11.「中国の台頭」をどのように考えればよいのでしょうか。

 「中国の台頭」は論者によって意味づけが異なりますが、大方の議論の中に以下のニュアンスが含まれていると言ってよいでしょう。一つは過去30年以上の「改革・開放」政策によって、中国経済が大きく発展し、現在中国は世界第二の経済大国になっている、いわば「中国の大国化」を示すニュアンスです。他方、政治体制や外交、国防、さらに環境、社会福祉などの側面において中国は依然多くの問題を抱え、それが日本や他国に被害や不利益を及ぼすかもしれない、いわば「中国の脅威」が「中国の台頭」論議の中にも含まれていると言えましょう。

 以前は前者の面が強調され、「中国の台頭」が日本や世界にとって経済発展のチャンスだとポジティブに捉えることが多かったのです。しかし、東シナ海、南シナ海などの領土・海域紛争をめぐって、中国の一連の行動が日本や他国に大変強硬に映り、「中国の台頭」を「中国脅威論」としてネガティブに捉える論調が増えてきています。さらに、中国経済の減速がもたらす世界的影響を重く見て、「中国の台頭」を「チャイナ・リスク」と重ねる向きも見受けられます。このように、「中国の台頭」を考えるには、中国の大国化という「事実」とそれをどのように「見る」かの両面が関わっていると言えましょう。

 中国政府はこれからも「平和的台頭」の道を歩む、つまり平和的に発展していくのだと力説しています。言葉だけなら論外ですが、国連PKO活動への関わりをはじめ、地球温暖化や北朝鮮、イランの核開発問題など、グローバルなイシューについて中国が国際社会とより協調的に活動するようになっていることを考慮すると、「平和的発展」が中国の本音だと考えてよいでしょう。また、AIIB(アジアインフラ投資銀行)のように「中国イニシアチブ」も近年目立っています。これは「有所作為」(一定の役割を果たす)と中国自らも言うように、今後中国はより積極的な形で国際的な関与をしていくことの表れだと言えます。

 しかし、AIIBが既に示すように、いくら「中国イニシアチブ」でも、「協調性」が不可欠だと中国は学ぶことになるでしょう。このような協調的な中国が成熟するにつれ、南シナ海のような問題も解決に向かうだろうと考えます。日本としてはいたずらに「中国脅威論」を煽らず、ましてや中国との軍拡の悪循環に入るのではなく、中国の意図、本音を見極め、その平和的発展を促す形の外交を展開するのがベストな選択だと言えましょう。(孫 占坤)

 

参考文献

高原明生・前田宏子『開発主義の時代へ1972-2014(シリーズ 中国近現代史 5)』岩波新書、2014年

高原明生・丸川知雄・伊藤亜聖編『社会人のための現代中国講義』東京大学出版会、2014年

川島 真編『チャイナ・リスク シリーズ日本の安全保障5』岩波書店、2015年