界があります。しかし、これは今に始まったことではなく、連綿と続いてきた日本の社会構造、日本人の意識構造でもあります。平和を軋ませている権力者を批判するのは容易いですが、それを問題視してこなかった私たちの無自覚さも透けてみえてきます。私たちがこれまで享受してきた平和は、そのような無自覚さゆえ、軋み始めているのではないでしょうか。

一方で、立て直しの動きが、各地で常態化しつつあります。国会前デモは、いつもの風景になりました。世界各地で多くの人々が、貧困問題や福祉、環境問題に向き合い、取り組んでいます。秋季集会では、今後の東アジア情勢の行方を見据えつつ、人々がつくる平和に向けた豊かな実践を皆で共有し、軋む平和を立て直すための確かな一歩にしたいと思います。

 

開催校理事 毛利聡子

 

10月22日(土)

 

9:10-11:30  

自由論題部会1<単独報告>

 

報告:柏崎正憲(東京外国語大学)

入国管理のセキュリティ化の日本的特徴

討論:前田幸男(創価大学)

報告:小阪真也(立命館大学)

移行期の正義の継承――国際刑事法廷の現代的位相と残存(residual)メカニズムへの要請

討論:二村まどか(法政大学)

報告:藤井広重(東京大学大学院総合文化研究科)

 「国連PKO 文民の保護マンデートにおける文民要員の重要性――国連南スーダン共和国ミッションの教訓からの考察

討論:井上実佳(広島修道大学)

司会:二村まどか(法政大学)

 

 

9:10-11:30

部会1「ポスト・オバマ時代の日米安保体制と東アジア──対米従属相対化の可能性」

 

集団的自衛権行使解禁と安保法制の成立により、日米の軍事協力が強化されることとなったが、冷戦時代と比べて日米安保体制・在日米軍基地の意味が変質した今日、対米従属の相対化こそが求められているという議論が一方で展開されている。しかし他方では、立憲主義の侵害という形で強行された集団的自衛権行使解禁という暴挙にもかかわらず、その政権に対する支持を与え続ける日本の民意が厳然と存在するのも事実である。東アジア地域における「南沙諸島海域での中国と周辺国との軋轢」を踏まえた上で、「日米安保体制からの脱却」という展望は現実性を帯び得るのか。ポスト・オバマ期においてもなお、東アジア諸国間の信頼感醸成に基づく集団安全保障体制の確立という方向性は、そもそも夢物語であり、中国・北朝鮮脅威論を喧伝しつつ対米従属を一層強めるという道しかありえないのか。本部会では、安保法制を批判的に分析し、戦後日本の対米従属構造相対化の可能性について検討する。

 

報告:永山茂樹(東海大学)

安保法制と日米同盟の行方――東アジアの現状を踏まえて

報告:白井聡(京都精華大学)

 「永続敗戦レジームにおける日米安保体制

報告:猿田佐世(新外交イニシアティブ(ND)事務局長・弁護士)

 「日米安保体制克服にむけた方法論――『新外交イニシアティブ』の意義

討論:李鍾元(早稲田大学)

司会:麻生多聞(鳴門教育大学)

 

 

11:30-12:20 昼休み

 

12:20-14:20 分科会

 

14:30-15:20 総会

 

15:30-18:00

部会2 ラウンドテーブル「多摩地域発 平和な社会づくりにむけた挑戦」(開催校企画)

 

「域学連携」「地域貢献」など、大学と地域の連携が叫ばれている。それは上からの大学改革のなかで、人文社会系の学問の軽視とも連動している点は当然批判していく必要がある。しかし、狭義のアカデミズムの枠に閉じこもらず、平和な社会づくりへの志向性をもって展開してきた平和学にとって、「域学連携」や「地域貢献」の推進は、新たなチャンスの到来とも捉えられる。ただそこには 、平和学会の会員が、所属している大学、あるいは生活の場など足元の地域社会に、もっと目を向ける必要があろう。

そこで本開催校企画は、明星大学周辺の地域社会で展開されている、平和な社会づくりにつながる豊かな実践報告を手掛かりに展開する 。大学を地域社会に拓き、そして地域と連携して、平和な社会づくりをどのように進めていけばいいのかを考える。実践報告に学び、平和学の射程を拡げる機会としたい。

 

パネリスト(パネリストプロフィールはこちら):

<多摩市発> 山川勇一郎(たまエンパワー株式会社)

都市部における市民発電事業モデルをつくる

<川崎市発> 渡辺賢二(明治大学平和教育登戸研究所資料館)

戦後70年過ぎて甦る登戸研究所――戦争遺跡を保存・活用し平和教育の拠点へ

<日野市発> 伊藤勲(認定NPO法人「やまぼうし」)

やまぼうし『共に生き・働く場づくり』のアプローチ――満蒙開拓団拓務訓練所から障害児者施設七生福祉園への歴史を踏まえて

<立川市発> 江頭晃子(市民アーカイブ多摩)

市民活動の足跡を未来につなぐ 市民活動資料センターの誕生

司会・進行:熊本博之(明星大学)・竹峰誠一郎(明星大学)

