特集「信仰と平和 ―〈宗教〉通念を超えて―」
近代日本におけるreligion の翻訳語としての〈宗教〉は、平和研究にとって欠くべからざる概念であると同時に甚だ扱いにくい概念です。本来的にはクリスティアニティを指すそれは、研究者の分析的目的のために、比較と一般化という想像活動によって産出されたものであって、アカデミズムから離れた独立の実在など持たず、知的目的のために研究者によって産出された「術語」(Jonathan Z. Smith)に他ならないからです。
にもかかわらず、ほぼ一世紀のあいだに、恰も素朴な術語として、それは〈宗教〉なるもののある種の通念を構築しています。そのため、イデオロギーやアイデンティティをめぐる紛争が「民族や宗教など文化的帰属意識」をめぐって起こっている、といった奇妙に構築された認識を生じさせ、宗教の「復興」やそれを基層とする文明の「衝突」、宗教的原理主義や過激主義などが、まるで実在するかのように議論されています。そして、さまざまな信仰の緒言説は、〈宗教〉概念の通念化される以前には存在しなかった「儒教」や「仏教」「イスラーム教」などといった〈宗教〉的言説へと纏められてしまいます。たとえば、イスラームをめぐる諸現象では、まずもってイスラームは本来〈宗教〉ではなく、いわゆる政教分離それ自体が近代キリスト教圏における特異な現象なのであるといった前提から、縷々説かなければならないような事態が、未だに続いているのです。
このままでは、真摯に平和を祈念するさまざまな信仰の言説と行為は、近代の構築した〈宗教〉概念とそれが流布拡散させた通念に自動的に回収されてしまい、平和研究において、いつまでもマージナルな位置に矮小化されざるをえません。「科学の科学」(Pierre Bourdieu)の求められるような科学言説の現況において、平和研究を今後さらに強化するには、さまざまな信仰の力をむしろもっと解放していくべきなのかもしれません。
今回の特集「信仰と平和 ―〈宗教〉通念を超えて―」では、上述のような観点から、通念化してしまっている〈宗教〉の名の下での平和をめぐる言説からより自由に、信仰と平和の諸問題を考えていきます。
ついては、この特集テーマに関わる投稿論文を募集することとなりました。会員諸氏におかれましては、ふるってご応募頂ければと存じます。
また、もちろん、この特集テーマ以外にも「自由投稿」の枠で平和研究の発展に貢献する論文の投稿も受け付けることとなっております。いずれの場合も、投稿された論文は査読審査のうえ、編集委員会が最終的な掲載の可否を決定いたします。
投稿書式:
投稿完成原稿提出の際に確認されるべき投稿書式については、「日本平和学会『平和研究』投稿論文執筆要領」に準拠ください。字数上限は1万6000字です。
投稿の申込み締切:2016年9月30日(金)
投稿申込み方法:
(1)論文仮題、(2)要約(1500字程度)、(3)希望する投稿枠(「特集」あるいは「自由投稿」)、(4)住所・携帯電話番号・メールアドレスを、下記の応募先までe-mailにてお送りください。なお、申込みの際には、受領の確認メールを返信いたしますので、万一、一週間以内に返信ない場合、再度ご連絡ください。
応募先:
『平和研究』第48号編集担当者〔鈴木規夫(愛知大学)、臼杵陽(日本女子大学)、渡辺守雄(九州国際大学)〕heiwakenkyu48@freeml.com 宛にお送りください。
投稿完成原稿提出締切:2017年3月31日(金)
*この投稿に伴う諸日程は、私ども編集委員会の預り知り得ない諸般の事情により例年に比べ大幅に遅れてしまいました。そのため完成稿締切日程等に多少余裕を欠いておりますが、次期2017年春季大会時の発行へ向けて、何卒ご協力頂けますようお願い申し上げます。
2016年8月15日
『平和研究』第48号編集委員会