26. 日本の学術研究の「軍事化」の現状はどうなっているのでしょうか。

 日本国憲法に反し、多くの国民が反対してきた「安全保障関連法案」が強行採決され、学術研究の軍事化にも拍車がかかる危険性が強まりました。多くの科学者が、軍学共同に反対するアピールを発表してきましたが、防衛省が今年7〜8月に公募していた「安全保障技術研究推進制度」に109件(大学58件、公的研究機関22件、企業等29件)の応募があり、大学4件(神奈川工科大学、東京電機大学、豊橋技術科学大学、東京工業大学)、研究機関3件(理化学研究所、宇宙航空研究開発機構、海洋研究開発機構)、民間2件(富士通、パナソニック)の9件を採択したと9月25日防衛省が発表しました。

  1980年代から国立大学の経常経費が年々削減されて、研究費を確保するためには競争的資金に頼る傾向が強まっていました。名古屋大学のノーベル賞をえたLED研究は経常研究費の中で生まれました。このような研究は、短期的に成果をあげなければならない競争的研究資金では生まれにくいことを示しています。

  2004年の国立大学法人法の下で、大学を構成する教職員と学生・大学院生など全構成員による自治に逆行して、学長中心の大学運営になると大学の自律性が弱まります。安倍政権は2013年12月に閣議決定した防衛計画大綱の中で「大学や研究機関との連携の充実等により、防衛にも応用可能な民生技術(デユアルユース技術)の積極的な活用に努めるとともに、民生分野への防衛技術の展開を図る」としていました。こうした中で資金欲しさに軍事研究に取り込まれる大学が出るのではとの心配が現実になりました。

  かつて戦争に協力してきたことを反省して日本学術会議が1950年には戦争を目的にする研究には絶対に従わないとの決意を表明しました。また、1980年代に、米国の戦略防衛構想に関連して科学研究を軍事研究に取り込もうとする動きが強まったとき、日本の大学で平和憲章制定運動が起こり、名古屋大学でも1983年から4年間の全学的な議論を経て1987年に名古屋大学平和憲章を制定しました。その中で「大学は、戦争に加担するというあやまちを二度とくりかえしてはならない。われわれはいかなる理由であれ、戦争を目的とする学問研究と教育には従わない。そのために国の内外を問わず、軍関係機関およびこれら機関に所属する者との共同研究はおこなわず、これら機関からの研究資金を受け入れない。」と述べました。今回、防衛省安全保障技術研究推進制度に応募された研究者に平和憲章や軍学共同アピールを読んでもらう必要があります。(沢田昭二)

 

参考文献

軍学共同(大学・研究機関における軍事研究)反対アピール

http://no-military-research.a.la9.jp.

「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」(日本学術会議第6回総会、1950年4月28日)

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/01/01-49-s.pdf.

「軍事目的のための科学研究を行なわない声明」(日本学術会議第49回総会、1967年10月20日)

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/04/07-29-s.pdf.

名古屋大学平和憲章制定実行委員会編著『平和への学問の道──ドキュメント名古屋大学平和憲章』あけび書房、1987年