アメリカの無人機攻撃と人権理事会
American drone strikes and U.N.HumanRightCouncil
1 無人機攻撃の問題点
無人機の実戦使用
無人機の実戦使用:代表的なものに、イスラエルの航空機産業の提供したヘロンとヘルメス、アメリカの企業のつくったプレデターとリーパー、イギリス空軍もリーパー
アフガニスタン戦争で無人機の実戦参加急増。2001年9月50機→2012年4月7500機
国際法上の武力紛争地域(イラクとアフガニスタン)以外での非武力紛争地域(パキスタン、イエメンなど)での使用と民間人被害の大きさ(約10%平均)
無人機のメリット;あらゆる意味で安上がり、深刻な財政難と比較的無関心な国民の反テロ
戦争気分に直面するオバマ政権にとって低コストの持つ意味は大きい。
国連人権機関の関与-アルストン報告
2009年9月「司法手続によらない略式または恣意的な処刑」に関する特別報告者フィリプ・アルストンがパキスタンでの無人機活動は、国際法違反の疑いがあると公表。翌年5月に国連人権理事会へ報告、付録「標的殺害に(targeted killing)ついての研究」(国連総会で配布)
➀無人機の使用についての法的基準が不明確 ②humint(人による情報収集)③非武力紛争地域―パキスタン、イエメン、ソマリランドなど地域状況が国際人道法の規定による武力紛争地域のレベルに達していない場合には国家は理論的には非国家的アクターに対する無人機使用の正当化の試みとして、予防的自衛権の行使の行使を主張するかも。しかし国際人道法は、武器を敵の戦闘能力を奪う害敵手段とするので、初めから殺すために武器を使うことは法の逸脱と規定。戦場である武力紛争地域以外の場所に潜伏する標的を捕獲したり、他国に引き渡しを求めたりすることのできない場合には、国際人道法の適用は不可能だと主張することは可能かもしれない。
参考:予防的自衛権―「(脅威が)差し迫り、圧倒的で、他の手段がなくまた熟慮の時間がない」ことが行使の要件―実戦以外の状況はきわめてわずかながら存在する。しかし絶対的な禁止に反するきわめてまれな非常事態における例外を一般化するのは、頭の体操のようなものである。さらに付け加えれば、無人機による標的以外の人(例えば家族、近隣)の殺害は、人権法の下では恣意的な生命の剥奪となり国家の責任と個人の刑事責任を生じさせる。
標識攻撃(signature strike)の多用
オバマ時代には「(特徴に基づく)標識攻撃signature strike)」が増加。2011年3月17日、
ワリジスタンのダッタ・クエルで、アメリカの無人機の発射したミサイルがバスターミナル
を強襲、42人殺害。「標識攻撃」=攻撃対象を特定の個人ではなく、(無人機から衛星回線を通
じ送られたビデオを視て)テロリストと疑われる怪しい行動パタ―ンだけで攻撃対象に選定。
パキスタンの部族地域に無人機攻撃が集中―とくに北ワリジスタン
アメリカの無人機攻撃は、北西パキスタンで作戦するタリバーンその他の武装グループにかなりの損害。部族組織の一部が反徒の拠点となっているにせよ、そこには約84万の住民が住んでいる。住民たちは、武装集団やパキスタン軍またはアメリカの無人機攻撃により殺される恐怖といつも直面している。地域社会は自己以外のアクターの活動をほとんどコントロールできない。
国防省と中央情報局(CI A)二つの機関が無人機による標的攻撃の執行、責任体制の違い
⑴ 合同特殊作戦司令部(JSOC): 国防省、特殊部隊司令部により構成。軍の法規により規制、大統領の認可が必要
⑵ CI A
役割が公式には表にされず認められることもないアメリカ政府の機関。伝統的な軍事活動には含まれない隠密作戦に従事。反テロ作戦においる主要な任務のひとつは無人機の運用。無人機作戦を含む隠密作戦について米政府が認めることは法律によって禁止、CIAも作戦を肯定も否定もしないというベースで業務遂行。
2 無人機攻撃の規制
「大統領政策指針」―大統領の防衛大学演説(2013年5月23日)
対テロ戦争の中心的な戦力である無人機について、綱領化した使用基準を説明、厳格な運用を約束。「我々の下した決断は、子供たちに伝えることになる国―と世界―のタイプを決めることになるだろう」。また無人機の使用を「特定のテロ組織を解体するための的を絞った努力」と定義し、アルジェリアやイエメン、マリ、ソマリアなどの国際テロ組織アルカイダとその関連組織の掃討などに絞る方針
