日本平和学会秋季研究集会集団的自衛権容認論と最近の平和主義論について

東海大学法科大学院
永山茂樹


キーワード:平和主義、改憲、集団的自衛権、立憲主義


1.はじめに .

問題の提起安倍内閣のすすめる「積極的平和」政治は、改憲(明文あるいは解釈)を通じて、
①集団的自衛権の行使、
②グレーゾーン、
③多国籍軍などの軍事行動において、軍事力を積極的に行使しようとする。
このような「積極的平和」政治の背景には、
①日本の軍事力の活用をはかるアメリカの要求、
②不安定化する国際軍事状況のなかで、自立した軍事国家路線の要求、
③兵器産業の内需・外需(武器輸出)に活路をもとめる軍事主義経済の要求、
④新自由主義的改革を進めることの要求、などがある。

今後の平和主義論には、「積極的平和」政治を支える政治的・経済的要因の認識と評価、「積極的平和」政治に適切に抵抗する憲法理論の確立という課題がある。
2.世論による受容と否認
(1)安倍内閣の改憲戦略の変遷
安倍内閣の改憲戦略は、以下のように整理することができる。
①第一次安倍内閣期( 2006)から追求された、 9条改憲(ダイレクト改憲)を柱とする明文・全面改憲論
②第二次安倍内閣で主として 2013年から 14年春ごろまで追求された、 96条改憲( 2段階改憲=改憲手続改憲の先行)
③ 2014年夏まで追求された、政府憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の全面的合憲化
④ 2014年夏の与党協議から 7・1決定にいたる過程で採られた政府の憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の限定的合憲化

(2)安倍内閣の改憲戦略の否認と受容世論調査の結果から、国民多数は 2(1)③の集団的自衛権行使の全面的容認論を否認し、他方で、 2 (1)④の限定的容認論を受容する傾向を読みとることができる。このような動向は「積極的平和」政治を牽制し、 7・1決定にも影響を与えたとかんがえられる。ここでは 2(1)③を否認し、 ④を受容する世論は、「積極的平和」政治をうながす政治的・経済的要因をどう評価し、またどのような憲法理論をとるものかを検討する。

-1 .3.憲法的平和主義論による否認と受容
(1)限定的軍事力論の台頭 1980年代以降、憲法論のなかでも、現状(自衛隊の存在と日米安保体制)を受容する傾向がみられるようになった。その一つが限定的軍事力論である。
限定的軍事力論には、現状認識・規範論の両面がある。とくに諸外国との軍事的緊張が高まることを防ぎ、自衛隊海外派兵を抑制するなど非軍事的性格がある。反面で、軍縮・絶対的権力非武装論の立場から意識的に距離を置くという問題がある。理論面の特徴として、
①立憲主義の守備領域の限定、
②「リアリズム」に基づく憲法解釈、
③軍事主義政治が人権・民主・持続可能性に及ぼす否定的効果を深刻にとらえない傾向、があげられる。
(2)新しい限定的軍事力論限定的軍事力論の系譜にたつ議論は、立憲主義の観点から、 2段階改憲論 2(1)②と対峙する。また 2

(1)③および ④のような政府の憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の限定的合憲化に対しても、手続の点で批判的立場をとることがある。しかし内容面においては 2(1)④をそれを受容する傾向もある。

このような議論の道具立てとしては、これまでの限定的軍事力論を踏襲しつつ、
①集団的自衛権概念の組み替え、
②軍事力と警察力の境界の曖昧化
③ 2(1)④における「限定性」への高い評価、がある。

他方、(主流の?)憲法的平和主義論は、積極的平和政治に対して明確に批判的な立場をとる( 7・18憲法研究者声明)。他方で憲法的平和主義論は、「積極的平和」政治を支える政治的・経済的状況のとらえ方を克服するという課題の点で、まだ多数派 形成につながる議論を確立できていないとおもわれる(たとえば「中国の脅威」論やそれを梃子とする抑止力論、さらにや「テロリズムの脅威」論)。
参考文献永山茂樹「限定的軍事力論と民主主義法学」法の科学 41号( 2010)論究ジュリスト「憲法 ”改正 ”問題 .国家のあり方とは」(2014年春号)法律時報「岐路に立つ憲法 .その基礎概念・再考」(2014年 5号)別冊法学セミナー「集団的自衛権容認を批判する」(2014)
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