1.戦後の日米関係を、いまどのように評価できるでしょうか。

「今回の安保法案が成立しても、米国の戦争に巻き込まれることはありません」と安倍首相は国会などの答弁で繰り返し述べてきました。しかし、戦後日米関係の歴史を紐解けば、この発言の空々しさがすぐに見て取れます。

1960年に改訂された日米安保条約では米国による日本の防衛への関与が約束されましたが、日本が米国の防衛に関与する義務は負わないという片務性が当然視されていました。それは、米国の冷戦政策に日本が基地提供などの形で協力することで、当初はこの片務性が問題視されることはなかったからです。しかし、1991年の湾岸戦争時に日本政府が憲法9条を根拠に自衛隊の派兵を断って以来、米国からは日本は「一国平和主義」だとする非難が強まってゆきました。湾岸戦争では日本政府は巨額の戦費負担をしたにも拘わらず、イラク軍から解放されたクウェート政府が発表した感謝の新聞広告の中に日本の名前がなかったことがその後、日本政府のトラウマとなり、以来、歴代の日本政府は自衛隊の海外派遣・派兵の方向を一貫して追求してきました。

最初の突破口となったのは、1992年6月に成立した内戦終結後のカンボジアの平和構築を担うためのPKO協力法でした。しかし、この時は停戦合意の成立を条件にしたため、自衛隊の戦闘参加はあり得ませんでした。その後、2001年9月11日の同時多発テロ事件の発生を受けて、小泉政権は、アフガニスタンに軍事介入した米軍を中心とする多国籍軍に対するインド洋上での「後方支援」を可能にするテロ対策特措法を成立させました。また、2003年3月に国連安保理の合意がないままに、イラク戦争が開始させられた折には、イラク復興支援特措法を成立させ、サマワなどのイラクの一部を「非戦闘地域」と認定し、自衛隊の派遣を強行しました。

このように湾岸戦争以来、日本政府は、「直接戦闘には参加していない」という弁解の下で、自衛隊の海外「派遣」の範囲を拡大してきたのであり、残るは自衛隊の「戦闘参加=派兵」となっているのが現状です。米国側では、共和党系のアーミテージ元国務副長官や民主党系のナイ元国防次官補などが超党派の民間団体として2007年に発表した提言の中で、中国の軍事的台頭や北朝鮮の核保有の脅威などを根拠に、2020年ごろにはアジアにおける米国の一極支配はあり得ないので、改憲によって日本が自衛隊の海外派兵を可能にするように提案していました。

今回の解釈改憲という強引な方法で「集団的自衛権」行使を可能にさせようとする安保法案は、まさにアーミテージ・ナイ提言の方向に沿うものであり、今後、日本の防衛に直接関係がない地域で、米国が勝手に始めた戦争に自衛隊が参戦できる状態を作り出そうとする意図に基づくものと考えるのが適当でしょう。元来、「集団的自衛権」は、軍事同盟の「抑止効果」によって自国の安全を確保しようとする「冷戦時代」の発想であり、冷戦終結後の地域紛争や国際テロ活動に適用するのはあまりに時代逆行的といわざるをえません。

(油井大三郎)

 

参考文献

油井大三郎『なぜ戦争観は衝突するかー日本とアメリカー』岩波現代文庫、2007年。

油井大三郎「世界史に逆行する『集団的自衛権』の陥穽」『歴史学研究』2015年8月。