28.安倍政権の女性政策をどのように評価しますか。

 安倍首相は2013年4月に、女性の活躍を成長戦略の中核に位置づけた「女性が輝く社会」を発表しました。その背景には日本が直面している急激な少子高齢化があります。2014年総務省の資料では65歳以上の高齢者は3296万人、日本の総人口の25%を占めます。「女性が輝く社会」とはこの少子高齢化対策のために、女性はもっと子どもを産んで、もっと働け、ということです。

 その手始めに、2013年5月、内閣府特命担当大臣が主宰する「少子化危機突破タスクフォース」は、10〜20代前半の女性に「生命(いのち)と女性の手帳」を配布することを提案しました。卵子は老化する、40代を過ぎての妊娠は難しい、妊娠・出産は早めに計画しよう、と若い女性に伝えて、女性が子どもを積極的に産むように促そうとしたのです。

しかし、この手帳の配布は、産む・産まないという選択を国や第三者が強制する空気をつくること、不妊カップルや、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者、LGBT)の人たちを抑圧するという反対の声が上がり、実現しませんでした。しかし、その代りなのでしょうか、文部科学省は女性の妊娠のしやすさと年齢についてのグラフや、男女ともに子どもを産み、育てるライフプランを考えることを促す内容を盛り込んだ高校生の保健の授業の副教材を作成しました。

 また、2015年8月28日に参議院本会議において、「女性の活躍」推進法も可決され、成立しました。この法律によって、国や地方自治体に加え、企業・団体に対して、女性管理職の割合などの数値目標を設定・公表を義務付けることになります。また、女性が仕事と家庭の両立を促進する環境整備を図るための「基本方針を」策定します。政府の資料をみると、長時間労働の削減、男女のワーク・ライフ・バランスの実現に向けた労働環境整備、女性の非正規雇用労働者の処遇改善、不本意非正規社員の正社員への転換、母子家庭への支援、男性の家事・育児参加の促進が謳われています。

 ところがその一方で、安倍政権は2015年4月3日に「残業代ゼロ法案」を閣議決定したり(2015年第189回国会成立は断念)、3年以上働いた派遣社員を正社員にするルールを廃止する「派遣法改正案」を参議院で審議しようとしています。ましてや、女性が子どもを産んで働くために一番必要である保育園や学童施設、介護施設などについての具体的な数値目標や予算措置についての積極的な発言はみられません。

 本企画の論点22で簡潔に説明されているように、安倍首相らの目的は、アメリカの軍事覇権に従属しつつ、「日本軍」がグローバルに武力行使することで、日本の多国籍企業がグローバルに資本蓄積できる体制を確立することです。また、国内においては、多国籍企業に有利なように、非正規があたりまえの雇用制度、社会保障の緊縮、企業主体の農業、法人税減税など、新自由主義を推し進めるつもりです。ヴェールフォフは、世界システムは国外の植民地、国内の農民の労働だけではなく、あらゆる社会に共通する男性の下位におかれた女性の無償労働を土台として機能していると指摘しています。安倍首相の言う「輝く女性」の真の狙いは、女性を資本蓄積のために、子どもを産むという能力(もちろん男性の協力が必要だが)と労働力資源をいっそう収奪することにあるのではないでしょうか。

 女性が輝くとは、自分のために人生を生きることができ、産む、産まない、働く、働かない、どのように働くかを自ら(時にパートナーと)の意思で自由に決め、実現できることでしょう。それは男性も同じだと思います。「個人的なことは政治的なこと」です。戦後70年という節目に、安全保障関連法案を通し、さらなる新自由主義政策を推し進めようとしている安倍政権の行方は、私たちの人生や家庭の在り方に大きな影響を与えるということを肝に銘じ、自ら考え、行動してゆきたいと思います。(堀 芳枝)

参考資料 ・文献

・首相官邸ホームページ「女性活躍加速のための重点方針2015」

http://www.kantei.go.jp/jp/headline/brilliant_women/pdf/20150626honbun.pdf(2015年8月30日)

・文部科学省ホームページ「健康な生活をおくるために」(高校生用)

http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/08111805.htm(2015年8月30日)

・大橋由香子「産むか・産まないか-からだと健康をめぐる女性の運動」堀芳枝編『学生のためのピース・ノート』コモンズ、2015年。

・クラウディア・フォン・ブェールホフ(伊藤明子訳、近藤和子・協力)『女性と経済-主婦化・農民化する世界』日本経済評論社、2004年。