58.安保法案が成立した場合、憲法改正問題はどうなるでしょうか。

2014年5月15日に安保法制懇が報告書を出し、集団的自衛権の容認に法律以下の法令や政策による制約は認めましたが、憲法上の制約を否定しました。この場合には憲法改正の必要性は弱くなり、あるいはなくなります。報告書の立場は政府によって即日拒否されましたが、その理由の一つはこの点にあるでしょう。

政府は集団的自衛権の容認に一定の憲法上の制約を認める限定容認論の立場に立ちました。すなわち、同年7月1日の閣議決定は1972年の政府資料を基礎において、「基本的な論理」として憲法9条の下でも自国の存立のための武力行使は認められるとし、それを「必要最小限度の『武力の行使』」などに限定しました。その「当てはめ」として「明白な危険」などからなる武力行使の3要件を示しました。その考えかたとして「自国防衛」は認められるが、「他国防衛」は認められないと説明されています。「自国防衛」は自国の防衛のためであれば集団的自衛権は認められ、「他国防衛」は専ら他国の防衛のためであれば集団的自衛権は認められないという概念とされています。

この閣議決定に基づく法案の審議の中で、ホルムズ海峡の機雷掃海のように解釈の拡大が図られると同時に、イラク戦争やアフガニスタン戦争の戦闘に参加することは必要最小限度を超えて、できないというような制約も示されました。

かりに法案が成立すれば、その適用の段階で解釈の拡大と制約の争いが生じます。そのうえで政府は、憲法9条の下で集団的自衛権の容認に違憲の疑いが生じるのであれば、9条を削除することによってこの疑いはなくなるとして、憲法改正を主張するでしょう。憲法解釈による制約は、アメリカによる戦争への自衛隊の動員というアメリカの最終的な要求にとって制約になっているからです。

安保法案が成立した場合、憲法改正問題は一定の段階で本格化すると予想されます。

(浦田一郎)

 

参考文献

浦田一郎「集団的自衛権容認の論理」全国憲法研究会編『日本国憲法の継承と発展』(三省堂)2015年。