東アジアの民衆はつながることができるのか──戦後70 年目の問いかけ
中国社会科学院 孫歌
一,東アジアとはなにか
1、われわれは、日ごろに何気なく口にする「東アジア」という言葉の意味は、基本的に複数の国々の集合体としての地域をイメージしているのであろう。それは、海と陸地、山と川など繋がっていた自然風土は、国境という作為によって分離されており、さらに「国際地域」という感覚によって再構築されたものであろう。
2、近代以来、東アジアの絆は、残念ながら戦争であった。すなわち、戦争によって、この地域が「一体化」されていた。東南アジアはともかくとして、北東アジアでいえば、日中、日韓、日朝、韓朝、いずれも緊張感の満ちた関係性によって繋げられている。国家というものの性質。
二、民衆の「東アジア」
1、国家の簡単に越えられない理由:A、内部を生きながら外部を理解することの困難さーー「外部」とはもう一つの「内部」である。超越した普遍性というものは薄っぺらな観念でしかない。B、国民としての責任:戦争責任の追及は民衆の責任でもあるが、それは国家単位の問題にしなければ解消されてしまう。加害国と被害国の国民の連帯という問題
2、国家を越えなければならない理由:A、国家論理には人間の生命という価値が無視される。B、国家の政治論理は、結果責任を追求するので、倫理学の意味においての「善」を当てにしない。国家間の「和解」は、理解と善意などとはまったく無縁のものである。C、
3、民衆の「東アジア」はどのようなものか:A、自分の生きる場としての「国家」にかかわりながら、それをつねに相対化すること。「外部の内部性」を理解することB、国家利益を優先するという国家論理と異なる「民衆論理」を作ることーー平和を優位にする価値観。広島,長崎の被害問題と南京大虐殺の被害問題は、民衆レベルで始めて同一視できる。
三、民衆の東アジアを作るためにーー沖縄の民衆から学んだもの
1、沖縄より大きい「沖縄原理」
A、翻弄されてきた沖縄近、現代史(三つの琉球処分)
B、沖縄の闘争――辺野古の「平和抵抗」
2、琉球という風土が生み出した思想的結晶
C、『琉球共和社会憲法C私(試)案』(川満信一著)の思想的意味
資料:『琉球共和社会憲法C私(試)案』(抜粋)
(前文)
浦添に驕るものたちは浦添によって滅び、首里に驕るものたちは首里によって滅んだ。ピラミッドに驕るものたちはピラミッドによって滅び、長城に驕るものたちもまた長城によって滅んだ。軍備に驕るものたちは軍備によって滅び、法に驕るものたちもまた法によって滅んだ。神によったものたちは神に滅び、人間によったものたちは人間に滅び、愛によったものたちは愛に滅んだ。
科学に驕るものたちは科学によって滅び、食に驕るものたちは食によって滅ぶ。国家を求めれば国家の牢に住む。集中し、巨大化した国権のもと、搾取と圧迫と殺りくと不平等と貧困と不安の果てに戦争が求められる。落日に染まる砂塵の古都西域を、あるいは鳥の一瞥に鎮まるインカの都を忘れてはならない。否、われわれの足はいまも焦土のうえにある。
九死に一生を得て廃墟に立ったとき、われわれは戦争が国内の民を殺りくするからくりであることを知らされた。だが、米軍はその廃墟にまたしても巨大な軍事基地をつくった。われわれは非武装の抵抗を続け、そして、ひとしく国民的反省に立って「戦争放棄」「非戦、非軍備」を冒頭に掲げた「日本国憲法」と、それを遵守する国民に連帯を求め、最後の期待をかけた。結果は無残な裏切りとなって返ってきた。日本国民の反省はあまりにも底浅く、淡雪となって消えた。われわれはもうホトホトに愛想がつきた。
好戦国日本よ、好戦的日本国民者と権力者共よ、好むところの道を行くがよい。もはやわれわれは人類廃滅への無理心中の道行きをこれ以上共にはできない。
第一章 (基本理念)
第一条 われわれ琉球共和社会人民は、歴史的反省と悲願のうえにたって、人類発生史以来の権力集中機能による一切の悪業の根拠を止揚し、ここに国家を廃絶することを高らかに宣言する。
この憲法が共和社会人民に保障し、確定するのは万物に対する慈悲の原理に依り、互恵互助の制度を不断に創造する行為のみである。
慈悲の原理を越え、逸脱する人民、および調整機関とその当職者等のいかなる権利も保障されない。
第二条 この憲法は法律を一切廃棄するための唯一の法である。したがって軍隊、警察、固定的な国家的管理機関、官僚体制、司法機関など権力を集中する組織体制は撤廃し、これをつくらない。共和社会人民は個々の心のうちの権力の芽を潰し、用心深くむしりとらねばならない。
第二章
(センター領域)
第八条 琉球共和社会は象徴的なセンター領域として、地理学上の琉球弧に包括される諸島と海域(国際法上の慣例に従った範囲)を定める。(共和社会人民の資格)
第十一条 琉球共和社会の人民は、定められたセンター領域内の居住者に限らず、この憲法の基本理念に賛同し、遵守する意志のあるものは人種、民族、性別、国籍のいかんを問わず、その所在地において資格を認められる。ただし、琉球共和社会憲法を承認することをセンター領域内の連絡調整機関に報告し、署名紙を送付することを要する。