日本平和学会2016年度秋季研究集会
報告レジュメ
西洋音楽による平和活動の功罪
明治学院大学 国際学部
半澤 朝彦
キーワード:グローバリズム、ナショナリズム、西洋近代、アート、教育
1.はじめに
音楽「ジャンル」の問題性
政治学・平和学として = 動員とアイデンティティ、ヒエラルヒー
西洋古典(クラシック)音楽とは?
ジャズ・ロック・ヒップホップは「抵抗の音楽」か?
2.西洋近代音楽に貫徹するもの
(1)音楽概念の生成
記譜法 ← デカルト座標 ※絵画の遠近法に相当
作品概念(アート)
記録、再現可能性
(2)「絶対音楽」 →「サウンド主義」
構造(音域、声部、バス)
(3)身体性(言語)
等拍性
フレージング
3.トランスナショナルな音楽?
(1)多国籍性・多文化性
地中海 → 北ヨーロッパ → 北米
(2)オリエンタリズム
ベートーヴェン、モーツァルト、サンサーンス、ヴェルディ
「リベラル・アワー」の音楽、ビートルズ、ワールドミュージック
(3)ナショナリズム
「国民楽派」、Jpop,Kpopなど
(4)アフリカのリズム
← アングロサクソン・ユダヤ人等が摂取
4. 平和活動
(1)サイード=バレンボイム・プロジェクト
(2)エル・システマ、スズキ・メソード
(3)カザルス、ヨーヨーマ、ボノ、ユネスコ平和芸術家 etc.
5.まとめ
音楽にはアイデンティティを育て、人間を連帯させる力があると同時に、理性を超えた「排他性」を促進する作用もある。音楽の「ジャンル」とはきわめて政治的なものであるが、人々にその認識は薄い。音楽が「世界語」であるという言説は、西洋音楽の世界支配を正当化する一種の傲慢でもある。いわゆる「(西洋)クラシック」音楽に限らず、ジャズ、ロック、ヒップホップ、ダンスミュージックであれ、一定のジャンルをなせば、それは歴史と儀式、メンバーシップを伴う「クラブ」である。そのことを自覚しない平和活動は危うい。
参考文献抄・DVD
『ラマラ・コンサート:ウエスト=イースト=ディヴァン・オーケストラ』ワーナーミュージック・ジャパン
エドワード・サイード(大橋洋一訳)(2001-)『文化と帝国主義(上)(下)』みずず書房
バレンボイム&サイード(中野真紀子訳)(2004)『音楽と社会』みすず書房
Bruce Johnson & Martin Cloonan (2009), Dark Side of the Tune: Popular Music and Violence, Ashgate
John Street (2012), Politics and Music, Polity
Jindong Cai & Sheila Meivin (2016), Beethoven in China, Penguin
森正人(2008)『大衆音楽史』中公新書
福島亜紀子(2012)『紛争と文化外交』慶應大学出版会
柳沢寿男(2012)『戦場のタクト』実業之日本社
山田真一(2008)『エル・システマ:音楽で貧困を救う南米ベネズエラの社会政策』教育評論社
細田晴子(2013)『カザルスと国際政治』吉田書店
井上貴子(2008)『ビートルズと旅するインド』柘植書房新社
中町信孝(2016)『「アラブの春」と音楽』ディスクユニオン
松宮秀治(2008)『芸術崇拝の思想』白水社