オバマ演説後の無人機攻撃はパキスタン等三国で「2012年のほぼ92件から55件に、殺害された人も505~532人から271人に」減少(『ガーディアン』2013年12月31日付)。10月にエマーソンも、パキスタンでの無人機攻撃33件を調べたところ民間人を殺害しており国際法違反の疑いが強いと発表
ベン・エマーソン「無人機の使用に関する中間報告」(2013年国連総会に提出)
報告は無人機の使用をめぐる人権問題に特定過大な民間人死傷者が増大している現状の検討とその対策が中心課題。「武力紛争のシチュエーション以外では、国際人権・人道法は破壊的武力を唯一または主要な目的とするいかなる反テロ作戦をもほとんど禁止」。
➀透明性の欠如、とくにCIAの介入が障害。
②戦闘地域外での武力行使と国際法の問題点
a. 同意(consent)の問題―無人機の隠密作戦と非交戦国の「同意」について;自国の領
域内での他国の武力使用に対する同意は、領土主権の侵害に当たらない。国際法では領土を有効に支配している適法の政府であれば、同意を与えまたは拒む独占的権利を有する。パキスタンに関しては2004年から2008年の間は部族地域における無人機攻撃は、パキスタンの軍事・情報当局の幹部の実質的な同意と、いくつかの場合には政府の幹部の実際的な黙認のもとで実施。しかし2012年4月12日、パキスタンの両院議会決議、米軍、NATO軍および多国籍軍との取り決めと外交政策を改定するための指針を採択。決議は、政府もまたそのいかなる部局も何らかの外国政府またはその一部部局と国の安全保障に関し口頭での取り決めを結ぶことは法的にできないとして、パキスタンの辺境での無人機攻撃の即時中止を求めた。また過去の取り決めは今後無効とすること、およびそのような取り決めについて議会と政府が精査、結果を議会に公表することとした。2013年5月に成立した新政府も、国際関係はパキスタンの憲法により民主的に選出された政府の専権事項とする。「そこで特別報告者(エマーソン)は、国際法のもとで自衛権を正当化できなければ、部族地域での無人機の継続使用は、パキスタンの主権の侵害であると考える」。
b. 非国際的武力紛争(non‐international armed conflict)
非国際的武力紛争は、政府軍と非政府的武装集団とのあいだ、または非政府的武装集団間の武力紛争をしめす。非国際的武力紛争を規律する国際人道法としては「非国際的武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(第二議定書、一九七七年)」― 一般住民を攻撃の対象とすること、住民の間に恐怖を広めることを目的とする暴力的な行為や威嚇を禁止し、テロ行為も禁止事項に含まれ住民保護の対象とする。
アメリカ政府と最高裁―反テロ戦争を非国際的武力紛争と定義し、トランスナシナル(国を超えた)な紛争であり、「標的ルール」の適用は地域的に限定されない。アメリカ軍の「標的ルール」では、アルカイダやその同調グループの上級指導者を、個人の同定、役割の重要性の確認を前提としたうえで高レベルの標的とすることが可能。米軍関係の法律家は、武装集団内部での役割には関係なく医療・宗教関係以外は常に全員が標的であるとする。この見解の支持者は、非対称戦争の場合には、持続的に戦闘を行う機能や集団内部での役割について確実な現地情報を求めるのは現実的でない、住民の自発的な意思による人間の盾や仕掛け爆弾の組み立て・貯蔵を行うものに対する予防的な攻撃ができなくなると批判。
国際刑事裁判所の見解―非国際的武力紛争の存在に関して国際的合意はないので、ケース・バイ・ケースで個別的な暴力状況について決定すべき。非交戦国に居住する直接の戦闘参加者を標的とすることは国際人道法により一般に禁止。そうしなければ全世界が戦場に。
c. 戦場はどこに存在するか―現在の反テロ戦争が提起する大きな問題。アメリカの立場を
擁護する意見では、国境を超えて作戦を行う非国家武装集団との非国際的武力紛争に従事する国家の場合には伝統的な戦場は存在しない。一方、国際法が基本的には国と国の関係を規律する法律である以上、その適用範囲に関しては国境により区切られた領域という地理的な限定を無視することはできない。上述の予防的な自衛権の行使という考え方も、正確には予防的自衛権の行使として、交戦地帯ではない域外の国家における恣意的な武力行使を正当化する考え方に通じる。
