31. 国際法学の立場から安保法制をどのように評価しますか。

 国際法学の立場から、安全保障関連法案をみたとき、<はたして、日本政府は、外国の武力行使の正当性についてきちんと独自の判断を行い、それを表明できるだろうか>という不安を感じざるをえません。集団的自衛権に関わる「存立危機事態」や、国際的な安全保障・平和維持活動に関わる「国際連携平和安全活動」「国際平和共同対処事態」において、日本の自衛隊は他国の軍隊の活動に協力して活動を行うことになります。その場合、当然のことながら、協力の対象となる他国軍隊の活動が、適法なものであることが条件です。

 この条件についての判断は、簡単な問題に見えますが、決してそうではありません。例えば、2001年のアフガニスタンに対する武力行使、2003年のイラクに対する武力行使、そして現在のシリア領域における爆撃について、アメリカ合衆国政府は、いずれも、自衛権行使もしくは国連の集団安全保障に基づく措置として正当化しています。ですから、テロ組織の鎮圧を目的とする外国領域での武力行使が自衛権行使として正当化される可能性、あるいは、国連安全保障理事会決議の強引な解釈に基づいて多国籍軍による「軍事的措置」を標榜する武力行使が行われる可能性は、今後も、高いと考えられます。そのような状況が生じたとき、「存立危機事態」や「国際連携平和安全活動」に関連づけて、自衛隊の積極的な協力が同盟国から求められると考えるのが自然でしょう。

 もちろん、国際法専門家の多くは、「対テロ戦争」として行われた一連の武力行使の違法性を指摘してきましたし、同様の事態について、今後も批判を怠ることはありません。しかし、日本政府は、そのような場合に、重要な同盟国の見解に反してでも、独自の国際法判断を主張できるでしょうか。例えば、「あなたの国の武力行使は、私たちの判断によれば、国際法の自衛権の行使とみなせませんので、協力できません」とはっきりと言えるでしょうか。あるいは、「この武力行使は、国連安全保障理事会決議によって正当化されないと私たちは判断しましたので、協力できません」と言って協力要請を断ることができるでしょうか。もしできなれば、アフガニスタン戦争や、イラク戦争のような事態について、自衛隊がさらに積極的に協力をせざるをえない状況に追い込まれるでしょう。

 これまで、アメリカ合衆国の行ってきた武力行使について、日本政府は常に、それを支持してきました。支持するということは、自衛権の行使としての正当性、もしくは、「国際社会の平和及び安全」に対する脅威を除去するために必要な措置としての正当性を認めるということにならざるをえないでしょう。そうなれば、「存立危機事態」や「国際平和共同対処事態」への可能性が開かれます。

 従来は、憲法に基づき、国外における自衛隊の活動を厳しく制限してきたため、同盟国の武力行使を無反省に支持しても、自衛隊がその武力行使に協力する余地は限られていました。しかし、法案が可決され、自衛隊の活動の範囲が大幅に拡大された場合には、そのような無反省な支持は許されません。はたして、この法案には、同盟国の意に反してでも、きちんと独自の国際法的判断を主張していくという政府の決意が伴っているのでしょうか。(西 平等)

 

参考文献

松井芳郎『テロ、戦争、自衛:米国等のアフガニスタン戦争を考える』(東信堂、2002年)

松井芳郎「イラクを超えて、はるかに:国際法史を振り返って自衛隊派兵を考える」(『法律時報』第76巻2号(2004年)1-5頁)