43.「武力の行使」と「武器の使用」の違いは何でしょうか。

     政府は、「『武器の使用』が、すべて同項(憲法第9条第1項―筆者注)の禁止する『武力の行使』に当たるとは言えない」と説明してきました。つまり、「『武力の行使』とは、我が国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為」であるのに対し、「『武器の使用』とは、火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置をその物の本来の用法に従って用いること」と定義づけています。

 「武器の使用」の典型的な例として挙げられてきたのが、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO協力法)第24条の「武器の使用」と自衛隊法第95条に規定する「武器の使用」です。PKO協力法の「武器の使用」については、「自己又は自己と共に現場に所在する我が国要員の生命又は身体を防衛することは、いわば自己保存のための自然的権利というべきものであるから、そのために必要な最小限の『武器の使用』は憲法第9条第1項で禁止された『武力の行使』には当たらない」とされ、自衛隊法第95条に規定する「武器の使用」も「自衛隊の武器等という我が国の防衛力を構成する重要な物的手段を破壊、奪取しようとする行為からこれらを防護するための極めて受動的かつ限定的な必要最小限度の行為に認められているもの」と正当化されてきました。

 しかし、「武力の行使」と「武力の行使」とならない「武器の使用」との境界線は必ずしも明らかであるとは言えません。武力行使が、敵の兵力の殺傷・破壊を目的とする戦闘行為を意味し、戦闘行為が超警察力の行使であるところからすると、政府の言う「武器の使用」の中には、超警察力の行使である「武力の行使」に該当するものも含まれています。

     PKO協力法が制定された当時、「武器の使用」は、個々の自衛隊員の判断に任せられていましたが、のちに原則として現場にある上官の命令により行うものとされ、現在国会で審議中の安保関連法案では、従来違憲の恐れがあると政府自身が認めてきた任務遂行のための武器の使用や駆け付け警護が、可能なものとされています。また、自衛隊法第95条の2が新設され、アメリカ合衆国等の武器の防護の際にも「武器の使用」ができるようになっています。本来の意味での「武力の行使」が「武器の使用」の名の下にますます拡大されようとしているのです。(常岡せつ子)

参考文献

常岡せつ子「武装力の行使を伴う国際活動への参加と憲法第九条」ジュリスト1149号84-92頁