54.今回の法案のような憲法解釈の変更は憲法上可能でしょうか。

 政府の憲法解釈は変更できないわけではありませんが、立憲主義から、とくに権力拡大の方向では慎重でなければなりません。

従来の政府解釈では集団的自衛権を理由に武力行使することはできないとされてきましたが、今回の法案では限定的に武力行使することができると解釈が変えられています。2014年7月1日の閣議決定によれば、自国の存立のためであれば武力行使できるとするのが従来の「基本的な論理」であり、それは変えないとされています。その「当てはめ」として従来個別的自衛権は認められるが、集団的自衛権は認められないと考えられていたとします。しかし安全保障環境が変わったので、「当てはめ」として「自国防衛」は認められるが、「他国防衛」は認められないと変えると説明されています。すなわち、専ら他国防衛のための集団的自衛権の行使は認められないが、自国防衛のためであれば今では集団的自衛権の行使も認められるようになった、というのです。

しかし多くの問題が出されています。「基本的な論理」として憲法9条の意味を国の存立という抽象的な理念で削るやりかたが、そもそも立憲主義上問題があります。また安全保障環境の変化として北朝鮮のミサイル開発や中国の海洋進出などが挙げられていますが、一面的で恣意的な認識ではないかと批判されています。また、限定的な集団的自衛権容認論は1960年の安保改定国会で政府から出す試みがされていましたが、北朝鮮のミサイル開発や中国の海洋進出などない時代の話であり、安全保障環境の変化という理由自体に疑問があります。さらに「当てはめ」としての「自国防衛」については、自国が武力攻撃を受けていないのに武力行使する集団的自衛権は、やはり憲法の枠を超えているのではないかと多くの論者から批判されています。「自国防衛」・「他国防衛」という概念は合憲・違憲の基準として明確性を欠いているのではないかという疑問も出されています。

以上のような憲法解釈の変更は実質的には憲法96条の改憲手続に対する脱法行為であり、憲法上認められない解釈改憲ではないかと思われます。(浦田一郎)

 

参考文献

浦田一郎「集団的自衛権容認の根拠論と自衛隊法・武力攻撃事態法改正案」(別冊法学セミナー『安保関連法総批判』)2015年。