「戦争とファシズムの時代状況を問う」
外国からの脅威より日本国家の脅威に直面している沖縄

沖縄国際大学名誉教授
石原昌家

キーワード:ファッシズム国家、辺野古新基地建設阻止行動、海上保安庁の実力行使

1、    はじめに―戦争常連国作り
いま、安倍政権は国内において外国の脅威を盛んに煽っていき、国民を熱狂させ、戦前の「ファッシズム国家」の再現をおもわす社会を作りあげている。その国 民世論をバックに、2013年に日本版NSC(国家安全保障会議2013年12月4日発足)、特定秘密保護法の制定〈12月6日〉、武器輸出三原則の廃棄 (2014年4月1日)、さらに2014年7月1日仕上げの一環として集団的自衛権行使の容認によって、戦前同様、外国での「戦争常連国」作りを整えつつ ある。以上の動きは、非軍事平和を志向する人たちが共有している憂うべき状況である。
しかしながら、明治国家によって武力を背景に帝国日本国家へ琉球国が併合され、軍事植民地にされてきている沖縄は、いま、軍事的に深刻な状況に追い込まれている事態について、日本で共有されていないので、それを報告したい。
安倍内閣のめざす国家防衛の南の最前線が、南西諸島に位置づけられており、いまやその巨大軍事要塞として辺野古辺野古新基地建設になりふり構わない挙に出 ている。米軍はキャンプシュワーブの拡張施設だと言い張り、新基地建設の矮小化を図っているようだが、安倍政権は「日米合意」を錦の御旗にして、ゆくゆく は、自衛隊(自衛軍)の強固な軍事基地として使用することを目論んでおり、「普天間海兵隊基地閉鎖」を「人質」にした形で、これをチャンスとばかりに建設 を強行しつつある。
ここで大きな問題として指摘しておきたいのは、辺野古基地建設反対住民の行動にむけて、外国での「戦争常連国」としてのリハーサルを行っていると、認識しておかねばならない事態に至っているということである。
戦後、常に他国で戦争をし続けている米軍は、沖縄で実戦の訓練のためにジャングル戦の場合は、沖縄本島北部の山岳地帯で模擬訓練を行ってきているが、恩納 村に建設計画を阻止された都市化型訓練施設の代わりに、実際に住民が密集している沖縄都市地域で実戦訓練を実施している。いまや自衛隊は米軍との合同軍事 訓練を行うようになったが、安倍政権は、辺野古新基地建設を手段にして、自国住民を相手に自衛隊・海上保安官の実戦訓練の場にしようとしているのではない かと思えるような対応をしつつある、と想定しておかねばならない。
2、    沖縄戦の教訓
皇国日本の「皇土防衛」の最前線として位置づけられ、国体護持の戦闘としての沖縄戦において、沖縄住民は、皇軍部隊に軍事作戦上、直接殺害されたり、死に 追い込まれたりした。つまり、アジア太平洋戦争の末期の沖縄戦では、沖縄住民は米軍のみならず、自国軍隊によっても多くの戦争死没者がでるという悲惨な目 に遭わされてきたのである。それは、特定秘密保護法の戦前版の軍機保護法が稼働したからにほかならない、「軍事機密」を自国軍に知悉させられた住民が、そ の法律によって多大な被害を受けてきたのであった。
3、    沖縄戦再来を思わす安倍政権―海上保安庁大型巡視船の大集結
1996年9月、橋本政権が、世界一危険といわれている「普天間海兵隊基地」の移設先として、辺野古新基地建設を打ち出してから、内外の批判・反対を浴び て、2014年に至るまで、歴代政権がその計画に着手することはできなかった。しかし、「オリンピック開催」を実現するためには、全世界を相手にすぐ真実 がわかるような、地球全体の生命に係る「原発事故処理」で嘘を平気でつける安倍首相は、民主的手続きを踏みにじり、ついに辺野古新基地建設の第一歩となる 「ブイ設置」を8月14日に強行し、「埋め立て初の海上作業」に着手した。これまでの自民党政権で前例のない民主主義を破壊する独裁行動は、住民の多くに 衝撃と戦慄を与えた。それは『琉球新報』が8月7日に「辺野古に海自艦『ぶんご』政府、掘削支援で検討」という衝撃的ニュースに接していたので、とくに沖 縄戦体験者やその記憶を継承してきている人たちには沖縄戦がフラッシュバックし、その再来を思わしたというのは決して大げさではなかった。その甲板には速 射砲や重機関銃を備えているという海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」(5700トン、海自呉基地)を辺野古新基地建設にむけて派遣を検討しているという ニュースは、基地建設阻止行動を起こす住民に精神的威嚇というだけでも大衝撃であった。
4、おわりに―海上保安官の住民へ暴力と五千五百人の辺野古の浜集会
 辺野古基地建設阻止に向けての住民行動に対して、自衛隊による実力排除は、いまのところ海自艦「ぶんご」派遣のニュースに止まっているが、その予兆とし て大型海上保安庁巡視船が住民威嚇の先頭に立っている。ついに辺野古海域にボーリング調査を開始したとき、なんと19隻もの大型巡視船が沖縄に集結してい る。そして、辺野古沖合に11隻が同時に現れたときは、まるで、沖縄戦のとき上陸地点に大集結した戦争記録映像でみる米軍艦船を髣髴させるもので、住民を 真から戦慄させる行動をとっている。しかも、米海軍の揚陸艦「ペリリユー」も住民が現場で確認しているだけでも二度も辺野古沖合に姿を現して、住民を威嚇 している。住民のカヌーによる抗議行動に対しては、海上保安庁は40隻もの大型ゴムボートで体当たりして、暴力的に市民を不当拘束したりしている。その行 為は、実際の外国との衝突に備えた実戦訓練をここぞとばかりに行っているとみられている。それに対して住民は、9月20日、灼熱の太陽の下、辺野古の浜に 五千五百人もの住民が駆けつけて、抗議集会を開催している。それは11月中旬の辺野古基地建設推進か阻止かを争点にした沖縄県知事選挙で、安倍政権の強硬 手段にたいする住民の総意を示す前触れともいえる切迫した行動でもあった。

参考文献
石原昌家(2013)「沖縄戦再来前夜」の危機に直面した沖縄 木村朗・前田朗編著『グローバル・ファシズムー侵略戦争と暗黒社会を許さないためにー』耕文社
小西誠(2010)『日米安保再編と沖縄―最新沖縄・安保・自衛隊情報』社会批評社
     『琉球新報』2014年8月、9月
     『沖縄タイムス』2014年8月、9月