53. 法案の国会審議のあり方は議会制民主主義に反していないでしょうか。

 議会制民主主義とはなにか。「議会(国会)が、国政の中心にあって、立法をはじめ国政の基本的事項を、公正な手続で慎重に審議・決定するしくみ」と、さしあたり定義しておきます。それを前提にして、安保関連法案の審議と議会制民主主義との関係について三点を指摘します。

 ①2015年4月のガイドライン改定、米議会での首相の「公約」演説で形成された日米政府間の合意が、日本国内での民主的な合意形成に事実上優先していること(国家主権の疎外)。

 ②統幕が、法案成立を前提にしたPKO派遣の具体的検討をすすめるなど、国会での法案審議は軽視されていること。また国会(をふくめたシビリアン)が軍を適切にコントロールできていないこと(国会の疎外)。

 ③自公両党間の「与党協議」で法案は既定事実化されてしまい、そのあとは、限られた審議時間(当初予定では各院ともわずか80時間)のなかで、野党が指摘した問題について十分に解明が行われていないこと。にもかかわらず、7月15日に衆院で強行採決をしたこと(野党の疎外)。

 三つの疎外(国家主権、国会、野党の疎外)によってすすめられる安保関連法案の審議は、議会制民主主義を倒立させた、異常なものといえます。いま必要なのは、その倒立を再び倒立させ、内閣(自衛隊)や米政府ではなく、「国権の最高機関」「国の唯一の立法機関」(憲法41条)にふさわしいやりかたで法案を審議することでしょう。第189回国会は、そのような憲法上の権限を有し、また責務を負っているといえます。

 さてここまでの話は、19世紀以来の、いわば古典的な議会制民主主義をモデルにしています。古典的な議会の議員は、国民の命令にしばられることなく、自由に活動します。しかし現代国家の議会政治は、主権者の意思を恒常的に反映することが理想とされます。ですから主権者の意思は議員を事実上拘束し、また議員は主権者の意思に敏感であるべきなのです。憲法学説は、前者を純粋代表制、後者を半代表制とよんで、区別しています。

 半代表制の時代にいきるわたしたちが、「安保法案の国会審議のあり方は議会制民主主義に反していないか」という設問に答えようとすれば、国会と主権者の意思との実際上の関係をふまえなくてはなりません。そして国民の意思が議会政治から排除されている(つまり第四の疎外)とすれば、答えはおのずとあきらかです。

 

*本稿は参院審議中の2015年8月半ばに執筆しました。これからさき、議会制民主主義にのっとった審議のすすむことを期待しながら、です。   (永山茂樹)

 

参考文献

憲法研究者による声明「安保関連法案の強行採決に抗議するとともに、そのすみやかな廃案を求める憲法研究者の声明」(2015年7月28日)および「統合幕僚監部内部文書に関わり国会の厳正なる対応を求める緊急声明」(2015年8月21日)

纐纈厚『文民統制―自衛隊はどこへ行くのか』(2005年)

杉原康雄『憲法と国家論―民主主義と立憲主義の国家を求めて』(2006年)