29. 2015年の日米防衛協力の指針(ガイドライン)とは何でしょうか。

 日米防衛協力の指針(以下、「指針」)とは、米軍と自衛隊がさまざまな軍事局面に応じて、どのように協力するかの指針を定めた文書です。最初の「指針」は1978年に作成され、19年後の1997年に改訂されました(97年「指針」)。そして、2015年4月27日、ニューヨークにおいて2度目の改定となる現在の新「指針」が発表されました。

新「指針」が発表された時期は、安保法制(案)が与党である自民党と公明党の間で実質合意され(4月21日)、与党間の正式決定(5月11日)を経て閣議決定(5月14日)が行われる中間に当たります。また、安倍首相が訪米してオバマ大統領と会談し(4月28日)、米議会の上下両院合同会議で演説を行う(4月29日)直前のタイミングでした。

新「指針」は、改訂のタイミングにおいても、内容においても、安保法制と密接に関係しています。

   タイミングに関して言えば、安倍首相は訪米土産として間に合うように新「指針」の改定を急ぎ、それに合わせて安保法制の中身を確定させました。そして、米議会演説において、安保法制を「戦後初めての大改革」と呼び、この「法整備を前提として、日米がそのもてる力をよく合わせられるようにする仕組みができました。‥それこそが、日米防衛協力の新しいガイドラインにほかなりません」と述べました。さらに、日本の国会議論が始まってもいないのに、「法案の成立を、この夏までに、必ず実現します」と米国民に約束をしました。誰に向かって政治をしているのでしょう?

   首相の論理では、安保法制は新「指針」の前提となっているものであり、日米同盟の実践に不可欠な法律ということになります。実際、新「指針」には日本が安保法制によって何をしようとしているかを示す内容が多く書かれています。第一に、97年「指針」では、日米防衛協力の範囲を日本の周辺事態までに限定していましたが、新「指針」は「アジア太平洋地域及びこれを越えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなるよう」と述べ、協力の地理的範囲は事実上無制限とし、「日米同盟のグローバルな性質」を強調しました。第二に、集団的自衛権のタブーを破り、「日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」が、初めて防衛協力の大項目の一つとして登場しました。

   米軍は、世界の隅々まで軍事展開ができる唯一の超大国としての能力を維持することが財政的に困難になる現状において、安倍政権の安保政策を渡りに船として利用しようとしています。(梅林宏道)

 

参考文献:

梅林宏道「限界なき日米軍事協力へ―新ガイドラインの相貌」(『世界』2015年7月号、岩波書店)