d. 集団的自衛権の問題―国連憲章51条は加盟国に対する武力攻撃が発生した場合に、加
盟国が固有の「個別的または集団的自衛権」を持つことを認めている。アメリカなどの見解では、武装テロ集団が居住国といかなる活動上の関係がない時でさえ、直接かつ急迫した攻撃の危険に直面した時には、他国の領土内で同意のない軍事作戦を行うことは、特殊な状況として自衛に関する法律が認めている。これが予防的自衛権であり、アメリカの主張の核心部分である。しかし予防的自衛権が発動できる範囲すなわち攻撃が急迫(差し迫る)していると決定できるしきいはどこかについては明確な国際的合意がなく、現在、論争の的である。一方は、自衛の必要が「急迫し、圧倒的で、手段の選択の余地がなく、熟考する時間もない」時には、国家は武力紛争地域以外で予防的な自衛権を行使し武力を行使できると主張し、反対する側は、非対称的な紛争を念頭において、現地の情報筋が機能せず、いつ攻撃が起こるか、国が正確に予想できず当面の対策も考えられそうもない場合を想定する。
エマーソン「2014年最終報告」(2014年2月人権理事会に提出)
特別報告者は、人権理事会が次の問題について適切な決議の方法により効果的な措置
をとるように要請する:
無人機の使用を含むテロリズムとのあらゆる対抗手段が、とりわけ予防、区別、均衡の原則において国際人道法及び国際人権法を含む国際法のもとでの義務を、すべての国家が確実に順守することを熱望し、
無人機の使用を含む反テロ作戦において民間人が殺されまたは傷つけられたことを何らかの明白に信頼できる情報源が示したいかなる場合にも、関係当局は迅速で独立し、また公正な事実調査を行い、詳細な公的説明を行うことを確保するようすべての国家に熱望し、
致死性の反テロ作戦に無人機を使うすべての国家及び自国領内でかかる作戦が行われたすべての国家に対し、本報告及び国連総会宛の中間報告で特別報告者が提起した法的問題及び事実関係についてその立場を明確にするよう熱望する;国境を超えた致死性反テロ作戦に関する最大限の情報公開;かかる作戦の結果生じたと主張される民間人の死傷に関するすべての事実発見調査の結果の公表;無人機使用を通じて負わされた民間人死傷のレベルについて占有するデータを、利用された評定方法に関する情報とともに公開すること。
エマーソンが特に注目したのは、イスラエルのパレスティナ人居住区であるガザに対
する徹底的な無人機攻撃(停戦後の2014年7月から9月にかけてイスラエルは、急進的な武装組織ハマスへの制裁を理由にガザを空爆50日間に5千人を殺した)。
「ガザはまったく安全な場所ではない。昼も夜も同じ;ショックと恐怖。…飛行機はガザの空を離れず、子どもと女性に死を投じている。私はシファ病院の集中看護班を訪ねたが、そ
の光景は想像を絶した;大部分は死を目の前にしていた。薬さえない―ほぼ40%不足。病院は女性と子どもで満員だ;体の1部や四肢を失ったものも多い。包囲を解き、境界を開放
しない限り休戦は長続きしないだろう。…人々は困窮と屈辱以外失うものを何ももたない。…われわれの望むのは尊厳のある普通の生活だ。いつの日かそうなると私は信じる。そのためには重い代償がいることは確かだが、自由とは高くつくものだ」。(ロイ・サラ「ガザの窮乏」Boston Glove 2014年7月19日付)
停戦前のガザ空襲による死者(Al Mezan Center of Human Rights in Gazaによる)
年 |
ガザ攻撃の死者 |
無人機による死者 |
その割合(%) |
2004 |
646 |
2 |
0.3 |
2005 |
99 |
0 |
0 |
2006 |
534 |
91 |
17 |
2007 |
281 |
98 |
34.9 |
2008 |
769 |
172 |
22.4 |
2009 |
1058 |
461 |
43.6 |
2010 |
72 |
19 |
26.4 |
2011 |
112 |
58 |
51.8 |
2012 |
355 |
201 |
78.8 |
2013(停戦交渉) |
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