キリスト教平和主義の再定位──抑止と殉教を手がかりとして

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7月19日 部会2 片野淳彦「キリスト教平和主義の再定義」.pdf
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キリスト教平和主義の再定位──抑止と殉教を手がかりとして

片野淳彦(札幌大学)

キーワード:キリスト教平和主義、抑止力、殉教、非暴力、無抵抗、有効性、忠実性、終末論、愛敵

1.はじめに

キリスト教思想に流れる平和主義の伝統をふまえつつ、安倍政権の掲げる「積極的平和主義」をみるとき、そこには平和主義に当然伴うはずの「非暴力」という要素がものの見事に欠落していることを、我々は容易に指摘できると思われる。非暴力を語らない「平和主義」のいびつさは言をまたないが、ではそもそも平和主義において「平和的」であることと「非暴力的」であることは同一なのか。本報告は、キリスト教平和主義における「抑止」と「殉教」をめぐる議論をひもとき、平和主義の意味と意義をより深く考察するための手がかりを抽出することを試みる。

 

2.非暴力と「抑止」の関係:公権力(とくに警察力)の捉え方

平和主義の意味内容は、それがめざす平和の意味内容に応じて広がりをもつ。平和主義はしばしば非暴力と不可分のものと捉えられるが、より具体的に退けるべき暴力の範囲をどこまでとするかにより、あらゆる暴力に反対する立場から特定の暴力を退ける立場までの開きが生まれる。近年では、公共の秩序を維持するための警察力の行使や法的規制による抑止をどう捉えるべきかという議論が、キリスト教平和主義の意味を再考する動きとして注目される。

 

3.無抵抗主義と「殉教」の伝統

十字架上で刑死したイエスを範とするキリスト教は、原初的に対抗文化としての性格をもっており、成立当初から殉教者を出してきた。戦って殺すよりは殺されることを選ぶという態度の背景には、愛敵の教え、現世的生存よりも信仰的忠実を尊ぶ世界観がある。平和主義を貫いたがゆえの受難と殉教が歴史的模範や教訓としての役割を帯びる一方、迫害する側に立った教派との歴史和解を妨げるとの指摘もされている。また日本においては靖国神社を一つの切り口として、犠牲的な死を顕彰することの是非という観点から、殉教(および殉国)を批判的に捉える必要も指摘されている。

 

4.「第四世代の平和」におけるキリスト教平和主義の可能性

平和主義に対しては、正戦論や現実主義の立場から、フリーライダーの事なかれ主義・現実逃避の理想論・不正義を静観する無力な空論という批判がある。「積極的平和主義」の主張も、平和主義が消極的である/あったという通念を前提にしているように思われる。こうした批判に対して、まずは平和主義のもつ本来的な積極性を確認し、その多様で重層的な広がりをふまえるとともに、いわば「消極性」のもつ意義をも再確認する必要があろう。キリスト教平和主義も多様な平和主義の一部として、自らの存在理由と課題を不断に問いつつ、その思想を磨き上げることが求められる。

 

参考文献

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