批判的国際関係論とアメリカの軍事市民 社会

[論点整理] 批判理論上の私の立場

大阪経済法科大学 前田 幸男

 

1.理論の必要/不必要

子供が不衛生・飢餓・紛争のために亡くなる子供を多く出す地域や、豊かな国に住む一般市民には、「理論」はいらないのか?

⇒必要でしょ?

理由1:少なくとも社会や世界がどのように構成され、またつながっているのかを理解するための理論が必要。なければ一人一人の社会・世界の理解は、有機的につながることはなく、別個に分裂したまま。批判理論によって提供される「認識論」がそれをつなげる(含:「倫理というテーマに人はどう向き合うべきなのか?」という問い)

理由2:様々な暴力(直接的・構造的・文化的)によって誰かが虐げられていることを理解するならば、それを変えるための理論(a theory of change)が必要。「行為のための理論」

 

2.国際関係論における批判理論の整理(我流)

ロバート・コックスのいう批判理論/問題解決型理論の区別は決定的だった。実証主義研究の大部分:問題解決型の理論になっており、実質的に解決したい問題の再生産に寄与する

 ハルクハイマー&アドルノの伝統理論に対する近代批判/資本主義批判は、ロバート・コックスのいう問題解決型理論/批判理論の区別をし、前者を批判し、後者に注目するそのやり方は実質的には同じ(Ken Booth, 2007, p.243)。

 ハーバーマスの批判理論20世紀において再封建化が進み、衰退した公共圏の理想的な姿を取り戻すためには、人と人が相互の了解を追求・達成するコミュニケーション的行為によって人を理解し、普遍的な社会批判によって近代的な理性を復権させ、より民主的な社会伝達や交流を可能にすることができる」(ハーバーマス)⇒リンクレーター

⇒(1)理性は絶対か?(2)公/私の区分によって、自ずと私的領域に封じ込められる諸問題は存在しないのか?(例:セクシュアリティや宗教)(3)現実の批判は現場からの情動と混ざり合った声から発せられるのであって、理想的な公共圏からとかではない。理想的な公共圏って何? (4)「解放」、それは常に、複数存在する(Emancipations / Laclau, 2005)。(5)コミュニケーションや言説は確かに構造転換の鍵にはなるが、それがすべてではない(身体性やその規律といった微細な権力性、つまり意識の俎上にも乗ってこない至高の権力も抜け落ちてくる[例えば、携帯電話をもとに形成されるシステムへの無意識的な参加の問題]

 ⇒ここから、世界の諸問題を特定した後、単に批判し、解放を目指すという単純な構図に落とし込まない、という立場へと進む。

⇒むしろ、理性は情動と共にあり、論じている自らの立場は常に暫定的にならざるを得ないという謙虚さを備えないといけないという立場に進む(ウィリアム・コノリーの「批判的応答性」)

 ・世界秩序モデルプロジェクト(WOMP):世界は相互に関連した複合的な脅威(戦争、貧困、社会的不正義、地球環境破壊、疎外など)の下に置かれている。

⇒非暴力、経済的な正義、人道的な統治(humane governance)、エコロジカルな持続可能性、人権といった諸目標(とその連接)の実現を目指す。

Richard Falk: “the future is the eventual culmination of the present and …liberty is an existential condition enabling degrees of immediate realization.”

⇒現在の行為の在り方を問う&未来への希望/掛け金。

Are you WOMPers?  Yes!  But not entirely.

 ・フォークのプロジェクト:国家の上と下に人道的な統治のネットワークを広げていく方向で、権力を組み替えていくこと。国家に集中する権力を分散させること(Falk, 1978)

フォークへの二つの留保

1.      新自由主義が席巻する世界で、果たして国家の権力なしに立ち向かうことはできるのか?むしろ国家の権力は適正に保ちながら、その権力をいかに民主的にコントロールできるかを目指したほうがいいのではないか?(国家の順機能と逆機能の両義性というテーマ/福祉国家 or 戦争機械)

⇔他方で、主権的暴力やゼノフォビアによる排除型社会への警戒は必要(「王国と喝采」(アガンベン)の問題構成そのものの問題)。

2.      国際関係論における構造/主体問題(もしくは世界と私の関係)を考える際、「群れを束ねる組織の下にわれわれが生かされている」という現実に向き合う必要があるのでは?(例:国際組織、国家、大学、会社、家庭、市民運動、仮想空間…)

フーコー派の効能

1.      知/権力:真理のあり方が、人々の行為を決定していくならば、真理が誰によって語られるのかが極めて重要。

2.      統治心性(Govern-mentality):人々をまとめ上げる作用。人々の行為をある方向へ導くこと(conduct of conduct)。統治をする側/される側の二分法で考えるのではなく、より開かれた民主的な統治を目指すためのたたき台としての統治心性。王の首がはねられた後、その中心は空洞だから。

⇒グローバルな統治心性とは、世界中を共通して貫くある傾向性をもつ思考様式のこと。例えば、「競争」:競って相手に打ち勝たねばならないという心性。

ドゥルーズ派の効能

・独裁国家への抵抗(○○の春)⇒社会運動のクラウド化(五野井)or マルチチュード or 自己表現(しかし近年、資本への取り込まれ具合が露骨に進んでいる/フラッシュモブ等…)