マイノリティと平和-欧州の経験から何を学ぶことができるか

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日本平和学会2015年度春季研究大会

報告レジュメ

 

マイノリティと平和-欧州の経験から何を学ぶことができるか-

 

立命館大学

玉井 雅隆

 

キーワード:欧州安全保障協力機構、少数民族高等弁務官、マイノリティ、民主化、ヘイト・スピーチ

 

概略

 2014年に勃発したウクライナ危機は、クリミア半島の分離独立及びロシアへの併合、ロシア系住民が多数を占める東部ウクライナ三州の武力紛争などへと発展しており、国際機関の介入にもかかわらず武力衝突が止む気配はない。クリミア半島を巡ってはウクライナ独立当初より分離独立を主張しており、最終的には少数民族高等弁務官を含めた「静かな外交」の成果により、1998年にクリミア自治共和国としてウクライナ内にとどまることとなった。当時の少数民族高等弁務官ストール(Max van der Stoel)は後に、クリミアの処置は例外であり、基本的にマイノリティの地域的自治は承認しない、という方針であったと述べている。ストールは地域的自治が後に分離独立につながることを恐れていたのであるが、それは図らずも現実のものとなった。しかしながら、CIS諸国を除く欧州諸国ではマイノリティを巡る紛争が武力衝突に至る事態は、2002年のマケドニアでのアルバニア系民兵とマケドニア軍の衝突以来、発生していない。その理由として様々な要因を想定することが可能であるが、その一つの要因としては少数民族高等弁務官の活動を見逃すことはできない(玉井:2014)。

 一方でアジアでは、中国・新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)におけるテロ、チベット自治区における中央政府の文化的弾圧、またミャンマーにおけるロヒンギャ族への弾圧と難民流出、インドネシア・アチェやモルッカ諸島での紛争など、数多くのマイノリティに起因する紛争を抱えている。もちろん個別的に見た場合、マイノリティに起因する紛争の要因は無数に存在し、直接的に欧州の経験を適用することは現実的ではない。また、ロマ問題のように解決されていないマイノリティ問題が、欧州にはいまだ存在し続けている。しかし、それでもアジアが欧州のそのような経験から学ぶことは多い。

 本報告では、まず欧州の経験を概観したのちに、北東アジア・東南アジアを中心としたアジア地区におけるマイノリティに起因する問題を検討する。そして最後に、アジアへの欧州の紛争予防枠組導入の可能性に関し、議論を進めていきたい。

 

1.はじめに

2.欧州におけるマイノリティ保護枠組-CSCE/OSCE、欧州審議会、EU

3.アジアにおけるマイノリティとその紛争

4.マイノリティ保護枠組とアジア-欧州の経験の受容は可能か

5.おわりに

 

参考文献

Francesco Palermo&Natalie Sabanadze(2011)National Minorities in Inter-State Relations, Leiden: Boston,Martinus Nijhoff Publishers.

Patric ThornberryMaria Amor Estebanez(2004)Minority rights in Europe, Strasbourg : Council of Europe publishing.

Robert Ted Gurr(2000)People versus States:Minorities at Risk in the New Century ,Washington, D.C. : United States Institute of Peace Press.

 

・吉川元(1994)『ヨーロッパ安全保障協力会議(CSCE)――人権の国際化から民主化支援への発展過程の考察』三嶺書房。

・吉川元(2007)『国際安全保障論――戦争と平和、そして人間の安全保障の軌跡』有斐閣。

・吉川元(2009)『民族自決の果てに――マイノリティをめぐる国際安全保障』有信堂高文社。

・玉井雅隆(2014)『少数民族高等弁務官と平和創造』国際書院