 

 

18:30-20:30 懇親会

 

******

10月23日(日)

 

9:10-11:30

自由論題部会2(パッケージ企画)「国家、(無)国籍、そして人間」

 

 「いずれの国家によってもその法の運用において、国民とみなされない者」と国際法上定義される無国籍者は、世界に1,000万人以上存在すると言われ、人権侵害や差別など様々な困難に陥っている。近年、無国籍者保護に関する国際的取組みが活発化し、無国籍予防の国際規範とその国内実施に注目が集まっている。他方、一部の自由民主制諸国の政府は、対テロ安全保障政策の一環として、自国民の国籍を剥奪する権限の強化を進めている。

 このような背景から、実務、学術、市民社会の領域を問わず、(無)国籍に対する関心はグローバルな次元で高まっている。そこで本部会において、「国家、(無)国籍、そして人間」というテーマを設け、文化人類学や国際法、国内法、国際関係論といった視点から議論することを提案する。このテーマを通じ、人間と国家の関係を、(無)国籍というレンズから再考する機会を提供したい。

 

報告:陳天璽(早稲田大学)

国籍、パスポートと人間

報告:秋山肇(日本学術振興会特別研究員・国際基督教大学大学院)

国際法における無国籍の予防と日本の国籍法

報告:新垣修(国際基督教大学)

国籍の剥奪と安全保障化

討論:佐藤安信(東京大学)

司会:阿部浩己(神奈川大学)

 

9:10-11:30

自由論題部会3(単独報告)

 

報告: 名嘉憲夫(東洋英和女学院大学)

政治学的観点から考える安倍政権による『9・17安保法制強行採決』の性格――“リーガル・クーデター”概念の提案

討論:小林誠(お茶の水女子大学)

報告:岡野内正(法政大学)

人類遺産相続基金共同体と歴史的正義回復審判所の設置を実現するために

討論:佐伯奈津子(名古屋学院大学)

報告:平林今日子(京都大学大学院医学研究科) 

セミパラチンスク地区住民の核実験に対する認識について――疾患・障がいを持つ子どもとその保護者に対するインタビューより

討論:藍原寛子(ジャーナリスト Japan Perspective News 株式会社)

司会:小林誠(お茶の水女子大学)

 

9:10-11:30

部会3 「芸術文化と平和 クンストとしての音楽の可能性」

 

 かつて多木浩二は最晩年に、スーザン・ソンタグがユーゴ紛争時のサラヴォにおいて「ゴドーを待ちながら」を上演したことを引き合いに出し、イラク戦争以降の「戦争化した世界」の中で生き抜く上で、カントのいうクンスト(Kunst)=日常生活および芸術文化を守り抜くことの重要性を指摘した(『映像の歴史哲学』)。音楽もまた、ひとびとの人間としてのいとなみである日常の技芸、そして芸術文化としてのクンストを構成する重要な要素であり、ネオリベラルなグローバル化に抗して日常を生き抜くための力となり、時には社会を変革する可能性をも持っている。その一方で、こうしたクンストを操作し、支配しようとする側の力を無視することもできないし、そうした支配の力に屈服してしまうひとびとがいることも否めない。本部会ではこうしたクンストとしての音楽がもつ多様な側面を、2000年代初頭にロンドンの公営団地や海賊ラジオから生まれたダンス・ミュージックであるグライム、2010年代から特に全世界的な流行となっておりPLUR(Peace, Love, Unity , Respect)の精神を標榜するEDM(Electronic Dance Music)、国際関係史の中の西洋音楽の歴史性や権力性、多様性をふまえた分析、以上3本の報告によって検討し、広い意味での平和と芸術文化活動の関係を探究していきたい。

 

報告:横山純(フォトグラファー)

 「Grimeと”Consciousness”の再興 10代のグライムアーティストとの対話から

報告:田中公一朗(音楽評論、上智大学)

 「EDMとコスモポリタニズム PLURと音楽の暴力性

報告:半澤朝彦(明治学院大学)

 「西洋音楽による平和活動の功罪 エル・システマ、サイード=バレンボイム・プロジェクトなど

討論:水越真紀(ライター)

司会:芝崎厚士(駒澤大学)

 

 

11:30-12:00 昼休み

 

12:00-14:00 分科会

 

14:10-16:40 

部会4 「税と平和――『パナマ文書』の闇に光を照射する」

 

2016年4月、世界に衝撃が走った。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、パナマの法律事務所から漏洩した顧客情報を世界に公表したのである。ロシアのプーチン大統領の側近、中国の習近平国家主席の親族、俳優のジャッキー・チェンなど著名な政治家や経営者、セレブが資産隠しや税金逃れをしている実態が明るみとなり、アイスランドの首相に至っては、その座を追われることとなった。

この「パナマ文書」が明らかにしたのは、タックス・ヘイブンの問題である。タックス・ヘイブンは、富裕層や大企業に富を集中させ、格差を広げているばかりではなく、「貧しい」途上国から「豊かな」先進国へ大量の資本を逃避させている。また、タックス・ヘイブンが提供する秘匿性により、マネーロンダリングが横行し、紛争、テロ、犯罪という火に油を注いでいる。つまり、タックス・ヘイブンは、ガルトゥングのいう「構造的暴力」の中核の一つなのである。

さらに、この問題は公平性・公正性の問題も投げかけている。なぜなら大多数の国民は、源泉徴収で納税する一方、富裕層や大企業はタックス・ヘイブンを通じて税を逃れる結果、そのしわ寄せが庶民に来ているからである。公平性・公正性は税の根幹であり、それが歪められていることは、税によって成り立つ社会の危機でもある。

以上の問題意識から、本部会では、まずタックス・ヘイブンの実態を明らかにし、問題点を炙り出す。その上で、タックス・ヘイブン問題の解決策を吟味する。その際、パナマ文書を公表したICIJに焦点を当て、市民社会や報道機関がタックス・ヘイブン問題の解決に果たせる役割についても議論したい。これらの研究報告や議論を通じて、タックス・ヘイブンに対する理解を深め、解決への道筋を明らかにすることが本部会の目的である。

 

報告:三木義一(青山学院大学)

パナマ文書から見えるタックス・ヘイブン

報告:津田久美子(北海道大学大学院)

タックス・ヘイブン問題の解決に向けて ――構造的要因と対抗策の検討

報告:奥山俊宏(朝日新聞編集委員)

パナマ文書と調査報道ジャーナリスト連合 ――内部告発、調査報道、社会の反応、それらの連鎖

司会:討論:上村雄彦(横浜市立大学)

 

14:10-16:40 

部会5 「東電原発事故 問われぬ加害責任――水俣の「教訓」も踏まえて」

(3.11プロジェクト委員会企画)

 

 オバマ米大統領は広島で謝罪しなかったが、あらためて原爆投下の責任の所在を浮かび上がらせた。しかし、広島、長崎のように加害者が明確な核被害においても、被爆70余年その米国の加害責任が真正面から問われることはほとんどなかったと言える。その無責任が一因となり、核兵器・核発電は日本へ世界へと拡散した。核被害も世界に広がったが、その責任はまたも十分に追及されず、同様の被害が繰り返されてきた。

 水俣病事件では、①環境汚染による人的被害を起こしたこと、②対策を怠り、被害を拡大させたこと、③補償を部分的かつ不十分にしか行わなかったこと、の三つの無責任・無作為が、加害企業と行政に問われてきた。

 加害責任が問われ、裁かれ、応分の処罰と十分な補償が行われることこそが、加害の再発を防ぎ、私たちの世代が次世代への責任を果たすためにも不可欠である。この水俣の教訓にもかかわらず、東電原発事故の5年間、過去の教訓が活かされてきたとは言えず、同様の無責任が繰り返されている。

 来年3月末に飯舘村の避難指示が解除され、さらに「自主」避難者への住宅支援が打切られるなど、帰還とセットになった補償打切りが進められる。しかし、その事故の責任に関しては、検察審議会の二度の議決を経て、旧東京電力経営陣に対し、その刑事責任の一部が問われる裁判がようやく緒についたばかりであり、上記の三点が十分に問われているとは言えない。さらに、核利用を進め、電力を享受してきた私たち自身の責任の所在も問われてこなかった。

 本部会では、私たち世代の責任を果たすべく、東電原発事故の加害責任を問う当事者の活動を、過去から今まで続く核被害、産業公害事件から得られた「教訓」を中心に、法、人権、補償などの多角的な視点から問い直すものである。

 

(報告者プロフィールはこちら

報告:武藤類子(福島原発告訴団団長)

 「原発事故は終わらない」

報告:海渡雄一(福島原発告訴団弁護団)

 「福島原発事故の刑事・民事責任を問う裁判の現状と課題」

討論:清水奈名子(宇都宮大学)

横山正樹(フェリス女学院大学)

司会:平井朗(立教大学)

 

14:10-16:40 

ワークショップ「レイシズムにさよならする方法: 防止マニュアル作りを通じてレイシズムを考える」(平和教育プロジェクト委員会企画)

 

近年日本においては、特定の民族や国籍をターゲットとしたヘイトスピーチが、大きな社会問題となってきた。平和教育プロジェクト委員会では、社会の構造に深く埋め込まれており、直接的暴力を正当化する文化的暴力としても機能し、また直接的な暴力としても行使される、レイシズムについて考えるワークショップを提供する。参加者が思い描く単位の公的空間において、行為・言動としてのレイシズムを防止するためのマニュアル作りを通して、私たちの社会に存在するレイシズムを見つめること、そして、レイシズム防止マニュアルという、ネガティブフィルタリングでレイシズムを克服することができるのかを話し合うことで、「レイシズムへさよならする」ことを考える機会としたい。

 

ファシリテーター:

ロニー・アレキサンダー(神戸大学)、杉田明宏(大東文化大学)、鈴木晶(横浜サイエンスフロンティア高校)、高部優子(Be-Production)、暉峻僚三(川崎市平和館)、堀芳枝(恵泉女学園大学)